前回に引き続き、有期雇用法制の問題を解説します。今回は最近の動きです。これまでの日本には、強い法規制は存在しませんでしたが、それも今や昔、政府内に設けられた研究会が規制強化の可能性を探っています。担当はHRmics副編集長の荻野です。※2010/05/27の記事です。
前回、日本における有期雇用契約に関する規制対象は1回の契約期間の上限のみ、と書いたが、それが根底から変えられようとしている。
発端は2008年秋のリーマン・ショックだった。まだ雇用期間の途上なのに、企業側から一方的に雇用を打ち切られる非正規社員が激増。事態を重く見た、当時は野党だった民主党が同年12月、有期契約を締結できる事由(例えば、「臨時的または一時的業務」など)と契約可能期間を制限する「有期労働契約遵守法案」を国会に提出したのだ。
数の力には抗えず、法案は成立しなかったが、その後、民主党が政権を奪取。同党はマニフェストにこそ掲げなかったが、民主党政策集INDEX2009には<期間の定めのない無期雇用、直接雇用を雇用の基本原則と位置づけ、長期安定雇用を雇用・労働政策の基本とし(後略)>という文言が掲げられた。また、政権パートナーとなった社民党のマニフェストには、<有期労働契約は短期間業務に限定し、有期雇用契約を長期間、繰り返す場合は、正規雇用を申し入れる義務を課します>という条項がある。
こうした動きと並行し、2009年2月から、厚生労働省が、学識経験者からなる「有期労働契約研究会(座長:鎌田耕一東洋大学法学部教授)」を開催。有期労働契約に関する法規制の強化を図るべく、話し合いを続けてきたが、この3月、同研究会は「中間とりまとめ(およびそのポイント)」を発表した。
内容は、(1)総論「現状と課題」、(2)有期労働契約の締結事由の規制(入り口)、更新・雇止め(出口)の問題、(3)均衡待遇及び正社員への転換等、(4)その他の課題、にわかれるが、最も注目されるべきは(2)の問題だろう。
まず、入り口規制についてだが、臨時的な仕事や一時休業者の代替要員といったように、具体的な事由を限定するフランスのやり方を紹介する。その上で、同国と日本とでは雇用に対する考え方が根本的に違う、すなわち、同国の労働法典に、「期間の定めのない雇用契約が原則であり、有期雇用はあくまで例外的なもの」という明確な規定があるからこそ可能な施策なのだと、安易な模倣に釘を刺す。そして、「新規の雇用が抑制される」という弊害も考えると、規制の導入には議論を尽くす必要があると述べる。
出口規制についてはもう少し前向きだ。更新や雇止めに関する日本の実態を調べると、7割の事業所が過去に雇止めを行った例がなく、勤続年数が10年を超える長期の契約者が存在する例もあるとして、「有期雇用労働の濫用防止や紛争防止につながるだけでなく、雇用の安定や職業能力の形成にも資するという観点から、更新回数や利用可能期間に上限を設定することを検討すべきだ」(中間取りまとめのポイント)と述べる。
図表をご覧いただきたい。入り口・出口問題は、規制がまったくないアメリカから、規制の厳しいフランス、ドイツまで、お国事情でさまざまだ。締結事由は限定していないが、勤続年数の制限を決めている国もある。ドイツは有期とするのに正当な事由があれば勤続年数の上限に制限がなくなり、正当な事由がない場合は逆に勤続年数等の上限を定めるという柔軟なやり方を取っている。一時、ドイツでも正当な事由が求められたが、それによって職に就けない人が増え、失業問題が悪化したことがあった。そこで、一定期間内であれば締結事由が免除されるようになったという経緯がある。
この他、研究会の中間とりまとめは、従事している仕事が正社員とほぼ等しい契約社員の転換義務付け措置や契約更新の判断基準の法制化、雇止めの予告制度、雇止め時の手当制度の創設などを示唆している。
今後、同研究会は、労使関係者の意見を聴くことを続け、この8月を目途に最終報告書を作成する予定だ。それが厚労省に提出され、評価を得られれば、次は具体的な法律の中身を議論する審議会が召集される。具体的な法案提出は早くて2011年だろう。もちろん民主党政権の行方に大きく左右されるが、成立すれば、1993年成立のパートタイム労働法、今まさに審議されている改正派遣法と、非正規社員に関わるルール作りがようやくひと段落する。
有期雇用の問題はそれだけで論じられるものではなく、期間の定めのない雇用、つまり正社員の問題とも密接に関連しているという見方もできる。有期雇用者、つまり非正規社員の保護強化は正社員の保護弱化につながるのか。日本の雇用社会全体を見すえた改革を望みたい。
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