採用が人事の入口だとしたら、退職は出口、特に定年は最終出口だといえます。終わりよければすべてよし。人事担当者は、定年に関しても「達人」であるべきでしょう。高齢化がますます進む日本。つい先ごろ、政府の研究会が65歳への引き上げを訴えるなど定年制に新たな注目が集まっています。
今回から2回にわたりお届けします。HRmics副編集長の荻野進介氏がレポートします。※2011/09/01の記事です。
6月下旬、厚生労働省が設置した「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が報告書を発表した。その中心となっているのは、2013年度までに、法律で定めた定年年齢を現在の60歳から65歳まで引き上げられるよう、引き続き議論を深めていくべきだ、という提案だ。
これには年金問題がからんでいる。すなわち、サラリーマンが受け取る厚生年金は1階の基礎年金部分と2階の報酬比例部分に分かれているのはご承知の通りだが、既に1階部分の支給開始年齢は2001年度から、60歳から1歳ずつ、3年おきに引き上げられ(現在は64歳)、2013年度には65歳になる。2階部分も、2013年度から、同じく60歳から1歳ずつ、3年おきに引き上げられ、2025年度には65歳となる。
そうなると、2013年に60歳となり定年を迎えた人たちの中から、働かないと生計が成り立たないのに、適当な仕事が見つからず、かといって、1階、2階のどちらの年金にも頼れない、無収入・無年金の貧困者が生まれてしまう可能性があるのだ。雇用と年金の接続を図る。これが定年引上げの最も大きな理由なのである。
これについては、財界総本山の経団連が反対意見を出した。理由は次の4点だ(経団連のホームページに掲載されているものの要旨)。
1は人件費の増大と、それによる労働需要の減退と失業率の上昇を憂いているもの、と読めるが、前者はともかく、後者、すなわち、高齢優遇が若年の雇用を阻害する、という理屈は事実とは反する。既述の通り、1980年代にすでに多くの企業は定年を55歳から60歳へと変更していたが、このときに、若年層の雇用が阻害されたという事実はデータでは確認できない。1980年代前半は長期景気低落期で確かに新卒採用が停滞し、逆に1980年代後半はバブルで新卒採用は急増した。1980年代全般を通していえば、その前の1970年代と1960年代同様、景気による増減の影響が濃かった、といえるからだ。
さらに、これは同研究会の報告書でも指摘されていることだが、若年の失業問題を解決するため、ドイツやフランスで高齢者の企業からの早期引退を促進する施策が採られたことがあったが、結局、さしたる成果につながらなかった。素直に考えればわかることだが、そもそも、若年と高齢者では企業が求めるニーズが違うのである。
4については補足が必要だろう。2006年から施行されている改正高齢者雇用安定法は、企業に対して、<1>定年の引き上げ、<2>継続雇用制度の導入、<3>定年制度の廃止のうち、いずれかの雇用確保措置を講じることを義務化した。
その措置は2013年度までの段階実施でよい、とされたが、2010年には既に全企業の96.6%が実施している。図表1をご覧いただきたい。<1>定年の引き上げ、<2>継続雇用制度の導入、<3>定年制度の廃止、のうち、<2>を選択した企業が圧倒的に多く、8割を超えている。定年の引き上げや定年制度の廃止に踏み切る企業が少ないのは、今回、経団連がまさに掲げた1と2の理由によるものと考えられる。
その2つと比較すると、継続雇用制度は、現在の人事システムを維持したまま、定年後の高齢者活用にあたり、対象者、雇用形態、労働時間などを企業側がコントロールできる点にメリットがあるのだ。
現在のところ、希望者全員の就業を許可する企業は少数派である。図表2は、2010年に発表された日本労働政策・研修機構による「高齢者の雇用・採用に関する調査」による数値である。希望者全員を継続雇用させている企業は全体の3割にも満たない。
その際の選別基準を尋ねたのが図表3である(複数回答)。「健康上の支障がないこと」、「働く意思・意欲があること」、「出勤率、勤務態度」が高いポイントを稼いでいるのは、その通りだろう。そのあとに、「会社が提示する職務内容に合意できること」が続くのは、本人が希望する職務と、会社がやって欲しい職務が食い違う場合がある、ということだ。「一定の業績評価」が次に重視されていることを考え合わせると、お飾りや功労ではなく、定年前と変わらず、きちんとした成果を上げられる人でなければ継続雇用は許可されない、ということである。
実はこの継続雇用制度に重要な問題が発生している。通常、嘱託または契約社員という形で、1年単位の有期雇用になる場合が多いのだが、業績不振などを理由に契約の更新がなされなかった高齢者が訴訟を起こす事件が頻発し、いずれも企業側が敗訴しているのだ。
その最初だったのが、ディスプレイ器具やマネキンをつくるメーカーに入社後、子会社に移り、2008年6月に定年を迎えた大津市の男性の例。定年になると同時に「体力や意欲面で衰えがなければ、64歳までの間、1年契約で再雇用される」という就業規則に即して、同社に再雇用されたが、翌2009年6月、会社側が不況を理由に契約更新をせず、結果的に男性は雇い止めとなってしまった。
これを不服とした男性は地位確認と未払い賃金の支払いを求め、京都地裁に提訴したが敗訴。さらに大阪高裁に抗告したところ、昨年6月、男性側勝利の判決が下された。
裁判官は、「男性以外の複数の継続雇用者は不況にもかかわらず、再雇用されたことなどから、会社は男性に対する雇用継続の努力を尽くしていない」と指摘するとともに、「男性が60歳の定年までの間、期間の定めなく勤務してきたことを考え合わせると、この再雇用契約も期間の定めのない雇用契約に類似したものである」と述べ、男性の、雇用継続に対する「期待権」を認め、会社側の措置は解雇権の濫用だとし、賃金の仮払いを命令した。
類似した事件は今年も起こっている。福岡市の建具製造会社から同じように雇い止めをされた男性が福岡地裁に仮処分申請を求めた事件で、こちらも男性が勝訴している。この他、60歳の定年を迎えたのに、再雇用そのものを会社から拒否された札幌市の男性が、会社を相手どって裁判を起こし、勝訴した事件も昨年発生している。
企業は再雇用を希望する労働者の意思をないがしろにできない。さらに一旦、再雇用されたら、その雇用契約は毎年更新されるのが労働者の「期待権」として認められるとなると、そこから「65歳定年制」までの道のりはもう少しである。裁判所が、こうやって65歳定年制までの地ならしをしているのかもしれない。
冒頭に述べた研究会の報告書は厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会にこの秋、提出される。それをもとに、順調に行けば来年の通常国会で高年齢者雇用安定法の改正案が審議される。定年制はどうなるか、まずは見守っていきたい。
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