マスコミのミスリードにより、加入意欲が減退する人も多いことが原因の一つではないでしょうか。そこで、誤解を解いて、本当の問題は何なのかを考えるために、この人、海老原嗣生(HRmics編集長)の登場です。※2012/11/08の記事です。
「国民年金加入者の平均年収159万円」。
衝撃的な見出しが、7月10日付の日経新聞朝刊を飾っていた。これは、前日に発表された厚生労働省の「公的年金加入者等の所得に関する実態調査」を踏まえた報道となっている。
世間ではワーキングプアとは、「働いても、働いても、日々の生活さえおぼつかない年収200万円未満の人たち」と目されている。今回の記事をもとにいえば、国民年金加入者の平均年収は、このワーキングプアの基準年収をも大きく下回るということになる。
今回は、単に新聞の浅はかなデータ誤読を指摘することにとどめない。年金問題にひそむ本当の問題点を指摘し、真摯に貧困問題に取り組むべき、ということを訴えていきたい。
確かに、新聞の書いている結論は、通り一辺倒の流言の類ともいえる。記事を追うと、こうした低年収の根源は「国民年金加入者の23.4%を占めるパートやフリーター」及び「27.6%を占める無業者」であり、続いて、「景気の低迷やデフレの長期化が続き、パートや無業者が増えていることが、全体の年収水準を大きく下げた」と説明する。
いつものごとく、デフレ・企業の合理化・非正規の3点セットでしか、解説がされていないのだ。
現実はもっと深刻だ。
数字を出しながら説明をしていこう。
今回の調査で、国民年金加入者のうち、非就業者が525万人もいることになっている。ちなみに、加入者ということなので、対象年齢は20~59歳であり、定年退職後の無業者はここには入っていない。同様に、専業主婦で仕事を持たない人たちも、第3号被保険者にカウントされるので、ここには含まれない。要は、働き盛りの年齢で職につけていない人が、525万人もいるというのだ。
ただ、この調査は非常にわかりづらいものとなっている。調査時点(2010年11月)での就業状況を聞いており、年収についてはその前年(2009年)を聞いているからだ。つまり、今、無業でも前年に勤務していれば収入はあり、逆に、今、就業中でも、前年が無業だと年収ゼロとなる。こうしたずれがあるため、実体がわかりづらい。
そこで、就業状況がよりリアルにわかるように、6年おきに調査を重ねている厚生労働省の「公的年金加入状況等調査」で見てみると、同年の非就業者で国民年金に加入している人は、617万人にもなる。総加入者が1,900万人超だから、おおよそ3人に1人が「非就業」なのだ。
さらに20~59歳で失業者を調べると、内閣府の「労働力調査」では274万人となっているこの差は何なのか?
ちなみに、失業者全員が、国民年金加入者というわけではない。厚生年金などへの継続加入者がいるからだ。同調査からは、この継続加入者は54万人とわかる。それを除くと、失業者の残りは220万人となる。一方、国民年金加入者の非就業者は617万人。この差、つまり、働いていないのに失業者ではなく、国民年金には加入しているという397万人は一体どういう人たちなのか。
前述した通り、ここには、主婦・高齢者はカウントされていない。
学生は含まれるがこれがどれほどの数になるか、試算しておこう。前述の「公的年金加入状況等調査」によると、学生の第1号被保険者数が252万人。ただし、この全員が無業ではなく、短期バイトなどをしている人が含まれる。これを「労働力調査」の「学生の就業率」から試算すると、おおよそ100万人となる。この数を除いた152万人が無業者となる。先ほどの、397万人から、この学生無業の152万人を除くと、残りが245万人。
ここまで精査しても、「働いていないのに、失業者とはみなされない、主婦でも学生でも高齢者でもない人たち」が245万人も国民年金に加入していることになる。
いよいよここからが本題となる。
失業者とは、「就業意思があるのに、職につけていない人」を指す。つまり、「就業意思がなく、職についていない人」は失業者とはみなされない。先ほどの245万人とは、まさにこの分類に入る人たちなのだろう。つまり、就業困難で働けない人たちに他ならない。
そう、国民年金には、就労が極めて困難な人が多数加入している。たとえば生活保護を受けている人。たとえば疾病・療養中の人。たとえば障害を抱えながら自立生活をされている人。母子家庭で支援の手が届かない人・・・・・・。こうした、サポートが必要な人たちを広く受け入れているのが、国民年金なのだ。
もちろん、就労が難しくとも、何とか仕事をこなそうと、短期・短時間労働に就く人も多い。そうした人たちが、年収50万円未満の多くを占めているのではないか。ちなみに、最低賃金で働いたとしても、年間700時間程度で年収50万円には達してしまう。つまり、短期・パートの仕事で働いたとしても、通常生活者であれば、週に15時間も働くと、年収50万円に達してしまうのだ。
とすると、年収50万円未満の人たちとは、週15時間さえも就労することが困難な、支援が必要な人たちなのではないか?
「公的年金加入者の所得に関する実態調査」のデータから試算すると、この50万円未満の就業者が250万人もいる。あわせて約500万人もの人が、就労のために支援を必要としていると考えられる。
この試算を裏付けるかのように、「年金支払いが困難で、免除された人551万人」「同、一部免除された人44万人」(同調査)など、合計600万人近くが、正当な理由にて、年金負担を免除されている。このことからも、就業困難者が世の中には多数存在すること、彼らを国民年金が広く受け入れていることがわかるだろう。
つまりは、国民年金が就労困難な人の受け皿となっている。ならば、就労支援に力を入れるべきだ。
本来なら、マスコミはこうした論陣を張るべきだろう。
たとえば、母子家庭向けにシェルターとしての共同住宅を用意し、その中で、非就業の高齢生活保護世帯なども受け入れ、近隣の協力で子育てをしながら、単身の母親が就業できるような工夫をするとか。障害のある人や療養中の人が社会復帰できるように在宅勤務型の職務を募り、彼らに紹介する事業とか。もしくは、生活保護で長年過ごした世帯主に対して職業訓練を施す一方、就労後も生活保護をいきなり減額はせず、しばらくは併給できるような仕組みを作るとか。世にいわれる「アクティベーション」施策の充実に向けて、いくらでも議論は進められるはずだ。
こうした現実を踏まえた有意義な方向への展開は全く見られず、同記事は、これまた紋切型の締めくくりとなる。
「収入が低くて保険料を払えない非正規の若者が増えており、制度の維持が危ぶまれている」―非正規でも週27時間勤務を超えれば、厚生年金は自動加入となる。その基準を緩和して、現在は週20時間労働での加入に歩を進めている。実はこれ、この論議を行ったときに実施された調査で、「結果、加入するのは、主婦が大多数」という結果が出、けりがついた話なのだ。それを、もう一度蒸し返すだけの結論となっている。本当に、十年一日のごときこんな手垢のついた論考で、日本は大丈夫なのだろうか?
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