世間で言われているキャリアに関する通説や、常識となった諸データに関して、本当の現実は全く異なることを伝えていきます。今回はなにかと触れることが多かった派遣就労に関する現状について、公的見解と現実の違いについて、書いていきます。レポートは、「通説批判」で定評のあるHRmics編集長の海老原嗣生氏です。※2011/03/03の記事です。
ようやく昨年度の労働者派遣事業に関する報告が、厚生労働省より1月19日に発表となった。なぜここで「ようやく」とわざわざ書いたか。実は、あまりにも事情をわかっていない新聞報道が、10年10月の「速報版」発表時になされていたからだ。
以下、その時の大手2紙の概略を見てみよう。
この記事を書いた記者は、派遣に関して全くの素人としか言いようがないだろう。以下、少しでも人材ビジネスに関わったことがある人ならすぐにわかる常識的な話を書いておく。
つまり、速報版と確報版を比べれば、4割5割は数字に違いが出て当然なのだ。こんなむちゃくちゃな状態で、「24.3%減」「42.4%減」と断じてしまう大新聞とは、いかがなものだろうか。
しかも、それは、「登録しているだけの人」「複数社登録マルチカウント」を含んだいい加減な数字。
さらに言えば、その原因は「派遣切り」だという。
先月発表された10年度の確報版に沿って、詳細を見ていこう。
いかがか?24%減、42%減という記事がいかに実態を反映していないか、よくわかるだろう。就労者は1割も減っていないのだ。
では、この減少は「派遣切り」が原因だったのだろうか?これも、データを少し見れば間違いだとすぐわかる。
製造業派遣の就労状況の内訳を見てみよう。
どうだろう?派遣切りが起きているはずの「非常時雇用」は増え、逆に、派遣切りが起きないからと奨励された「常時雇用」が減っている。全く言われていることと逆だという状況がわかるだろう。
派遣就労者が昨年減少した原因は、派遣切りだと簡単に片付ける前に、現実的に業界でどのようなことが起きたかを少し説明しておこう。
以下、派遣事業に詳しい社団法人日本生産技能労務協会 理事の出井智将さんが書かれているHPより抜粋をして紹介したい。
「平成22年2月8日付けで公表された標記につき、3月~4月の2か月間各地の労働局において、集中的な指導監督を実施するとされ、また、定期調査等も実施され、現在派遣元のみならず派遣労働者、派遣先に対して、労働者派遣法第51条に基づき、立入検査が実施されていると会員から報告を数多く受けております。
労働局の担当官に、立入検査権限が認められるとしても、派遣労働者、派遣先、派遣元の内勤社員等に対して、強圧的に、長時間にわたって身体を拘束するのは、問題です。スタッフ個人を8時間にわたって拘束するのはいかがなものでしょうか。聴取書の作成についても、強圧的に署名押印させられる等問題のあるケースが散見されます。派遣労働者等は、被疑者ではありません。
労働局の対応について、速やかに実態を把握し、適正に行政権を行使していただくよう要望致します。」
上記は、日本人材派遣業協会から「専門26業務派遣適正化プラン等に係る立入検査等に伴う対応について」という形で、所管官庁に要望として出されたという。
09年のリーマンショック後に大幅減少した反動で、本来なら10年度は派遣就労者は増えてもおかしくはない状況だった。それが、2年連続の減少となった背景には、こうした監督強化により、派遣を活用する企業、そして何よりも派遣希望者が減少したこともあったのではないだろうか?
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