HRmics編集長の海老原嗣生がレポートします。※2011/01/13の記事です。
就職氷河期が叫ばれる中、あまりにも罪作りなトンデモデータが、行政主導で流されている。厚生労働省が10月に発表した「若年雇用実態調査」がそれだ。
同省のリリースでメインに謳われたのが、「フリーターを採用している企業、11.6%」というフレーズだった。その結果をテレビも新聞も大々的に取り上げたから、「やはり一度フリーターになったらおしまい」「フリーターは差別されている」と若者はおろか、彼らの両親世代まで悲嘆に暮れることとなってしまったはずだ。
しかし、このデータは真相を語っていない。
確かに、アンケート集計結果を示せば、図表①のようになり、11.6%つまり9社に一社しかフリーターの採用実績はないように見える。ところが、よくあるトンデモデータの慣わしどおり、ここでも「分母」がおかしいのだ。
まず、図表①を見ると、半数以上の52%の企業は「採用活動を行わなかった(47.6%)」または「不明(4.4%)」なことがわかる。要は、多くの企業はフリーターだけでなく、正社員の人にだって門戸が開かれていない。それだけのことなのだ。この「採用していない企業」を差し引くと、分母は半分以下の48%にまずはなる。
次に、「採用活動している」企業でも、活動はしたけれど採用ができなかった企業が相当数存在する。実はこの状況は、アンケートの別表から推測ができるのだ。昨年度に正社員を採用できた企業の総計は31.3%、この差の16.7%は「採用ができなかった」企業=元フリーターだろうが、元正社員だろうが採用していないのだ。
こうしたインチキがことを大げさにしてしまっている。もう一度言おう。世の中の7割近くの企業は、去年、正社員を採用できていない。正社員を採用できた残りの3割強の企業に、元フリーターが採用されたのかどうか、を調べるのが、「フリーター差別があったかどうか」を示すことになる。
では「正社員を採用できた」企業である31.3%を分母にすると、フリーターを正社員採用した企業の比率はどうなるか?小学校の算数となるのだが、11.6(元フリーターを正社員採用した企業)÷31.4(正社員を採用した企業)=0.37という数式となる。つまり、「去年、社員を採用した」企業のうち、37%、おおよそ4割の企業はフリーターを採用している、というのが真相なのだ。
ただ、これでも、「6割以上の企業がフリーターを採用していないのか」ということをもってフリーター差別を訴える人がいるとは思う。ところがこれもまだ間違いといえる。
6割の「フリーター非採用企業」のうち、「フリーターが応募してきたけれど、採らなかった」企業と、「そもそも、フリーターが全く応募してこなかったから、採らなかった。応募してきたら、採っていたかもしれない」企業とに分かれるからだ。
本当ならこの、「フリーターが応募してきたら採ったかもしれないが、応募がなかった」も数字を明らかにすべきなのだが、今回の調査報告には記されていない。この数字を勘案すれば、「フリーター差別」の実情は思うほど大きくないことが、さらに明確になるだろう。
この過誤について私は、似たような前例がすぐ頭に思い浮かんだ。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2004年と2005年に行った若年就労に関する調査がそれだ。2004年に行った調査では、「第二新卒を採用している企業」の割合は80%以上。ところが、2005年の調査では、「フリーター・第二新卒を採用している企業」の割合は4割台になっている。この乖離は何なのか、は全く語られず、多くのマスコミは、後者のデータを持って、「第二新卒採用はメジャーではない」という報道をたれ流した。その結果、日本では新卒採用一本で、そこで道を踏み外したら、再チャレンジができない、というイメージが深まってしまった。
遅ればせながら、真実を示してみたい。ここでも、問題は分母となる。
2004年の調査は、分母を「新卒採用を行った企業」としている。対して、2005年は、全企業が対象。全企業を対象にすれば、前記の通り半分は「採用活動をしていない」企業となるに決まっている。2005年、6割の企業は「第二新卒を採用していない」と答えているが、そのうちの多くは、「新卒も採用していない」、つまり、採用自体を行っていないのであり、とりたてて第二新卒差別・新卒優遇をしているわけではない、ということなのだ。
本当の意味で、「新卒優遇か、第二新卒不遇か」を調べるならば、2004年のデータが明らかに正しい。この数字をもとにすれば、新卒を採っているのに第二新卒を採っていない企業は2割にも満たないことがわかる。それが、現実なのだ。人材ビジネスに長く携わっている経験からも、この数字には納得がいく。
実を言うと、今回の若年者雇用実態調査・報告の不手際に対して、私は少しうがった見方をしている。ひょっとするとこれは意図的なミスリードなのではないか、と感じているのだ。なぜか?
調査結果で「フリーター差別がない」ことを示す箇所がことごとく、報告書の中で目だたぬようになっているからだ。そこには「フリーターは差別されている」という結論ありきで、「日本社会は敗者復活ができない」というシナリオがあったのではないか?
たとえば、調査票をよく見ると、フリーター経験の評価について、「プラス評価3.0%」「ほとんど影響しない73.8%」「マイナス評価18.5%」という数字があげられている。つまり、76.8%の企業は、フリーター経験を差別していない。
また、正社員の採用予定があった企業(48.0%)のうち、フリーターの応募も可能だった企業は36.9%で、こちらも実に77%がフリーターの応募を受け付けている。これらは、調査報告の中で小さな一項目として付されているだけであり、記者の目に留まるリリースサマリーには含まれていない。
そして、あまりにもずさんこの上ないことなのだが、一番注目すべきデータが、完全にサマリーから抜け落ちている。
「新卒時点でフリーターや無業だった人が、1年経った時点でどれくらい正社員化しているか」というこの項目。新卒時フリーターだった人の43.9%、無業者の52.8%(図表②)、両方合わせるとなんと、約46%の人が1年以内に正社員化している!
どういうことだ?今までの「一生正社員になれず、長期フリーター化」という噂話とはずいぶん異なるだろう。残りの正社員になれなかった人の中にも、病気療養中・家族の問題・資格取得のため勉強中・婚姻/出産などの「正社員に自発的になれない」理由をもつ人も多い。そういう人を除いて、正社員希望者の中で正社員になれた率を出せば、数字はもっと上がるだろう。
過去97年の厚生労働省調査でも、新卒無業者の約7割が正社員化していた。01年のワークス調査では長期フリーターの8割に正社員経験があった。私たちの小規模サンプリング調査でも、新卒3年以内に正社員化する率は7割を超えていた。こうした調査をいくらとりあげても、大々的な追跡調査ではないとか、データが古いという理由で相手にされてこなかった。そこに、今回のこの調査で決定的な事実が明らかになったのだ。
そう、新卒非正規社員は、その半数が1年で正社員化する。就活時に見せたいたずらな大企業志向を捨て、現実を知った若者たちは、早晩、中小企業で正規の職につく。3年しても非正規でいる割合はかなり少ない。
本当の非正規問題は、新卒無業者の長期フリーター化ではなく、正社員となったのに、何らかの理由で非正規化する人にあるのではないか?そうした人たちは、対人折衝力が問われる今の社会で心を痛めていることが、一番の原因なのではないか。そう、脱工業化社会のひずみにあえぐ人たち。ここにマスコミは全く目を向けない。
そして、政策の力点がなぜかどんどんずれていく。
その理由を最悪な推測で語るなら。
これが正しいなら、来年は、きっとこんなリリースになっているだろう。
「新卒失業対策の効果があがり、約半数の人が、1年以内に正社員化!」
「4割の企業がフリーターを正社員採用。フリーターの応募については8割の企業がOK」
今年隠していた数字を来年は高らかに謳う。
茶番というか、予定調和というか、こんなさもしい論功行賞報告が行われないことを切に祈るばかりだ。
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