東大9月入学問題を考える

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秋入学への道に着々とレールが敷かれています。

2015年に向けて、東京大学が入学時期を現状の春から秋に全面移行するプランを発表しました。これまでも散々、議論の俎上に載せられてきたものの、教育界全体としてはお話のみで終わってきた秋入学制度。ところが今回、東京大学がかなり本気の腕まくりをするや否や、追随する有名・難関大学が増え、さしたる反対論もないまま、どうやらレールが着々と敷かれそうな気配です。その裏には何があるのか、HRmics副編集長の荻野がレポートします。※2012/02/23の記事です。

東大9月入学は、中身が伴わないお得意の「ハコモノ行政」

東大9月入学は、中身が伴わないお得意の「ハコモノ行政」

明治41年(1908年)9月1日から朝日新聞で連載がはじまった夏目漱石の『三四郎』では、田舎の高校を卒業し東大に入った主人公が最初の授業を受けるのが9月半ばという設定になっている。

東大も当時は9月入学だった。東大の諸々の制度は、当時から9月入学だった西洋の大学をモデルに、お雇い西洋人主導でつくられたから当然といえるだろう。

現状の4月入学は大正10年(1921年)を嚆矢とする。東大が学内評議会を開き、文部省の勧告をしぶしぶ受け入れた翌年のことだった。

当時、小学校および師範学校は4月入学だった。前者の場合、長く随意入学(いつ入学してもよい)が普通だったが、明治19年(1886年)に国の会計年度が4月開始になり、学事暦を一般行政に一致させることが望ましい、とされたので、そう変わった。

師範学校に関しては、同じく会計年度の問題と、同年の徴兵令改正により、徴兵適齢者の届出期日がそれまでの9月から4月に変わったことが影響した。そのまま9月入学を変えずにいると、身体壮健で頭脳も優秀な師範学校志望者が軍に獲られてしまうことを恐れたのだ。

9月入学と4月入学。そこにずれがあると、せっかく秩序ある生活態度を身につけた学生が半年間で元の木阿弥になってしまう。その間、悪い道に染まる若者が増えても困る、まして補習科や専門学校に入ってしまい徴兵猶予の隠れ蓑にされたら国家の一大事だ……文部省は、何とか4月入学に一本化させたかった。法律を制定し、明治34年(1901年)に中学校を、次いで大正8年(1919年)に高等学校を、それぞれ4月入学とした。

ここまで外堀を埋められたら、大学もそうせざるを得ない。大正10年(1921年)以来、東大をはじめとした主要大学が4月入学に移行していったのである。

9月入学 4つの意義とは

入学時期の歴史をざっとおさらいしたところで、本題に入ろう。

世界215カ国中、4月入学は日本やインドなどの7カ国で、欧米ほか、中国も含めた多くの国が9月入学だというが、そもそも東大はなぜ9月入学を決断したのか。

その主張は「入学時期の在り方に関する懇談会『中間とりまとめ』」(以下、とりまとめ)に詳しく述べられている。

そこでは、9月入学の意義として、①国際的な学生の流動性の向上(海外留学の促進と、外国人留学生の受け入れ拡大)、②学事暦の見直しによる教育の有効性の向上、③(高校卒業と東大入学の間の半年間の)ギャップタームを活用した学習体験の豊富化、④グローバル化推進など社会へのインパクト、の4つが挙げられている。このうち、筆頭に掲げられた①が主目的であるのは誰の目にも明らかだろう。

②については、9月入学にすると、夏休みが学年の終わりにくることになるから、(学年の中間に夏休みがくる4月入学と違って)学生の勉学効率が向上するとともに、夏休みの間、勉強を気にせず、目一杯、他の活動に集中できる、というメリットが挙げられている。その通りかもしれないが、違うかもしれない。要は、学生と教師の意識の問題で、現行の4月入学でもさしたる違いがあるとは思えない。

③のメリットとして、ボランティアやインターンシップなど、さまざまな体験を積むことができる、入学前教育を充実させることができる、受験戦争を通じて染み付いた点数至上主義の価値観をリセットするのに使える、などと説かれるが、これも取ってつけたような理屈に思える。せいぜい、多くの学生が一番手軽な社会勉強(=アルバイト)に精を出すだけではないか。あるいは、ギャップタームに目をつけた新たな教育ビジネスが勃興し、親の懐が二重に寂しくなるだけかもしれない。

④では、社会が多様な学習体験を認知・評価するようになり、人材育成の重要性に関する機運が盛り上がること、採用時期や採用手法、海外体験の積極的評価など、企業が採用活動を見直すことなどがメリットとして挙げられているが、いずれも9月入学を断行する主目的でないことは明らかである。

9月入学に移行しても日本人留学生はさして増えない

さて、余計な論点は脇においやったところで、早速、①を検討しよう。まずは日本から外に出て行く留学生の増加という問題である。

件の「とりまとめ」によると、東大から海外の大学に行く学生の数は学部段階で0.4%(53人)、大学院段階で2.1%(286人)となっている(いずれも2011 年5月時点)。「とりまとめ」はその数の少なさを嘆いたうえで、こう続ける。

〈こうした学生の意識と現実の行動とを乖離させ、海外留学を阻害する要因は様々であるが、入学時期や学期のズレが一つの要因となっていると考えられる(中略)。本学学部学生へのアンケートによれば、留学の阻害要因として、約4割の者が「大学の年間スケジュールや大学院・就職試験が留学の妨げになった」を挙げており、ついで経済的問題、語学力不足を理由に挙げている〉

これを読むと、スケジュールの問題を解決すれば学生はもっと留学するのだろうな、と思うだろうが、それは早合点というもの。元のデータを見てほしい。

表1:東京大学 学生へのアンケート調査

「あてはまる」と「まああてはまる」を合わせて39.7%、約4割となるが、「あまりあてはまらない」「あてはまらない」を足すと57.4%。つまり残り約6割の多数が、留学を躊躇するのは大学の年間スケジュールとは関係ない、と言っているのだ。しかも、東大生の場合、「就職試験」も留学の妨げにはならないはずである。なぜなら、東大生の就職先と目される日本経団連傘下の主要大手企業の採用時期は、ご存じのとおり、4年4月に集中する。留学して難度の高い研究を行うような成績優秀な東大生ならば、この時期にその多くが内定を得ているだろう。人事・採用のシンクタンク、HRプロのデータを見ても、旧帝大クラスの学生の9割近くが4月に内定を得ている。就職活動の長期化で悩む、中下位校と一緒にして論じるのはおおまちがいだ。

4月に内定を取り、じっくりと継続研究し、さらに留学準備の時間もある。それでも、多くの東大生は留学をしていないのが現実なのだ。

同じように見ていくと、経済的問題も、語学力不足も、留学阻害の要因としては「あてはまらない」と答えた学生の割合のほうが高い。本気で留学させたかったら、学生はなぜ留学しないのか、という原点から考え、調査設計を行うべきではないだろうか。この調査、我が田んぼにうまく水を引くべく、留学阻害の問題を学事暦の問題に無理やり結びつけたとしか思えないのである。

9月入学の真の目的は外国人留学生の獲得

同じ「とりまとめ」で、外国人留学生の項を見てみる。

現在、大学院レベルにおいては、東大に来た留学生の割合は18.6%(2,690人)まで高まっているのに対して、学部の数字は1.9%(276人)に止まっている(いずれも2011年5月時点)。「とりまとめ」は、大学院はともかく学部の数字の低さを嘆く。

ところが全体の伸びは結構顕著なのだ。大学院、学部の合計数字は2966人、21年前の1990年が1,480人だったから、東大に来る留学生の数はこの20年あまりでちょうど倍増している。が、それでも少ない、というわけなのだ。どうしたら増えるのか。「とりまとめ」が強調するのが、もちろん9月入学への移行である。

これについて、東大の現役留学生に実施したアンケートが以下だ。

表2:東京大学 留学生へのアンケート調査

これを見ると、前のアンケートで見られたような情報操作はない。結果を素直に読むと、9月入学によって、数はともかく、外からの留学生が増えるのはまず間違いない。

ただ、一点、補足しておきたい。「とりまとめ」は(東大に比べ)海外有力大学の留学生比率(学部)の高さを強調する。具体的には、ハーバード大学(10%)、スタンフォード大学(7%)、イェール大学(10%)、北京大学(5%)、香港大学(8%)、ソウル大学(6%)、シンガポール大学(21%)であるが、この中には実は9月入学ではない大学が2つ含まれている。3月入学のソウル大学であり、8月入学のシンガポール大学である。「とりまとめ」は、本文ではこの事実を明かさない。付録の資料集を精査するとその事実がわかる。8月のシンガポール大学はともかくも、4月と1カ月違うだけのソウル大学の留学生比率がなぜ高いのかを調べて記載すべきではないか。

どうやら、構図が見えてきたようだ。東大が9月入学を進めたい本当の動機は外からの留学生を、より一層、獲得したいからだろう。ギャップタームなどというもっともらしい名前をつけているが、その大義のために、日本人学生は半年間、待っていてね、ということではないか。

「留学生30万人計画」との関連は

1月20日、東大の濱田総長が9月入学への移行を発表した途端、周囲から、賛成の声が次々にあがった。野田総理が構想を評価し、官民あげての議論の必要性を訴えたかと思うと、藤村官房長官は検討事項や問題点の検討を各省庁に指示。古川国家戦略担当大臣は官僚の9月入省も検討すると述べている。日本経団連の米倉会長も「経済界として歓迎したい」と応じた。東大が単独で動いたとはあまり考えられない。その裏に監督官庁である文科省の周到な根回しがあったのではないか。

というのも、最近、日本の大学の9月入学への移行を促した大々的プランを描いたのが文科省だからだ。2008年7月、文科省が主導して作成した「留学生30万人計画」がそれ。日本を「開かれた国」にすべく、人、物、金、情報の流れを拡大させるグローバル国家戦略の一環として、「2020年をめどに留学生受け入れ30万人を目指す」という内容だった。

方策のひとつとして、「大学等のグローバル化の推進」が挙げられ、〈留学生の受入れや日本人学生の海外留学の推進を図るため、大学等における9月入学を促進〉という記述が現にある。

計画の進捗はどうなっているかというと、2008年時点での留学生の総数は12万3,829人、2010年はその数が14万1,774人までいったものの、震災の影響が大きいのだろう、2011年は13万8,075人まで下がってしまった(日本学生支援機構調べ)。

文科省がこんなにも留学生の受け入れに血眼になるのは理由があった。少子化の影響をもろに受け、定員割れのため、倒産寸前の大学が年々増えているのだ。国内からの受け入れが無理なら、外から学生を呼び込むしかない。それが形になったのが「30万人計画」なのである。

ところがスタートしたものの、数の伸びが芳しくない。残すところあと9年で、現状の倍以上の数を確保できなければ計画の達成はおぼつかない。そこで、「即効薬としての9月入学への移行をまず東大から」と文科省が働きかけたか、もしくは東大の働きかけに文科省が乗ったか。いずれにせよ、文科省も構想に一枚、噛んでいるのではないだろうか。でなければ、北大、東北大、筑波大、東工大、一橋大、名大、京大、阪大、九大、早大、慶大といった錚々たる大学がすぐに賛意を示すはずがない。

こうした、頂上作戦で「形を整える」という方式、いつもの行政的なマクロ施策として読み取ると、わかりやすい。しかし、一方で日本から外国に留学する学生が増えない理由は全く別のところにある。同様に、外国の優秀層が日本の大学を目指さない理由も、「時期」の問題よりも、日本の国力や大学の研究水準に魅力がないことの方が大きいだろう。

「形さえ整えれば水は流れる」というハコモノ行政の失敗は痛いほど経験したにもかかわらず、まだ、行政は同じ轍を踏むのだろうか。

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