高年齢者雇用安定法の改正がもたらすものとは

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解雇多発社会の「とば口」となるのでしょうか?

先月末、高年齢者雇用安定法の改正案が国会を通過し、来年4月1日から施行されることになりました。先の国会の法案成立率は全体として芳しくなかったものの、雇用分野では、派遣法、労働契約法(=新たな有期雇用法制)を加え、3つもの大きな法案が成立したことになります。それだけ、喫緊の雇用問題が目白押し、ということなのでしょう。高年齢者雇用安定法に関していえば、今回の目玉は、希望者全員に対して65歳までの雇用、を企業に義務づけたことです。巷では、企業の人件費が増え全体の賃下げは不可避だ、しわ寄せが若者雇用にいく、といった議論がさかんですが、ここでは別の問題を指摘したいと思います。執筆はHRmics副編集長の荻野です。※2012/09/20の記事です。

法改正の3ポイント

高年齢者雇用安定法が制定されたのは1986年。この法律はとにかく改正が多い。直近では2004年に一部改正(2006年施行)され、今回はそれから8年経っての改正である。なぜそんなに相次ぐのかというと、法律名の通りに、高齢者の雇用と暮らしが安定しないからだ。問題は年金支給開始年齢の後ろ倒しである。それによって定年で仕事を辞めても年金がもらえない期間が出てしまう。

現にそれが起こりつつあった。基礎年金部分は既に2001年度から後ろ倒しされており、報酬比例部分も来年4月には61歳に引き上げられる。そのため、60歳の男性が継続雇用を拒否されると、61歳の年金支給開始まで無収入になる恐れがあった。こうした高齢者を救おうと、今回の法改正と相成ったわけだ。

今回の法改正の大きなポイントは次の3点だ。

イ)継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止⇒希望者全員を65歳まで雇用せよ

ロ)継続雇用制度の対象者が雇用される企業範囲の拡大⇒子会社、グループ企業までOK

ハ)義務違反の企業に対する罰則の付加⇒実名公表を辞さず

これらを説明する前に、継続雇用制度について触れる必要があるだろう。

継続雇用制度の中身と実施状況

前回、2004年の改正では、65歳までの安定した雇用を確保するため、65歳未満の定年制を実行している企業に対して、<1>定年の引き上げ、<2>継続雇用制度の導入、<3>定年制度の廃止のうち、いずれかの雇用確保措置を講じることを義務化した(同法・第9条第1項)。

定年の引き上げと廃止はよく分かる。問題は継続雇用制度だ。この制度は、再雇用制度と勤務延長制度にわかれる。

前者は定年を期に退職してもらったうえで、新たな雇用契約を結ぶやり方だ。その内容は、「短時間勤務で、1年ごとの有期雇用」といった具合に、定年前と異なった内容でよい。

後者の勤務延長制度は、定年に達しても、引き続き、雇用する制度だ。再雇用制度とは異なり、原則的には、定年前の労働条件と同一内容で雇用する。定年延長との違いは、希望者、それも企業が定める対象者としての基準を満たした人のみに限って、勤務延長を認める点だ。誰でも一律に定年を伸ばすわけではない。

厚生労働省「高年齢者の雇用状況」(2011年10月)によると、この3つの施策の“人気”は歴然としている。圧倒的多数、82.6%の企業が継続雇用制度を導入しているのだ(定年の引き上げは14.6%、定年の廃止は2.8%)。

継続雇用制度がなぜ人気を博しているかというと、他の2つに比べ、既存の人事システムへの影響が少ないからだ。

しかも、企業は希望者全員を雇用する必要はなかった。たとえば、健康面、意欲や態度、現役時の業績などといった観点から、選別基準を定めることができた。ただし、その基準は労使で合意する必要があった(同法・第9条第2項)。

結果、「希望者全員を再雇用している」という企業は29.8%にとどまり、その他、7割の企業が何らかのスクリーニングをかけている(労働政策研究・研修機構「高齢者の雇用・採用に関する調査」2010年3月)。

多発する継続雇用制度を巡る労使の争い

この継続雇用、確かに企業にとっては使い勝手がよいかもしれないが、働く人にとってどうかは別問題だ。というのも、その運用を巡って、企業と労働者の間で訴訟が頻発しているからである。

東京大学の水町勇一郎教授によれば、その裁判は次の2つに大別できる(「労働判例研究」、『ジュリスト』2012年3月号掲載)。

ひとつは、第9条1項の規定に満たない場合、つまり、導入された制度が不適切なものであったり、そもそも何の制度も導入されなかった場合、本人の継続雇用は成立するか、という内容である。

これに関しては、第9条1項は行政の取締まり法規であるから、私法上の効力はない、すなわち、本人の継続雇用が成立するわけではない、という裁判例がほとんど。続く第10条に、そうした企業には行政が助言および勧告を行う、という規定があるが、これだけでは実質的に罰則なしに等しい。そこで今回、実名公表という条項(ロ)が入れられたのだろう。

もうひとつは、上で述べたような私法上の効力はないにしても、それ以外の根拠によって、継続雇用の成立を認めることができるか、という内容である。

これについては、(1)特別な欠格がない限り再雇用する、という慣行があったことから、再雇用契約の成立を認めたもの、(2)「本人を再雇用する」という労働協約があったことから、同じく再雇用契約の成立を認めたもの、(3)解雇権濫用法理を類推適用して、これまた再雇用契約の成立を認めたもの、(4)同じく解雇権濫用法理を類推適用しつつも、経営不振という事情から再雇用契約は非成立、としたもの、(5)これも解雇権濫用法理を類推適用しつつも、再雇用時の賃金が不明である以上、再雇用契約は成立しないとしたもの、などがある。総体として、非正規雇用の雇い止め問題を彷彿とさせる内容だ。

実は、希望者全員でなくてもよい

さて、今回、この継続雇用制度が大きく変わった。「選別基準は取り払い、希望者全員を対象にすべし」というのである(イ)。これがムチなら、一方で、アメもある。それが(ロ)で、継続雇用の対象となる高齢者が雇用される企業の範囲を子会社、関連会社にまで広げた。

最期はやはりムチ、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制度の廃止、どれも取り組まない企業に対しては、実名を世間に公表します(ハ)、ときたのである。

話がここで終われば、ある意味、簡単だった。定年後も、65歳までは働きたい。もちろん、労働条件は下がってもいい。そういう人は誰でも65歳までの雇用が保証される、という仕組みだからだ。ところが今回、話がややこしくなっている。

(イ)について、留保条件が付されているのである。希望者全員は乱暴過ぎる。心身の健康状態や勤務態度が悪い人は対象外としてもよいことになり、そのための「指針」を、法律施行の来年4月1日までに、公・労・使が集まる労働政策審議会で定めることになった。

これには伏線があった。改正案を話合う労働政策審議会で、使用者代表の一人の委員(日本経団連・所属)が述べた以下の言葉である。

〈第9条2項の対象者基準を廃止するのであれば、少なくとも現行の第9条1項で規定されている継続雇用制度の定義それ自体を変更していただきたいという趣旨です。希望者全員の雇用ということではなく、職務遂行が不可能な場合など一部の例外については法律上対象外とすることを容認する制度であるという、その旨をきちんと書き込むべきだと考えています〉(同審議会の議事録より)

「指針」が普通解雇を促進する可能性も

問題はここからである。果たして、どんな指針になるのだろうか。心身の健康状態が極めて悪く、通常業務に耐えられない人、これはいい。医師の診断書で、ある程度、客観的な判断が可能だからだ。でも、勤務態度が悪い人、すなわち、業績が上がらない人、職場の秩序を乱す人、原因不明の欠勤が相次ぐ人、それをどう「指針」に表現するのか。かなりの“文才”が要求されるだろう。

実質的にいえば、再雇用の拒否は解雇に他ならない。そうすると、解雇権濫用法理を規定した労働契約法第16条、つまり、〈解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする〉との兼ね合いも重要となる。

さらに問題は広がる。そうやって定められた指針は、通常の社員にも及ぶ可能性がないとは言えない。だって、定年から再雇用に移る時点で、「要らない人」は、それ以前でも「要らない人」である場合が多いだろうから。定年を前に、いきなり勤務態度が悪くなったりするわけでもないだろう。そうすると、明確な解雇基準が出来ることになり、その手の訴訟の増加とともに、特に大企業においては、整理解雇に比べ、普通解雇が行われにくいという日本企業の風土が変わるきっかけにならないか。

もしそうなるとしたら、真っ先に議論すべきことがある。日本ではタブーとされてきた解雇問題の金銭解決である。日本が労働法に関して手本としてきた先進国はドイツ、フランス、アメリカであるが、違法解雇への主な対抗手段が元の職場(会社)への復帰である日本と違い、3国とも、違法解雇は和解手続きにおける補償金支払いによって解決されている。労働側が危惧するように、確かに金さえ払えば解雇は自由、という世の中になるのは困る。が、しかし、労組の組織率が20%を切った日本では、違法解雇を巡り、長期間、企業と闘える労働者はむしろ少数派だろう。

いや、筆が先走りし過ぎたかもしれない。上記のような内容は杞憂に過ぎず、今まで通り、定年までは普通解雇は極力控え、定年時にのみ、継続雇用の恩恵に与れる人を選別する。そういう無難な方向に落ち着くかもしれない。

とまれ、来年4月までに発表される指針に注目したい。

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