「若年の不安定就業」ミスリード

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常識を無視した報道に踊らされず、本質をデータでとらえるべきです。

新卒入社のこの時期は、昨今の就職状況や新人社員調査など、若年者の雇用について新聞もテレビも注目しがちです。そんな中、少し不安になるような数字が発表されました。「大学進学者の5割が卒業後に安定的に就業できていない」というマスコミ報道。つい最近まで3年で3割辞める、と驚いていたのが5割?この真偽やいかに。やはりデータのことは、この人に聞きましょう。海老原嗣生(HRmics編集長)の登場です。※2012/04/26の記事です。

36枚ある調査の最初の1ページのみで報道

「大学を出ても、5割の若者は、安定的に働いていない」。こんなデータがまたまたマスコミをにぎわせている。火付け役はNHKニュースと日経新聞だ。

  • ・「若者の雇用 深刻な状況が浮き彫りに」(3月19日放映NHKニュース)
  • ・「大学進学者、安定就業5割に満たず 高校は32%」(3月19日付日経新聞朝刊一面)

どちらの報道も、内閣府の雇用戦略対話第7回会合での資料がニュースソースとなっている。ただし、この資料を見ると、NHKや日経新聞の主旨とは趣が多少異なっている。

読み進むと、「非正規雇用の約7割が35歳以上」と述べたうえで、35歳以下の若年に限っても、「大卒男子は加齢により正社員化が進み30代では95%近い正社員率」であるとして、むしろ問題は、男性ならば「中卒などの就業弱者」、そして「女性」、という話が書かれている。決して、若者総体が「かわいそう」という結論ではない。そう、私が何度もここで書いてきたことが、その通りに書かれている、至ってまともな内容なのだ。

しかも、その直後に、一見、不安定に見える日本の若年雇用ではあるが、それでも欧米や中国、韓国と比べれば相当によい環境であり、世界の中では決して悪い数字ではない、という資料も出てくる。

結果、(とりわけ大卒に限った話であれば)20代の入口での混乱が問題であり、この混乱をいかに終息させていくか、というミスマッチ解消の方策が論議されているのだ。

こうした非常に筋の良い話がレポートされているにも関わらず、それらは全く無視され、新聞に出てくるのはことさらに「若者の不安定」という数字のみ。

しかも、実はこうした「若者不安定」系の話は、資料1から4の4部構成で総計36枚あるリリースペーパーの最初の1ページのみ。この戦略対話には知り合いも多く参加していたため、「なぜ最初の1ページのみの資料をマスコミは取り上げるのか」「不安定極まる状況をまず示したうえで、その内情はどうか、対処策はあるか、という構成なのに、真逆の報道」といった失望の声を彼らから聞いた。

リリース全部を読むのがおっくうだから、最初の1ページのみを使って記事を書いたのか?

それとも、やはり「若者かわいそう」論だと大向こう受けするから、こんな報道にしたのだろうか?

新卒無業者も早期離職者もその後正社員になっている

大もととなった資料と記事を見比べてみよう。

まず、日経新聞の「大学進学者」というのはそれにあたる資料がない。内閣府の推計は、「高等教育機関進学者」であり、ここには大学のほかに、専門学校・短大・高専が含まれている。再度言うが「大学進学者」という見出しはやはり明らかにおかしい。

次に、不安定5割の内訳だが、「3年以内に離職19.9万人(卒業生の23.4%)」「無職・パート14.0万人(同16.4%)」「中退者6.7万人(同7.8%)」、このすべてを合計して、47.6%の人が“不安定”と書き連ねるのだ。

この話はあきらかにおかしい。3年以内に離職して転職する人は多いが、そのまま無業となっていたわけではない。また、新卒時点で正社員就職できなかった若年者が、既卒者として毎年大量に中途採用されている。だから、離職者・新卒就職失敗者の数字を並べただけで、「不安定」というのは筋が通らないだろう。

現実を示す数字を挙げておこう(数字は、いずれも厚生労働省「雇用動向調査」2010年」)。

  • ・20~24歳の既卒未就業者の一般社員(パート・バイトは含まない)への新規入職数が9万4000人
  • ・転職という形での一般社員への入職数が33万2600人

そう、この年代は入職・転職が、少なくともデータの残る1970年代から非常に盛んであり、大卒で無業でも既卒で入職し、また、短期間で離職しても転職で入職する、ということが普通に行われてきた。

大学中退まで含めて、なんとか数字を5割に近付けた?

ただ、この「早期離職者」と「新卒時点で無業・パート」者を不安定就業者というのは、百歩譲ってまだOKとしよう。問題は「中退者」をさらに足し上げていることだ。中退はそもそも教育の問題だろう。しかも日本は「入りにくく出やすい」といわれる大学の性格上、世界各国の中で明らかに中退率が低い。中退率の数字を出すのなら、アメリカ53%、ニュージーランド46%、ハンガリー45%、メキシコ39%、英国36%、ノルウェー35%、ポルトガル31%、スウェーデン31%……ドイツ23%、フランス21%に対して、日本は10%(OECD調査、2005年)。

ことほど左様に「出やすい」環境の中で、そろそろ卒業の敷居を厳しくしてもよいはずなのだ。にもかかわらず、「中退」を不安定就業に含めて問題視する記事。

ひょっとすると、「離職」と「既卒未就業」の足し上げでは40%にもならなかったから、これじゃ、「若者はなぜ3年で辞めるのか?」という使い古された話と大差ないために、わざわざ中退を足し込んで、数字を5割に近付けたのではないか、とさえ思えてしまう。

ここでも登場「昔は辞めなかった」という常套句

さらに読み進むと、いよいよこれまた、もう何度とこのコラムで指摘し続けた、誤った日本の常識が登場する。

「大学や高校などを出たら正社員となって安定的に働くという、日本で長く続いてきた雇用モデルが崩れてきた実態は浮き彫りになった」(前出、日経新聞)

こちらも実際の数字を図表で示しておこう。

図表:新卒者が3年以内に離職する割合は高まっている

20年以上も昔から3年離職率は大卒で3割弱、高卒だと5割近い数字を示している。もっと古いデータをたどると、1970年代からこの傾向は変わっていない。それをもって、教育関係者の間では、7・5・3(中卒は7割離職、高卒は5割、大卒は3割)と言われてきた。こうした、雇用・教育の常識を無視した報道が繰り返されていく。

そこには、「日本人は新卒一括採用されて」「定年まで終身雇用」という、現実とは全く関係ない無茶な神話の方が常識になっている、という大きな問題がある。

熱心な読者の皆様にとっては、読み飽きた内容かもしれないが、再度書かせてもらいたい。

  • ・こうした日本の常識は、超大手企業、かつ、男性のみで成り立つ話であり
  • ・圧倒的多数の「中堅・中小」企業就業者は、この常識と全く関係ない世界で生きている
  • ・だから、1970年代から若年の転職や既卒者の新規採用は普通に行われてきた
  • ・そうした20代の職務チェンジを通じて、30代を過ぎたころに、転職は収まる
  • ・結局、中堅・中小企業も交えた日本型雇用とは、30代以降「終身雇用」というものだ

この話がわかると、昨今の若年雇用の混乱も、対策も見えてくる。

  1. 1、まず、過去とそれほど変わっていないから、大騒ぎはしないこと
  2. 2、ただかつては、「自営業」「農業」といった別のセイフティネットがあった。これが衰退したことが受け皿不足の本当の問題だ
  3. 3、また一方、大卒比率が高まり、かつてよりもホワイトカラー志向・大手志向が強くなり、ミスマッチが助長されてもいる
  4. 4、ただし、中堅・中小企業に新たな受け皿は大量にある。だから、男性に限れば多くはこうした企業で正社員化されていく(女性=ジェンダーは別の大きな問題)
  5. 5、いつの時代のどの国を取ったって、圧倒的多数が中堅・中小企業で就業している。過去の日本もそうだったし、これからもそうだろう。現在は、この当然の帰結(中堅・中小企業での就業)に軟着陸するまでに時間がかかることが問題であり、リードタイム短縮のために何をやればいいか、これを本題にすべきだろう

戦略対話が説く通り、きわめて明確な方向が見えている。

ここに戦力を集中すべき時なのに、余計な雑音が解決を遅らせてしまわないかと、心から心配している。

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