派遣法-改正案審議の中身と成立後の影響

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雇用の創出と安定、どちらが大切だろうか。

HRmics編集部の荻野が解説します。※2010/01/21の記事です。

労政審-満員の傍聴席

昨年12月22日、朝8時から厚生労働省で行われた労働政策審議会を傍聴した。4日前に示された原案に対して、労使が意見を戦わせる場である。傍聴人は見たところ100名以上、大きな会議室なのに人いきれがするほどだ。抽選で漏れた人もいて、この問題に対する世間の関心の高さが伺えた。案の概要は以下の通りである。

  1. 1、登録型派遣の原則禁止(禁止の例外=(1)専門26業務、(2)産前産後および育児および介護休業取得者の代替要員派遣、(3)高齢者派遣、(4)紹介予定派遣)
  2. 2、製造業務派遣の原則禁止(禁止の例外=常用雇用の労働者派遣)
  3. 3、日雇派遣の原則禁止(「日雇」とは日々もしくは2ヶ月以内の期間をいう。禁止の例外=別途定める専門的な仕事)
  4. 4、均衡待遇(=派遣労働者と同じ仕事についている派遣先の労働者との間における均衡待遇を考慮すべし)
  5. 5、マージン率の情報公開(=派遣会社は、派遣労働者の雇い入れや派遣開始の際、派遣先から派遣会社が受け取っている一人当たりの料金の額を当の派遣労働者に開示すべし)
  6. 6、違法派遣が行われた場合における派遣先企業における直接雇用の促進(違法派遣とは、(1)禁止業務への受入れ、(2)無許可・無届状態の派遣会社からの受入れ、(3)期間制限を超えた場合、(4)常時雇用の労働者以外の受入れ、のいずれかを指す)
  7. 7、法律の名称および目的に、「派遣労働者の保護」を明記
  8. 8、施行期日は法律が交付された日から6ヶ月以内。ただし、上記の登録型および製造業務派遣の原則禁止に関しては同3年以内という猶予を認める

最後まで埋まらなかった“溝”

会の冒頭、事務局である厚生官僚が先の原案を読み上げ、内容を改めて確認するとともに、登録型派遣の原則禁止については、派遣労働者等への影響が大きいことから、禁止の施行日から2年間、政令で決める業務への派遣は適用を猶予する、という暫定措置が発表された。原案で元々3年の猶予が認められていたわけだから、法律が施行されたとしても、実質的に登録型派遣が禁止になるのは、それを合算して5年後というわけである。

続いて労使の意見交換の場に移ると、「登録型および製造業務派遣の原則禁止」を撤回させたい使用者側と、「労働者の保護」を訴え、原案を是とする労働側の主張が真っ向から対立した。

使用者側からは、「中小企業に関する例外措置を設けて欲しい」、「登録型派遣禁止の例外として認められた4項目を製造業務派遣の場合も認めるべきだ」、「登録型禁止の猶予期間5年というのも短い。期間で区切るのではなく、景気動向なども見ながら、より長い準備期間を設けるべきだ」、「製造業を十把一からげに扱うのは解せない。製造業のなかでもどんな業種に対して派遣の規制をかけるべきか、から話し合うべきではないか」といった意見が出された。

これに対して労働者側は、「中小企業といっても、それこそ十把一からげで論じることはできない」「派遣労働の矛盾解消をずっと訴えてきた立場として、今回の原案は大筋OK」という反応を示した。

続いて議論の焦点となったのが、「原案6.違法派遣が行われた場合における派遣先企業における直接雇用の促進」についてである。使用者側は、「厳しすぎる。当該企業の実名を公開し罰金を課せばよいのでは」、「企業の採用の自由を侵す」と、これに関しても反対意見を述べたが、対する労働者側は「企業名が公開されても、企業に罰金が課せられても、労働者にとって何のメリットもない。何より大切なのは雇用の確保。そういう意味で、直接雇用の促進という案は評価できる」と一歩も譲らない。この日も労使の見解の相違や意見の対立が激しく、溝はなかなか埋まらなかった。

3日後の12月25日に開かれた会合では、「派遣の禁止によって、人材確保が困難になる可能性が強い」中小企業への配慮事項(具体的には職業紹介事業の充実など)が付け加えられた案を事務局が発表。労使の意見の相違は大きく、一旦、案を持ち帰って労使それぞれで協議を行うということになった。

暮れも押し迫った12月28日、この問題を巡る最後の会合が開かれ、これまでの原案に、労使それぞれの主張を少数意見として盛り込んだ案が最終的に政府に提出された。使用者側は「登録型派遣の禁止」「製造業務派遣の禁止」「違法派遣の場合における直接雇用の促進」について改めて反対し、労働者側は「派遣事業を許可制から届出制に」「派遣先責任をもっと強化すべし」「専門26業務の見直しを進めるべし」という意見を付加した。以上を踏まえて、改正法案が作成され、今月の通常国会に提出される。

一般事務派遣はなくなるか

1985年の制定以来、規制緩和の方向でずっと動いてきた派遣法。この法改正を機に、規制緩和から強化へ、はじめての大きな政策転換となるわけだが、その影響は真っ先に今働いている派遣労働者に及ぶ。昨年6月1日時点で、派遣労働者の総数は202万人だが、仮に今すぐ法律が施行されたら、26業務以外の登録型派遣、製造業務派遣の分野で働いている人たちが失職する。その数は全体の約5分の1、44万人にのぼる。

うち、最も大きな影響を被るのが26業務以外の、いわゆる自由化業務と呼ばれる仕事についている労働者である。内訳を従事している労働者の割合が高い順に並べると、物の製造(24.0%)、一般事務(23.6%)、その他(12.8%)、倉庫・搬送関連業務(5.9%)、医療関連業務(3.2%)、販売(2.9%)、イベント・キャンペーン関連業務(1.4%)、営業(0.8%)、介護(0.6%)となり、圧倒的に物の製造と一般事務が多い(厚生労働省「平成20年 派遣労働者実態調査」)。

そう、製造業務のほか、登録型派遣の禁止によって最も大きな影響を被るのが一般事務派遣なのである。ただし、“クッション”はある。専門26業務のなかに、事務用機器操作、ファイリングという2業務があるが、これが「一般事務」とほぼ同義で使われている可能性が高い。専門26業務の中で、労働者の割合が多い2大業務がまさにその2つであり、割合は事務用機器操作が17.4%と1位、ファイリングが10.0%と2位になっている。秘書や通訳なら分かるが、きょうび、パソコンの操作や文書のファイリングが専門性の高い仕事とはいえない。つまり、ファイリングや事務用機器操作という仕事に従事している派遣労働者が「自由化業務」である一般事務とさして変わらない仕事をしている可能性が高いのだ。このたびの法改正で登録型派遣が禁止されると、事務用機器操作とファイリング業務で働く労働者の数がさらに増えることが予想される。

ちなみに、26業務には、この他、取引文書作成、秘書、案内・受付・駐車場管理等、という事務の範疇に含まれる仕事が3つある。この3つと、先の事務用機器操作、ファイリング、自由化業務としての一般事務を合わせると労働者の割合は58.5%となる。派遣全体の6割を広義の事務職が占めているということだ。

改正原案への疑問点

最後に付け加えておきたい。今回の案は、「雇用の安定」を目指して、派遣制度の改訂を行ったものでありながら、「雇用の安定」どころか「雇用の創出」をも阻害するものにならないか、疑問を禁じえない。具体的には登録型派遣の禁止である。審議会が是とする常用型は、ある程度の仕事経験や技能を持っている人のみが可能な働き方である。正社員経験のない若年層やリストラで解雇された熟年層が常用型の派遣労働者として働くのは至難の技なのだ。その点、登録型は間口がもっと広く、未経験者でも仕事につきやすい。つまり、「雇用の創出」という意味では常用型より登録型に軍配が上がる。一方で、「雇用の安定」という意味では常用型が優れている。登録型は派遣先で仕事がなくなると派遣元から解雇されることになるからだ。

雇用の創出と安定、どちらが大切だろうか。創出がなければ安定も何もないのは明らかである。そう考えると、登録型派遣が備えている雇用創出機能を尊重しつつ、欠けている安定化機能を充実させる、という方策(派遣先での正社員化促進、派遣契約を無視する企業への罰則強化など)がふさわしいはずなのに、そうはならなかった。残念である。

いずれにしても舞台は国会に移された。改正案の中身とともに、それを巡る議論の行方を注視していきたい。

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