去る3月末に改正労働者派遣法が衆議院本会議で可決、成立しました。施行は一部を除き、今年10月です。1985年の制定以来、規制緩和の一方向で動いてきた同法を、一転、規制強化の方向へ舵を切らせる改正案が国会に提出されたのが2008年11月。爾来、3年半の間に、政権交代をはさんで3つの法案が提出され、最後の法案が大幅な修正が加えられた後、今回ようやく形になったのです。この問題を追いかけてきたHRmics副編集長の荻野進介が報告します。※2012/05/24の記事です。
労働側は溜め息をつき、派遣業界を含む企業側は胸をなでおろした―――。ようやく成立した改正案は、もともと、登録型派遣、製造業派遣、2ヶ月以下の日雇い派遣、それぞれの禁止を3本柱とする、企業側には極めて厳しい内容だったが、昨年11月、民主・自民・公明の3党がその部分の修正に応じて形になった、という経緯がある。
3つの法案(改正法)の内容を比較したのが下図である。改正法は2008年案と酷似しているのが分かる。なお表に載せていない今回の重要改正事項としては、①グループ企業内派遣の8割規制、②離職した労働者を、離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止、という2つがある。
さて、長きにわたった法改正騒ぎもひと段落し、派遣業界が久方ぶりの平穏な春を謳歌できるか、といえばとんでもない。この間の「派遣叩き」により、派遣市場は売り上げ、派遣労働者の数の双方で落ち込んでいる。
厚生労働省の派遣事業報告書によると、2008年度は7.8兆円規模、約198万人の労働者を擁していた市場が、2010年度には5.3兆円、約147万人に減少した(労働者の数は常用換算)。市場規模で3分の2、労働者規模で4分の3に縮んでいるのだ。そこには、厚労省が推進した「専門26業務派遣適正化プラン」が大きく影響しているのは先のリンク先で書いた通りである。
登録型派遣、製造業派遣の禁止は撤回されたものの、30日以内の短期派遣が禁止されたので、今後、運送業や流通業の「派遣離れ」が進むかもしれないのだ。
さらに派遣法の問題もこれで完全に落ち着いたわけではない。
今回、法案成立にあたって附帯決議が行われた。附帯決議とは、法律そのものではないが、行政執行における義務付けや条件提示という形で、法律の執行を行う行政を拘束するものをいう。「以下の約束を守った上で、新法の執行を認めますよ」という内示のようなものだ。読みやすいように、原文を多少アレンジして掲げてみよう。
一 登録型派遣、製造業派遣、特定労働者派遣のあり方について、改正法施工後1年以内を目途に、改めて労働政策審議会での議論を開始すること
二 専門26業務に該当するか否かにより派遣期間の取り扱いが大きく変わる現制度について、派遣労働者、派遣元、派遣先企業にわかりやすいものになるよう、速やかに見直しを行うこと
三 偽装請負の指導・監督については、(違法派遣防止のための)労働契約申し込みみなし制度が創設されることを踏まえ、丁寧かつ適切に実施すること
四 労働契約申し込みみなし制度の創設にあたり、派遣労働者の就業機会が縮小することのないよう、関係各方面への周知と意見聴取を徹底するよう努めること
五 派遣労働者に対する労働・社会保険の適用を促進するため、現行の派遣元指針及び派遣先指針に記載されている労働・社会保険適用の促進策の法定化を含む抜本強化について検討すること
六 優良な派遣会社が育成されるよう、法令遵守の徹底、派遣労働者の労働条件の改善など、適切な指導や助言を行うこと
七 派遣労働者の職業能力の開発を図るため、派遣会社は派遣労働者に教育訓練の機会を提供し、派遣業界は、派遣労働者の職業能力開発に取り組む仕組みの創設を検討すること
一および二が、「改革はこれで終わりではなく、現行の制度見直しを1年後に行いなさい」という勧告、三から六が特に派遣業の監督官庁である厚労省への訓示、最後の七が厚労省および派遣会社への命令、あるいは強い要望、と読める。
一、二を読む限り、登録型、常用型という派遣のあり方、派遣が可能な業務分野、専門業務と自由化業務の線引きにあたって、来年度以降、抜本的見直しも含めた議論が再開されるのは間違いない。
現在の国会には、有期雇用を巡る法案も提出されている。労働契約期間が5年を超えた場合、労働者の申し出により、期間の定めのない契約、つまり正社員契約に転換させる、という内容だ。派遣も有期雇用の一種だから、当然、この規定が援用される。その場合、派遣期間、派遣業務に加え、雇用期間の制限という新たな制限が加わることになり、日本の派遣制度は関係者でさえ理解の難しい複雑怪奇な仕組みにならないだろうか。
下表にあるように、諸外国の派遣法制は、特に派遣期間の制限という意味でもっとシンプルだ。日本もそれに倣い、専門業務、自由化業務といった制限を取り払い、派遣可能な期間だけで縛りをかけるというやり方も十分検討に値する。
三および四で触れられているように、労働契約申し込みみなし制度は、本人が希望した場合、悪意ある法令違反企業に、その派遣労働者を雇用する義務が生じる相当の“劇薬”ゆえ、それを忌避するあまり、派遣労働者を使わない企業が増えたり、訴訟が激増したりすることがないよう、派遣元も派遣先もしっかり対処する必要がある。そうした事情もあり、この制度は3年後にスタートする。
ただ、違法派遣が発覚した場合、期間の定めのない雇用、つまり正社員化が義務付けられるとする報道が一部あるようだが、それは誤解だ。条文には〈その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働条件の申し込みをしたものとみなす〉とあり、派遣契約が有期であれば、雇用内容も同じ有期となるのだ。
同じような制度がドイツやフランスには既に存在する。特にフランスでは、期間制限に違反したり、正当な理由以外で派遣を利用した場合、派遣先は派遣労働者と「期間の定めのない労働契約」を締結したものとみなされる。といっても、本当に雇用される例は稀で、多くは金銭的解決が行われる。つまり、正社員を解雇する時に準じた額の補償金が支払われるようになっている。
派遣先の責任強化を意味する五に関連して述べると、オランダでは2010年から派遣先の責任を規定する条項が民法に付加された。具体的には、最低賃金や有給休暇手当の支払いについて、派遣元(派遣会社)だけでなく派遣先も連帯して責任を負うべし、という条項が入った。最低賃金を下回る額しか払ってもらえない派遣会社、有休を認めない派遣会社に雇用された労働者はその派遣会社だけでなく、派遣先に抗議することができるようになったのだ。
また、同じオランダの失業保険制度は、65歳未満の労働者の場合、週5時間以上、労働時間が減った際も給付が保障される。いわば「部分的な失業」に関しても、失業給付が得られるようになっているのである。もちろん、派遣労働者もその対象となる。労働者を労働時間で差別しない、さすがパートタイマー経済の国というべきだろう。
最後の七、派遣労働者の職業能力開発の問題はフランスの例が参考になる。派遣労働訓練保険基金というものがあり、派遣労働者の能力開発支援のため、派遣会社に毎年一定の金額の拠出が義務付けられているのだ。派遣労働者がたとえ派遣会社が変わっても累積就労時間に応じた職業能力開発支援を受けることができる仕組みだ。
窮すればすなわち変じ、変ずればすなわち通ず。改正派遣法が新たな派遣の仕組みをつくる第一歩となることを期待したい。
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