今年もまたMRの採用がそろそろピークに入りつつあります。外資系医薬品メーカーの採用予算がFixする1月から募集が始まり、この時期に採用が本格化するというのがここ数年の動き。そして、秋口まで若年未経験者採用の主役として君臨し続ける、未経験MR採用。若手営業を募集する他業界から見ると、「また手ごわい医薬品メーカーが採用競合になるのか」という思いが頭をよぎるはず。MRの入社後キャリアを題材に、HRmics編集長の海老原嗣生氏がレポートします。※2011/05/12の記事です。
MRは大学新卒者も製薬メーカーを中心に数多く採用している。それも、医薬関連だけに薬学部出身者がメインかというと、それだけではなく、MARCHもしくは関西六大学、地方国立などの上位校生を多数採用しているのだ。MRという仕事柄、薬学部の採用者が多くを占めるが、やはり営業行為を行う仕事でもあるため、対人折衝能力の高い文系卒者もターゲットとなる。そこで、こうした文系の上位大学生が新卒採用の半数程度を占めているだろう。
MRは資格取得のための勉強期間が半年程度必要。そのうえ社会人教育や営業指導などを行っていると、営業に出るまでにしばらくの準備期間が必要となる。こうした「基礎教育」をスムーズに行うためにも、上位校の成績優秀者をターゲットとしているのかもしれない。年収は基本給と賞与で450万円程度、これに住宅手当や営業手当なども加わるため、初年度年収はかなり良い金額となる。その上、じっくり基礎教育がしてもらえる。こんな売りがあるから、製薬メーカーのMRはエリート学生層からもそれなりに人気を博している。
ただ、この「1年」の準備期間を用意できるのは、基礎研究や創薬などでも「先行投資」を惜しみなくしている大手製薬メーカーに限られる。営業が生業で採用者もできる限り早期に戦力化を図りたいCSO(Contract Research Organization)などでは、新卒採用は原則、行っていない。そこで、CSO各社や一部外資系メーカーは、より戦力化が早い若年社会人対象の未経験者募集を採用の主軸に置く。ここに、新薬を発売したばかりで人手不足の大手製薬メーカーなどが絡まり、毎年この時期に「若年業界未経験者」をターゲットとした採用が繰り広げられる。それが、恒例のMR大募集となるわけだ。この対象は、何かしらの分野で「営業」を1年以上は経験していることが必須となる。彼らなら、社会人マナーも熟知し、顧客折衝についても基礎行動は身に付いているので、あとはMR資格取得のための教育を3ヶ月程度施せば、すぐ戦力となる。確かに、MR経験者を採用すればもっと簡単に業績を上げることは可能だが、こうした経験者は数が少ない上に、そのうえ、採用できたとしても、高給。そうしたことを考えると、若年営業経験者を他業界から採用するのが効率的という結論になる。そこで、この「大規模採用」が繰り返されるのだ。
ここでも、ターゲット層を惹きつける力をもっている。一つは、やはり好待遇。こちらも新卒同様、手当込み450-500万円というのが基本線となる。二つ目は、営業力や人物を精査するため、大学レベルには新卒ほどこだわらなくなること。3つ目が、3ヶ月から半年のOffJT研修。これはMR資格対策として当然必要な知識を学ぶためのものなのだが、前職でハードな営業を行ってきた人たちにとっては、精神・体力両面で骨休めとなり、一区切りがつけられる。
こうした条件がそろうために、若手営業系の絶好の転職先となっていく。これが、他業界が「若年社会人採用」に苦しむ中、MR系が毎年早々に採用充足させていく理由といえるだろう。
ここでひとつ疑問が思い浮かぶかもしれない。どのようにいくら基礎教育をされたとはいえ、大学新卒者や他業界出身者というずぶの素人が、全く不慣れな医療分野で、ましてや命に関わる繊細な商品を、気難しい人が多そうな医師・薬剤師相手に、いきなり営業ができるのか?
この部分がまた、よくできている。大手メーカーも、難易度の高い顧客については、あくまでも自社のベテラン腕利きMRにその営業を任せる。こうした重点分野にベテランを回すため、販売がそれほど難しくない人手不足の分野に、自社やCSOの若手MRを投入する。こんな形だから、比較的入社時のハードルは低く仕事に入り込んでいくことができるのだ。
そうして5年程度この業界で経験を積み、いっぱしのMRとなった彼らはどんな人物となっているか。人柄的には、あくまで「素直」で「真面目」が基本で、相手の気分を悪くさせないこと。無茶なごり押し営業などは返って関係を壊すなどもってのほか。そういう意味で、「腕利き営業」というより、「人当たりのよい紳士」といった雰囲気といえるだろう。
とはいえ、商品情報に詳しく、医師の気づかない「薬の取り合わせ」やオフ・ザ・レーベル(用途外適応)などの情報を的確にサジェスチョンできるようなプロ。
彼らは、病院や薬局にコネクションができ、医師や薬剤師といった専門家との意思疎通もそつなくこなせ、そのうえ薬剤に関する知識も深くなり、さらに、薬ごとに異なる営業スタイルもバッチリ頭に入っている。ただ、ここまで育つMRは、全体の半分程度となっている。まず、薬剤師出身のMRは管理薬剤師の話や、うまくいくと研究系の仕事なども見つかるため減少。文系出身者や他業界出身者でも、転勤や家庭の事情で辞めてしまうケースもままある。そこで、ベテランMRは貴重な存在となっていく。とりわけ、高脂血症やオンコロジー、糖尿、認知症など、高齢化に伴いますます需要が増える領域をよく知るMRは引く手あまたとなる。
高年収で彼らを誘う企業が多々あるため、勤務地や勤務条件、環境等が合わない場合、彼らは迷わず転職をする。さらに、新薬発売時と端境期で繁閑差が大きいために、転職が促されるという事情もある。こんな環境にあるために、彼らは欧米のビジネスパーソンさながらに、職を変える。そして、そのたびに、年収をアップしていくのだ。結果、30代後半で1,000万の年収を手にする人も決して珍しくはない、というのがMRという仕事といえる。
こうした「専門的」で「高年収」のMRという仕事に魅かれて、多くの若年転職者が、毎年、この業界に引き寄せられていく。他業界からすると戦々恐々というところだろう。
この「高年収」「専門的」「会社に頼らず生きていける」という3条件揃ったMRという仕事に死角はあるか?
意外だが、「成長実感が得られない」という声を聞くことがある。確かに「専門知識」や「コネクション」などは日々蓄積されているが、基本的な仕事内容自体はそれほど変わらない、という宿命がついて回る。
こんな話がわかりやすいだろう。40歳になって振り返ったとき、そこには、「腕を磨いてはいる」が、20代のころと同じ仕事をしている自分がいる。一方、他業界の大手企業に入り、若いうちは苦労と我慢と安月給が続いた同輩たちは、どうなっているか?50人とか100人のメンバーをかかえて、数百億単位の大きな仕事をしていたりする。その内容は大きく異なっている。大手のビジネスパーソンで生きるとは、こうした「組織内」での成長実感を獲得できることが、一番の対価なのだといえるかもしれない。
「自由で高給で組織に捉われない」分、一つの仕事を突き詰めることになる生き方か、「組織の一員として、自由はないが、年代ステージごとに、仕事が大きくなり成長実感を得られる」生き方か。そのどちらが良いかは、個人のキャリアに対する考え方次第と言えるだろう。
ただ、
「あなたは、これから40年、同じ仕事をしていく腹決めができていますか?それほどこの仕事に人生を賭ける決意がありますか?」
この問にYESと答えられるかどうか、だけは自問しておくべきかもしれない。
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