TPPは農業問題ではない

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TPPの何たるかを解説し、参加した場合の雇用や人事に与える影響を探ります。

震災により議論が中断しましたが、今の菅政権が目玉のひとつとして掲げる政策がTPPへの日本の参加です。TPP(Trans-Pacific Partnership)とは環太平洋経済連携協定の略。多国間の自由貿易協定ですが、関税の例外品目を設けず、100%の自由化を目指し、物品だけでなく、サービスや投資、政府調達といった分野も含む、きわめて包括的な内容である点が既存の貿易協定とは一線を画しています。今回のレポートはHRmics副編集長の荻野進介氏です。※2011/06/02の記事です。

GATTからWTO、FTAを経てTPPへ

まずは簡単な歴史と基礎知識から。

1947年、ブロック経済の弊害を除去し、自由貿易を推進するためにつくられたのがGATT(関税と貿易に関する一般協定)である。

それから約半世紀が経った1995年、GATTが発展解消してWTO(世界貿易機関)がつくられた。WTOは実効力の面でGATTに優っており、貿易のルールに関する立法権と、違反した国への報復措置発効などの司法権をもつ。

ところがこのWTO、加盟各国に一律のルールを当てはめるから融通が利かない。しかも加盟国の数が150以上もあるから、交渉は難航の連続で、決裂にいたるものも続出した。

この弱点を補うべく現れたのがFTA(自由貿易協定)である。加盟国に一律のルールを課すWTOとは違い、相手国を選び、二国間あるいは複数国間で、関税率などについての、より柔軟なルールを決めることができる。代表的なものとして、アメリカが中心となり、カナダ、メキシコが参加してつくられたNAFTA(北米自由貿易協定)がある。

ところで、日本が結んでいるFTAを、特にEPA(経済連携協定)という。人の移動や投資、知的財産権の問題など、関税以外の幅広い分野を含む、FTAよりハードルの高い、二国間(あるいは多国間)協定である。現在、日本は、シンガポール、メキシコ、インドネシア、フィリピンなど、12の国および地域とEPAを結び発効させている。3年前から、日本はインドネシアとフィリピンから看護師を受け入れてきたが、これはそれぞれの国と日本との間で結ばれたEPAの規定によるものだ。

アメリカの参加表明がすべてを変えた

さて、肝心のTPPだが、そのはじまりは、2006年に、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドという経済規模の小さな4ヵ国で出発したFTAだった。物品以外の幅広い分野を含むことから、日本でいうEPAの拡大版ということになる。

なぜ、このTPPに日本がからむようになったか。2009年11月、アメリカのオバマ大統領が参加を表明したことが大きい。それを受けて判断したか、水面下で誘われたかは定かではないが、菅首相がTPPへの参加推進を突然表明したのが昨年10月1日だった。

普天間移設の問題でアメリカに借りをつくってしまったこと、支持率が低迷し、目玉となる政策がみつからないことなど、苦しい政治状況を打ち破ってくれる政策として、「これに優るものはない」と判断したのだろう。

正式参加を決めていない日本は今のところ蚊帳の外だが、現在、もとの4カ国に加え、アメリカを筆頭に、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアを加えた計9カ国が新たな枠組みをどうすべきか、本年11月の交渉妥結に向けて、話し合いを続けている段階だ。

農業問題は氷山の一角

TPPというと農産物の問題と思われがちだが、そんなに単純な話ではない。しかも、そのテーマは雑誌や書籍で散々議論されているので、ここでは「人事や労働がどう変わるか」に目を向けてみたい。

なぜ貿易協定に人事や労働が関係があるのか、といぶかしく思った方がいるだろう。先にも書いたように、TPPとはEPAの拡大版。EPAとは人の移動や知的財産権の問題など、いわゆる非関税障壁もその討議事項に含まれるからである。

以下は現在、行われているTPPの24の作業部会を表している(外務省資料による)。それにしても、何から何まで、という感じを禁じえない。市場アクセスという名称で示された農業の問題はそのうちのたった1つにしか過ぎない。

TPPの24作業部会

「労働協力」の中身とは

しかも、である。このうち、労働と投資は、4ヵ国によるオリジナルのTPPでは協定の本文には入っておらず、了解覚書というなかにあるだけで、後に参加したアメリカがあえて格上げした分野だという。特に労働分野はWTOの協定にも存在しない。そこに並々ならぬアメリカの意思があるわけだ。

さらに、作業部会とは別に「労働協力についての覚書」が加盟国の間で締結される。この覚書はTPPと不可分であり、ここから離脱する国はTPPからの脱退を意味する。それくらい重要なものなのだ。

その覚書には以下の事項が記されるという。

  1. 1、ILO(国際労働機構)加盟国としての義務の確認
  2. 2、「労働における基本的原則と権利に関するILO宣言およびそのフォローアップ」についての約束の確認
  3. 3、労働についての国際的な約束に一致した労働法・労働政策・労働慣行の確保
  4. 4、労働法制・政策決定における主権の尊重
  5. 5、保護貿易のために労働法・労働政策・労働慣行を定めることは不適切であることと、貿易と投資の奨励のために労働規制を緩和することは不適切であることの確認

1と2は表裏一体のものと考えるべきだろう。(ILOがいう)「労働における基本原則と権利」とは、(1)団結の自由および団体交渉権の承認、(2)強制労働の禁止、(3)児童労働の廃止、(4)雇用および職業における差別の排除、を指す。

日本は、(2)に関しては「強制労働の廃止に関する条約」(ILO条約第105号)、(4)に関しては、「雇用および職業についての差別待遇に関する条約」(同113号)をいずれも批准していない。未批准の理由は、第105号については「日本では国家公務員の争議権が禁止されているが、これは『同盟罷業の制裁』も強制労働のひとつとみなす同条約とは矛盾するから」、第113号については「条約の趣旨は、性、人種、宗教、皮膚の色、政治的見解などによる雇用および職業差別の撤廃を目指したものだが、そういうことを記載できる国内法が存在しないから」ということだ。

日本がTPPに参加したら、それぞれの批准を求められるかもしれない。そうなると、国家公務員の争議権を認めざるを得なくなる可能性が出てくる。現在、公務員制度改革で公務員への争議権の付与が議論されているが、思わぬ方向からその議論が促進する可能性があるわけだ。

一方、この文言は日本のような労働法や政策が整った先進国ではなく、まだ未整備の新興国向けのものと見たほうが自然かもしれない。つまり、奴隷のような環境で人々が働かされ、その結果として低価格になった商品が入ってくることで、先進国の産業が弱くなり、失業率が上がるのを防止しようとしているのである。関税を全廃するわけだから、その前提条件となる労働条件だけは公平に、というわけだ。

これは日本企業にとっても無関係の話ではない。賃金の安さなどを前提にしたグローバル展開にも影響が出てくるかもしれないのである。

こうした話になると、GHQが戦後の日本で採った労働の民主化政策を思い出す。その最たるものが労働組合の合法化だった。アメリカが目論んでいたのは、それによって労働者の賃金が上がり、生産コストが上昇することだった。

3の「労働についての国際的な約束に一致した」という言葉がひっかかる。アメリカは日本に対して、確定拠出型年金(いわゆる日本版401K)の拡大や、解雇紛争における金銭的解決、安倍内閣時に「残業代ゼロ法案」と揶揄され、国会に提出されたものの成立はしなかったホワイトカラーエグゼンプション制度の導入などを要求してきた過去があるから、そうしたアメリカ基準の労働法・労働政策をTPP加盟国にも広めようとするかもしれない。日本の新卒一括採用も槍玉に上がるだろうか。とはいうものの、4が遵守されれば、アメリカの思惑がその通りになるとは思えないが。最後の5は貿易や投資を低迷させるような労働法や労働政策を定めること、逆に奨励するために労働規制を弱めること、その双方を戒めている。

移民問題には発展しない可能性

反対論者のなかには、TPPへの参加は労働開国を意味し、低賃金をいとわない外国人労働者が日本に押し寄せて来るのが心配だ、と唱える人がいるが、これは誤解だ。賛成派である日本経団連の米倉弘昌会長も、昨年11月の記者会見で、「日本に忠誠を誓う外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ」と述べ、「人材の移動が自由化される」TPPへの日本の参加を改めて促したそうだが、これも間違っている。

誤解の原因は、最初の4ヵ国が作成したオリジナル協定の13章にある「一時的入国」という箇所だろう。これは単純労働者の受け入れや移民に関する規定ではなく、ビジネスマンの出張や駐在時におけるビザ取得の迅速化や受け入れ人数の拡大を意味する。

昨年12月に合意に達したアメリカと韓国とのFTA交渉の際も移民の話が出たが、アメリカは「移民に関する取り決めは議会の専権事項であり、行政府にはその権限がない」と交渉を拒否したという。そう、国内の失業問題に頭を悩ませているアメリカがさらに移民を増やそうとするわけがない。

以上は数少ない資料から推し量れることであり、実際の「労働」作業部会でどんな議論が行われているかはわからない。ただ、TPPに参加した場合、GHQが引き上げて60年、再びアメリカ主導の労働外圧にさらされる可能性があるという意識は持っておいたほうがよさそうだ。

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