企業のグローバル展開の進展とともに、グローバル人材に注目が集まり出して、すでに5年近くになります。その間、リーマンショックや東日本大震災などで、企業経営に逆風が吹く時期もありましたが、現在、ほとんどの大手企業において「グローバル人材」という言葉が浸透しています。と同時に、当初のような「社員全員グローバル化」といった狙いの定まらない話は少なくなり、的を絞った人材育成・人材採用が定着してきたともいえます。今回は、そのグローバル人材について、採用のトレンドから考えてみます。レポートは、HRmics編集長の海老原嗣生です。※2013/12/12の記事です。
猫も杓子もグローバルと騒いでいた3~4年前とはだいぶ様相が変わってきた。そう、企業もグローバル化についてだいぶノウハウを貯めてきたところなのだろう。
グローバル人材の確保策としては、社内での適性ある人材を選んだグローバル教育と、将来性豊かで日本文化にも慣れている外国人留学生の採用、そして、超ハイレベルな現地大学生のピンポイント採用という形に収束してきた感がある。
要は、内部人材の育成と、外国人材の早期登用といえるだろう。
それでは、中途系のグローバル人材採用はどうなっているのか。
こうした即戦力人材を求めるケースは、社内にまだグローバル人材が育っていない、中堅・中小規模の企業の海外進出に伴う場合が多くなっている。採用企業は大きく分けて、機械・電気・輸送機器系のメーカーと、広告やECなどのサービス業となる。
今回は、この2つのグローバル人材採用の流れについて、レポートしていくことにしよう。
まずは、メーカー系の採用。こちらは、現地事業所(主に製造拠点)のトップを張れる人材がターゲットとなる。最終製品を作り上げる大手企業はすでに進出が終わっているため、その傘下や取引先となる部品メーカーが採用の主体。たとえば、自動車関連でいうと、足回りや電装部品などのTier2(T2)~T3クラスの企業といえば分かりやすいだろう。
大手メーカーも進出当初は、先行して進出した競合とともに現地に根を張った傘下企業から部品を調達し、残りは国内から仕入れていた。そのうち、事業規模が拡大するに伴って、自社傘下企業に現地進出を促す。この流れの中で、T2、T3クラスの部品メーカーが現在、海外進出を本格化させているのだ。
こうした新たな中規模工場の立ち上げのノウハウを有している人材に対して、各企業間で獲得競争が激しくなっている。その結果、人材不足が起こり、採用スペックは若干下がり気味だという。
ではどのくらいスペックの緩和がなされたのかというと、以下の通りとなる。
まず、経験した国。これは、その国にドンピシャである必要はない。周辺国であればOK。
そして、現地語はカタコトで十分。工場に1人は必ず現地人通訳がいるからだ。そして、向こうには日本村ができており、その関係の中で通訳は融通可能。本当に困ったときは、上位の大手メーカーが面倒を見てくれるからだ。問われるのは現地語よりもむしろ英語レベルだという。
最後に業界経験だが、こちらは、「広い意味で同業」であればかまわない。たとえば、自動車の計装系と足回りではずいぶんと技術内容もステークホルダーも異なる。がしかし、広い意味でどちらも「自動車」なので、互いに採用されるケースが増えているのだ。
自動車業界なら品質管理についての統一基準があるため、その基準の意味が理解できるだろう。これが第一の理由。第二の理由は実際の技術指導や細かなライン設計に関しては、自社のベテランがサポートに出張すればいいからだ。それよりも、工場の立ち上げに必要なのは、周辺業者の開拓や、労働者確保、用地確保、コネクションづくりなどであり、こうしたノウハウはかなりの部分、共通する。だから、「広い意味で同業」出身であればいいという。
ただ、ロシアやメキシコ、東欧などでは、これくらい基準を緩和してもなかなかふさわしい人材が見つからない。また、自動車以外の産業では、アジアでもそれほど人材が豊富とはいえない。ということで、人が動くのは、「アジア」かつ「自動車」ということに落ち着く。
彼らは、ぴったりの専門分野の人材ではないが、それなりの好条件で採用されることになる。具体的には日本の社員の駐在員相当が基準となる。この場合だと、本俸のほかに、ハードシップ手当などが上乗せされ、国内の同職の年収より2割程度アップする。しかも、住宅・自動車・お手伝いさんの費用なども別途支給されることが多い。昨今、海外赴任が半ば常識にもなりつつある大手企業では、こうした附帯収入を減じるケースが増えている中で、非常に有利な条件といえる。
ここまでの好条件を維持できなかったとしても、最低でも国内同職務の年収以上が絶対条件となり、それ以下では「他社に逃げられてしまう」そうだ。現地の給与・物価水準を考えれば、やはりそこそこの好条件といえるだろう。
ここまで好条件で雇われた彼らだが、2~3年すると、また転職して、同じような「立ち上げ事業所」に移るケースが多い。
それにはいくつかの理由がある。まず、彼らの最大のノウハウである「立ち上げ」が終わり、その後は、生産管理や歩留まりアップなどの、本業のノウハウが重要になること。同時に、その時期になると、出張ベースで来訪していた日本の社員が次第に現地に馴れて采配を振るえるようになっていること。同時に、現地採用された優秀層が頭角を現し、やはり、かなりなポジションを狙えるようになっていること。こうした理由から、彼らのその企業における重要性が薄れていくのだ。
ただし、彼らはこうした変転を後ろ向きにはまったくとらえていない。なぜか。彼らの多くは、もともと、中堅規模の企業や外資系にいた。それが、事業所の撤退のタイミングで転職を決断したケースが多い(超大手だと撤退時に日本や周辺国にポストが用意されるため、転職はあまりしない)。ある面、企業にしがみつくよりも、自分で将来を切り開く醍醐味を知っているのだ。
同時に、現地の生活費の安さ、住み心地のよさ、そして、一から事業所を立ち上げ、ビジネスが広がる楽しさも知っている。だから、喜んで現地で新天地を見つけていくのだという。
さて、もう一方のサービス業の方の「グローバル採用」はどうなっているのか。こちらは、Web制作やWeb広告などを手掛ける日本企業で、現地の日本企業の広報部相手に仕事をすることになる。クライアントは確かに日本企業・日本人であることが多いのだが、現地の広告制作会社や代理店などに発注する仕事や、現地でのメディアコントロールに携わる。ということで、先ほどのメーカーの事例とは異なり、現地語に堪能であることが求められる。また、商材によって広告を載せる媒体も異なるし、商慣習も違うため、かなり近い領域での広報・制作経験者、それも実務者ではなく管理・監督者レベルがターゲットとなる。
こうした経験者の紹介となるため、候補者が現れるのは、進出規模が大きく歴史もある、中国やタイ、シンガポールなどに限られてくる。そのため、こちらはそれほど大きな人材の流れとはなっていないようだ。
ただ、こうした分野では、意外にも、もう少しエントリーレベルに近いような、アシスタント人材がかなり転職をしている。年収でいうと、200~300万円程度。仕事内容は、パッケージ商品のセールスや、もっと単純なトラフィック(運搬)や軽作業などだ。ある程度英語ができる日本人で、カタコトの現地語も操れれば採用となる。そんな転職がけっこう多くみられるのだ。
これはどういうことなのか、説明しておこう。
現地に進出した日本企業は、現地採用のスタッフと言葉の壁に困ることが多い。社内であれば、そうした問題もなんとか乗り越えることができるが、顧客先で言葉の壁が起きると商機を逃すことになる。現地で現地人がビジネスをする限り、言葉の壁はなさそうに感じるが、それは間違いだ。なぜなら、このケースではクライアントが日本企業となる。発注責任者は日本人である場合が多い。とすると、現地語よりも日本語ができる人材、日本の商習慣を知っている人材が欲しい。そこで、スペックを緩和して、日本人の若年人材を採用することになる。この流れの中で、スペックの緩い日本人の営業担当の採用が増えているという。前述したとおり、200~300万円の年収なので、現地の給与水準よりはかなり高いが、日本国内と比べれば半分程度。
さて、どんな人がこの求人に応募するのだろうか。そのプロフィールは、
要は、夢見る若者的な人たちだ。彼らは、日本での年功序列的な下積みに耐えきれず、海外へと渡航し、こうした求人に応募する。仕事内容は、難易度が低いアシスタント業務が主流だから、つらい思いも少なく、残業はほとんどない。年収は大幅ダウンではあるが、現地の物価水準からすれば、生活レベルは上がる。
彼らにとっては、まさに願ったりかなったりだが、数年すると、大きな壁に突き当たるという。
こうした仕事は、実は幕間の場つなぎのようなものなのだ。なぜなら、クライアントとなる相手先企業も、最初のうちは決済を持つ役職者のほとんどが日本人ではあるが、定着するうちに、前述のように現地の優秀層を抜擢するようになる。そして、現地人が決済権を握りだすと、現地語ができない日本人が営業をしていてもあまり価値はなくなる。
彼らが、そのころまでに、現地語や現地の習慣を覚え、しかも、マネジメントや教育的な立場に立つか、もしくは、難易度の高い営業をこなせるように成長しているなら、職を追われることはないだろう。
がしかし、多くは、楽な仕事を早く終えて自由を楽しむという生活に明け暮れている。成長が少ない状態で、唯一の武器である「日本語」が通用しなくなったとき、彼らは、職を追われることになるのだ。
すでに、リーマンショック後の新卒採用環境が苦しかった2010年くらいからこうした海外流出が始まり、その様が、大手新聞を中心に、「日本より世界を選んだ若者」と喧伝されたことを覚えている人も多いだろう。そうした先発組が、まさに今、職を追われて、転職を試み始めている。そして、想像通り、習熟とほど遠い生活をしていた彼らには、新たな職が見つからないという壁に突き当たっている。
苦あれば楽あり、楽あれば苦あり。やはりキャリアに抜け道はないのだろう。
日本でも海外でも、長い人生を全うするためには、地道に能力アップに励むことが重要なのだ。
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