派遣法再改正の動きを追う―これまでの議論と今回の焦点

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派遣先にもキャリアアップ責任が課される可能性があるかもしれません。

今年も通常国会が幕を開けました。歴史的な消費税増税法案が可決された昨年の通常国会では、労働関係でも、3つの重要法案が成立しました。日雇い派遣の原則禁止や違法派遣に対する罰則強化を規定した改正労働者派遣法、有期雇用の上限を5年と定めた改正労働者契約法、希望者全員、65歳までの雇用を義務づけた改正高年齢者雇用安定法の3つです。さて、このうち、早くも見直しに向け議論がスタートしているのが労働者派遣法です。というのも、昨年3月末の改正案成立時に、「今回の改正は磐石なものではない。あるべき労働者派遣制度の在り方に関する議論を開始せよ」という附帯決議が行われたからです。具体的には、政府主導で「今後の労働者派遣法制度の在り方に関する研究会」(東洋大学・鎌田耕一教授を座長とし、7人の有識者委員で構成)が組織され、昨年10月17日の初回を皮切りに、これまでに計7回の会が開かれています。1月22日に開かれた直近の第7回を傍聴してきたHRmics副編集長の荻野がレポートします。※2013/02/07の記事です。

話し合われるのは7つのテーマ

霞ヶ関にある厚生労働省22階の専用会議室で朝10時から約2時間、開かれた第7回研究会。30ほど設けられた傍聴席はほぼ満員で、この問題に対する関心の深さが窺えた。

この会で話し合われるべき論点は、附帯決議に沿う形で、昨年10月に行われた初回に提示されている。

(1)登録型派遣の在り方、(2)製造業務派遣の在り方、(3)特定労働者派遣事業の在り方、(4)派遣可能期間の制限の在り方、(5)派遣先の責任の在り方、(6)派遣労働者の処遇(均衡待遇、労働社会保険の適用促進を含む)、(7)派遣労働者のキャリアップ措置、の7つである。

これまでに、大学の研究者やシンクタンク研究員、派遣労組、人材派遣および請負の業界団体、派遣会社や派遣労働者本人などを呼んでのヒアリングが行われてきた。年が改まり、それらを踏まえての、会のメンバーによる本格的議論が初めて行われたのが今回だった。

そこでの議論の内容に行く前に、先に示した7つの論点について、昨年までのヒアリングで出た意見を以下にまとめておく(第7回開催時に事務局が配布した資料による)。

昨年までのヒアリング内容

(1)登録型派遣の在り方

豊富な雇用機会の提供、紹介予定派遣などによる安定雇用への橋渡し機能など、そのメリットが指摘されるとともに、日本の派遣制度に不可欠な仕組み、という意見が出る一方、労働者の雇用喪失につながりやすいので、原則禁止とすべき、という意見もあった。

(2)製造業務派遣の在り方

日本のものづくりの根幹を支える制度であり、禁止や規制強化を行うべきではないという意見が出た一方で、雇用の不安定化につながるので禁止すべきという意見もあった。

(3)特定労働者派遣事業の在り方

常用雇用労働者のみが働く特定労働者派遣事業と、そうではない一般労働者派遣事業の区別をなくして一つの制度とするか、特定も一般も、同様の基準による許可制とすべき、という意見が出た(現状は、特定は届出制、一般は許可制となっている。常用の定義は後述する)。

(4)派遣可能期間の制限の在り方

派遣法は業務限定方式を採ることによって派遣可能期間に制限を設けているが、その結果、派遣労働者が派遣先の社員と同じような仕事対応ができず、肩身が狭い思いをしているという声があった。また、優秀な人材ということで派遣先が正社員への登用を考えたとしても、業務が限定されているため、幅広い仕事を任せて適性を見極めることが不可能であり、結果的にキャリアアップの阻害になっている、という意見もあった。

(5)派遣先の責任の在り方

派遣労働者が雇用を失わざるを得ない要因の多くは派遣先にあるので、派遣先にも団体交渉応諾義務や育児介護休業、賃金不払いの連帯責任などの義務を課すべき、という意見が出た。

(6)派遣労働者の処遇(均衡待遇、労働社会保険の適用促進を含む)

事務系派遣労働者から、派遣先に通う通勤交通費が支給されておらず、派遣元にその件を交渉したが、景気が悪いため、支給は難しいと断られたという話が紹介された。また、派遣元からは、派遣先との均衡待遇については派遣先から情報がもらえないことも多く、実現が難しいという意見が出された。EUには、「派遣労働者は派遣先で同一職務に雇用された労働者に適用される待遇を下回ってはいけない」という規定がある。ドイツには直接雇用の労働者との均等待遇原則があるが、労使協約で例外を設けることができるため、実際は必ずしも守られていないという。

(7)派遣労働者のキャリアアップ措置

積極的に派遣を選ぶ人、正社員になれないので仕方なく派遣で働く人、派遣という働き方を一時的に利用している人など、さまざまな志向の派遣労働者に応じたキャリア選択支援を行っていく必要があるという意見が出された。製造業派遣元からは、派遣先による正社員登用は既存の正社員の労働条件との間で不均衡が生じるため、無期雇用、つまり正社員ではなく有期雇用する企業が多いという報告があった。さらに、製造業派遣で働く人からは、最長3年で派遣先が変わるため、なかなかスキルアップができないといった意見、事務系派遣元からは、派遣先の職場コミュニケーションに応じて仕事をするスタイルが多く、派遣先が変わると身につけたスタイルをリセットされるため、専門人材が育ちにくい、という意見も出された。

本当の問題は業務限定方式にある

どうだろう、現行の派遣制度が抱えるかなりの問題点が網羅されているようにも思えるが、こうした問題を一つひとつ改善していけば、果たして理想の派遣法ができあがるのだろうか。残念ながら、かなり難しいといわざるを得ない。現行の派遣法は利害の異なる四種類の人間を想定してつくられており、あちこちで、あちら立てればこちらが立たず、という股裂き状態が起こっているからだ(派遣は間接雇用という複雑な仕組みのため、ある程度、仕方ない面もあるのだが)。

その四者の一つは派遣会社。派遣法はその活動を規制し適切な方向に導く業法としての性格をもっている。もう一つは当の派遣労働者。今回、「派遣労働者保護」という文言が改正法名に冠され、そのための条項も増えたのはご承知の通りで、それまでは業法としての性格のみが強かった。三番目は派遣労働者が実際に働く派遣先である。そして最後、忘れてはいけないのが派遣労働者と同じ職場で働く直接雇用の常用労働者。この人たちの雇用が派遣労働者によって奪われることがないよう(=常用代替防止)、派遣法は業務限定方式を採用している。

この業務限定方式こそ、股裂き状態を生んでいる最たるものだ。確かに、これがあることで、社員の雇用が派遣労働者に代替されることはないだろう。ところが、当の派遣労働者のキャリアアップはどうなるか。前のコメントにあった通り、<よい人材なので派遣先が正社員への登用を考えたとしても、業務が限定されているため、幅広い仕事を任せて適性を見極めることが不可能>ということが起きるのである。

研究会のヒアリングでは、この業務限定方式という規制の在り方についても疑義が出された。

たとえば、

・派遣可能期間の制限を設ける必要があるのなら、業務ごとではなく、個々の派遣労働者ごとの就労期間制限とすべき。あわせて業務区分も廃止すべき。それが派遣労働者のキャリアアップにもつながり、業務を巡る現場の混乱も解消できる。

もうひとつ、

・「派遣労働=キャリア形成を支援する運動」と位置づけ、冗長な利用を防止するとともに、労働者にとって公平なルールとするため、業務区分を撤廃した上で、派遣労働者については同一の派遣先における派遣期間の上限を設けるべき。上限を超えた人に対しては派遣先への直接雇用の呼びかけ、次の派遣先の紹介、派遣会社による常用雇用化といった措置を行い、キャリア形成と雇用継続の双方を図る仕組みとすべき。

いずれも正鵠を得た指摘に思えるが、この方式を改めるとなると、派遣法を一から作り直さなければならなくなる。個人的にはやるべきだと思うが、さすがにそこまでの大手術が行われる見込みは少ない。

常用/非常用ではなく、有期/無期の区別も

さて、過去の議論の紹介が長くなった。これらを踏まえ、第7回で議題となったのは、「派遣労働者の位置づけ」「派遣労働者のキャリアアップ」という2つのテーマ。研究会というからには、委員同士、お互いの意見を反駁し合う丁々発止のやり取りが随所で行われると思われるかもしれないが、座長の問いかけに各委員が並行的に意見を述べ合いというスタイルだった。

まず「派遣労働者の位置づけ」に関してだが、派遣労働者イコール非正規、と見なされるのはおかしいのではないか、という意見が出た。派遣労働者においても、派遣元における期間の定めのない社員となっている人がいる。その人たちは、非正規社員ではなくれっきとした「正社員」なのである。

さらに本質的な問題も提起された。現行の派遣法においては、雇用期間の長短を問わず、事実上、期間の定めがなく雇用されている労働者を「常(時雇)用」労働者とみなしている。具体的には、①(単純に)期間の定めなく雇用されている人、②一定の期間を定めて雇用されている人、もしくは日々雇用される人のうち、その期間が1年を超えて反復継続し、事実上、①と同じ状態になっている人、のことだ。派遣労働者のこうした分類が、常(時雇)用労働者のみが働く特定労働者派遣事業と、そうではない一般労働者派遣事業の区別をとなっているわけだが、単純に、有期か無期かでも分類すべきではないか、というのである。

この議論はそれ以上は深まらなかったが、将来、この議論を現実の派遣制度に反映させるとしたら、(常用雇用労働者のみが働く)特定労働者派遣事業が満たすべきものとして、期間の定めのない労働者を一定比率以上、雇わなければならない、という基準が入る可能性がある。特定労働者派遣事業は一般労働者派遣事業に比べて規制が緩い。労働者の雇用が安定しているからだ。すなわち、一般は許可制なのに対して、特定は届出制で事業がスタートできる。でも、この「常用」が曲者だ。1年の雇用見込みがあれば常用となるのだから。その場合は有期雇用なのであり、期間の定めのない正社員に比べれば、雇用が安定しているとはいえない。ここに、新しい規制が加わる可能性がある。

派遣の常用代替防止機能についても意見が交わされた。正社員になりたくてもなれないため、派遣に就いている人が多く、常用代替なんてとんでもない、派遣も含めた非常用(非正規)労働者の中で代替が起こっているのだ、という指摘があった。

派遣労働者の働きぶりを派遣先もきちんと評価を

「派遣労働者のキャリアアップ」については、全員ではないが特定の労働者には必要だ、という意見が大勢を占める中、ある委員の意見が非常に具体的で、興味深かったので紹介しておく。

キャリアアップに欠かせないのは研修ではない。まずOJTであり、その結果を検証するための「職場における評価」だ。ところが常用派遣労働者(多くはエンジニア)の場合は例外として、その大切な「評価」がほとんど行われていない。正確にいえば、派遣元の担当者が派遣労働者の働きぶりについて派遣先と話し合い、それを担当者が派遣労働者本人に伝える仕組みは機能している。でも三者が同じテーブルで話し合うことはない。

その委員が、派遣先担当者に、三者が揃った形での評価会議を行わない理由を尋ねると、「雇用責任が生じるのが恐い」という答えが返ってきたという。雇用契約を結んでいる先と実際に就業し指示命令を受ける先が別という、間接雇用の複雑さが垣間見える話である。この問題がどういう形で決着するかはわからないが、派遣法が再改正される場合、それこそキャリアアップを望み、それだけの能力がある労働者に関しては、派遣先の雇用責任ならぬ“利用”責任という形で、キャリアアップ支援が新しく明記される可能性は十分にあるだろう。


間もなく、厚生労働省が、派遣先企業2万社、派遣元企業(派遣会社)1万社、派遣労働者2万人という大規模調査を実施、その結果を踏まえつつ、今夏、報告書を作成するというスケジュールで本研究会は動く。それをもとに改正案を話し合うのが年内一杯、早ければ来年の通常国会に改正案が提出される運びか。が、政権も変わったから、法案が提出されたからといってスムーズに可決されるとは限らない。この問題、当分、目が離せない。

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