少子高齢化が本格化する今後をにらみ、膨大に膨らむ年金財源確保のために、消費税の税率引き上げが国会で審議されています。現役世代の皆さんからも、「老後が不安では働く意欲が減退するから、負担増もやむを得ない」という声が強くなっています。そんな中、65歳以上の団塊世代が、年金フル支給によって消費を伸ばしている、という、「年金財源逼迫」という話を疑いたくなるような報道がつい最近ありました。事の真相やいかに?海老原嗣生(HRmics編集長)の登場です。※2012/05/31の記事です。
目を疑いたくなるような話が新聞に大きく掲載されていた。
4月23日付の日本経済新聞から、以下、引用してみよう。数字の根拠となっているのは総務省の家計調査である。
消費 段階特需の兆し 年金満額支給が本格化 シニア依存 一段と
65歳以上の高齢者の消費が好調だ。65~69歳の1世帯当たり消費支出は2月まで8カ月連続で前年同月を上回り、支出を抑えている64歳以下の世代と対照的だ。年金の満額支給を機に財布のひもを緩めているとみられる。(中略)その原因は「年金」にありそうだ。会社員が加入する厚生年金は、2階部分にあたる「報酬比例部分」は60歳からもらえるが、1階にあたる「定額部分」は支給開始年齢を65歳まで引き上げる途上にある。現在の60~64歳の世代でみると、男性は1947~48年度生まれで64歳、49~51年度生まれでは65歳になるまで年金が満額にならない。政府は企業に65歳までの継続雇用を促す改正高年齢者雇用安定法を2006年に施行した。だが、再雇用契約は1年ごとの更新が大半。給与水準も定年前の7割以下に減る例が目立つ。このため年金が満額もらえるまで消費を抑えるシニアが多いもようだ。(後略)
たかだか400文字程度の引用だが、この随所に大きな誤解・誤りが含まれている。
まず、この調査対象となる2011年度は、厚生年金の満額支給開始年齢は64歳だ。つまり、この調査時点では、65歳が「年金満額支給」の境目とはなっていない。そもそも論で、これほど基本的な前提事項が間違っているのはあまりにもお粗末といえるだろう。記事にはご丁寧に、2011年度の年金満額支給の図まで入っているのに、このありさまだ。
二つ目の間違い。厚生年金(基礎年金も含む)の支給水準についての認識が薄い。現在でも65歳までは再雇用制度により、会社で雇用されているため(※実際には8割弱の人のみだが)、その給与水準は、60歳以前の7割程度、と記事は書く。これが65歳からは退職に伴いゼロになるが、それを補って余りあるほど、65歳(前述のとおり、現実は64歳だが)になっても、年金が増えはしない。具体的な数字を見て行こう。
厚生年金は「報酬比例部分」と「定額部分」の二つからできている。実は、報酬比例部分の年金は60歳から支給されている。ということで、64歳以降で新たに加わるのは、定額部分のみなのだ。この額は、フルに40年間加入したとしても、年額79万円(月額なら6万6000円)。そう、月額7万円にもならない。
対して65歳までの雇用延長期間は、すでに書いた通り、60歳時点での月収の7割程度の給与が支払われている。仮に60歳時点の月収が40万円なら28万円、30万円だったら21万円、20万円だったら14万円、15万円だったとしても10万5000円……となる。どうやっても、月額6万6000円の「新たな年金支給額」よりも大きそうだ。
そう、いくら「定額部分の年金が新たに支給」されたとしても、再雇用が終了することで失う月収の方が大きい人が多いだろう。
もっと大きな、根本的な誤りを指摘しておきたい。
記事中に「前年同月を上回り」とある、前年同月とは何を指しているのか?
これは、「自分たちの前年」との比較ではなく、昨年の65~69歳との比較なのだ。こう書けば、皆さんならもうお分かりいただけるだろう。そう、64歳の時から65歳になった変化ではなく、去年の65歳の人と今年の65歳の人との消費額の比較なのだ。とすれば、去年の65歳も「年金はフル額支給かつ、再雇用も終了」で、今年と何ら違いはない。そう、記事の基本ロジックである「年金がフルに支給される前後で消費が変わる」ということを調べる構造には、まったくなっていない。そうした間違った土台の上に構築された誤解に基づく情報といえるだろう。
年金に関してはとにかく誤解や思い込みで記事や発言をする人が多い。
最後にもう一度、年金の基礎知識について復習しておこう。
厚生年金(基礎年金を含む)の支給水準とは、よく「現役時代の6割」と言われる。つまり、現在年収800万円の人なら、480万円くらいもらえると考えがちだ。こんな想定で老後の生活設計をしていたら、相当痛い目に合うだろう。
「6割」の基準には、ボーナスのような一時金は含まれていない。また、税金や社会保障負担(年金・保険)料も含まれていない。たとえば、年収の3割がボーナス、1割が税金・社会保障料として差し引くと、年収800万円の人でも480万円となってしまう。これの6割なのだ。
ということで、年金想定額は、288万円となる。これでも、「妻の年金も合わせれば、350万円くらいになりそうだ」と考えがちだが、それさえも間違い。「現役時代の6割」とは、妻の年金を含めた「世帯トータルでの」年金額なのだ。とすると、妻の年金(フル加入で年額約80万円)を差し引くと、本人支給分は200万円程度となる。
これが、40年間フル加入した時の、サラリーマンの年金額となる。そう、年間200万円、月額17万円弱。それが老後の唯一の生活費。持家世帯なら、ギリギリで生活していけそうだが、貸家生活ならば、基礎的な生計維持さえ相当苦しいだろう。
お分かりいただけただろうか。
「高齢者は逃げ切り世代」「バラ色の退職後」というのは、よほどの大手企業で持家もあり、しかも、企業年金が破たんしていない会社の上級管理職に限られた話なのだ。
それよりも、「老後のために貯蓄は最低3000万円必要」と、よく言われる俗諺の方がよほど的を射ているだろう。
消費税が上がって年金財源が安定しようがしまいが、蓄えのない老後は生活設計が厳しいという現実をお忘れなく。
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