有期特別法案、国会提出の顛末

このエントリーをはてなブックマークに追加

一直線には行かない、労働法改正プロセスの見本

今年も1月24日から通常国会が始まりました。厚生労働省関係の新規提出法案は11本であり、そのうち労働法制関連は、労働者派遣法改正案、パートタイム労働法改正案、労働安全衛生法改正案、有期雇用の特別措置法案(有期特別法)の4本です。派遣法に関してはマスコミでも大きく取り上げられてきただけにその内容を詳述する必要もないでしょう。パートタイム労働法改正案は正社員と比べた場合の差別的扱い禁止の範囲拡大、安全衛生法はメンタルヘルス対策の強化などを主眼としており、最近の社会経済状況を考えると、いずれも「ごもっとも」という内容だと思います。問題は有期特別法です。概要をご存じの人の中には、こんな法案がいつの間に!という思われた方も多かったのではないかと思います。そう、それは最初に意図した内容と実際の内容が大きく違う、まるでミラクルのような法案なのです。今回はその過程をHRmics副編集長の荻野が詳しく追ってみます。※2014/03/13の記事です。

無期転換ルールに特例を設ける

まずはその有期特別法の内容から説明する。

有期労働については、2013年4月から労働契約法が改正され、労働契約が反復更新され、通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって無期の労働契約に転換するルールが導入されたのはご存じだろう。

この無期転換ルールの特例を定めたのが今回の法案なのだ。具体的には、

  1. 1、一定の期間内に完了する業務に従事する、高収入かつ高度な知識や技術、経験を持つ労働者、および
  2. 2、定年後の再雇用労働者

については、無期転換ルールが発生する5年超という規定が、10年超に延長されるのだ。

気になるのは、1における高収入の具体的金額だ。これについては法案成立後に労働政策審議会で詳細が議論されるようだ。ただし、関連文書に、「年収1,075万円以上の技術者、システムエンジニア、デザイナー等」という例があるので、この1,000万円以上というラインが基準になり得るのではないかと思われる。

また、2の場合の再雇用労働者は、定年まで働いていた企業、もしくはその子会社・関連会社に再雇用された場合に、限られる。定年まで働いていた企業とは別の企業で働いている有期雇用者には、この特例ルールは適用されない、ということだ。

この法律が今国会で可決された場合、2015年4月から施行される。

きっかけは国家戦略特区

通常、労働関係の法案作成や法改正については公労使三者で構成される労働政策審議会を経るのが普通だ。そこで、三者から叩かれ、揉まれ、ようやく形となる。その場合の原形は厚生労働省が提出する場合がほとんどだ。

が、この法案はいささか様相が異なる。最初のとっかかりが、アベノミクス「第三の矢」の中心施策、国家戦略特区における特例措置、という全然別のものだったのだ。

戦略特区における労働ルールといえば、例の「解雇要件や手続きの明確化」という議論が有名だが、実は有期雇用の特例措置もその一環だったのだ。

国家戦略特区ワーキンググループの八田座長が2013年9月20日に提出した資料にこうある。

有期雇用
契約締結時に、労働者から、5年を超えた際の無期転換の権利を放棄することを認める。これにより、使用者側が、無期転換の可能性を気にせず、有期雇用を行えるようにする。


それから2週間後の10月4日、同じく八田座長が記者説明のために作成した資料にもその案はきちんと残っていたが、さらにそれから2週間後の10月18日には、日本経済再生本部が決定した規制改革事項の検討方針の中に、その案は移っていた。日本経済再生本部は安倍首相を筆頭に全閣僚が出席する経済政策の司令塔だ。

特区から全国区へ。オリンピックがきっかけか?

そこには、①特区限定ではなく、全国規模の規制改革とすること、②新規開業直後の企業、グローバル企業などで、重要かつ期間を限った事業に従事している有期労働者のうち、高度な専門知識を持ち高収入を得ている労働者を対象とすること、③この件に関して労働政策審議会において早急に検討を行い、その結果を踏まえ、平成26年通常国会に法案提出すべし、と述べられている。

特区内においては、すべての有期労働者の無期転換権を停止させる、という趣旨が、大きく変わったことに留意されたい。つまり、全国規模の規制改革になったのである。ただし、高度な専門知識を有する高収入の有期労働者に限ってだが。

しかもこの文書には、有期雇用の特例を認めるべき理由として、こんな文章が付されているのだ。

これからオリンピックまでのプロジェクトを実施する企業が、7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生することなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない。

東京オリンピックの開催が決定したのが9月8日(日本時間)である。そのことが特区区限定適用を全国あまねく適用へと、政府方針を転換させた大きなきっかけだったのではないか。

一方で、この文書は実は誤っている。無期転換権を発生させることなく、7年限定で人を雇うことは、現行法のもとでも可能なのだ。

労働基準法にこうある。

第十四条  労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

つまり、「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」以外に契約上限が発生し、それを反復する場合に、無期化となる。一定の事業の完了に必要な期間が定まっているものは、最初から、その期間、たとえばオリンピックまでなら7年と決めて契約すればいいだけなのだ。もっとも1年ごとの細切れ契約で7年、というのが無理となる。先に述べたように、5年が経過した時点で、労働者に無期転換権が発生するからだ。

国家戦略特別区域法が労政審への投げかけを指示

早速、その内容を織り込んだ国家戦略特別区域法が昨年10月15日に始まった臨時国会に提出された。11月8日に衆議院本会議で趣旨説明と質疑が行われたのを皮切りとし、最終的に参議院で可決して法案成立となったのが12月7日未明のことであった。

その附則の第二条に、「期限を区切った事業に従事する有期労働者のうち、年収の高い労働者に限って、無期転換権が発生する雇用契約のあり方について政府は必要な措置を講じるべし」「ついては労働政策審議会の意見を聴取すべし」「必要な法案を2014年の通常国会に提出すべし」とある。

お達しの通り、労働政策審議会が12月17日に開かれ、この議題が初めて俎上に載せられ、有期雇用特別部会の設置が決定。1週間後の25日に第一回の会合が開かれた。

もう一度確認しておくと、労働政策審議会とは公益代表委員(学者やマスコミ人など)、労働者側代表委員(労働組合の幹部など)、使用者代表委員(経済団体の代表、経営者など)という三者、それに事務局たる厚労省官僚が加わって、労働関連法案の内容を議論する場である。労働関係以外の法案は議員なり政府なりが法案を作り、それを国会に提出するのが流れだが、労働関連法案はこの審議会を通すのが慣例となっている。対立しがちな労使の意見を慎重に聞く、という意義があり、もともとILO(国際労働機関)が提唱した原則だ。

高齢者こそ特例にすべき、という声があがる

さて、その第一回目の会合で、使用者代表委員からこんな意見が出された。無期転換ルールがあるため、定年後の高齢者を5年を超えて再雇用するのが難しいという声が各企業から上っているから、何とかしてほしい、と。

これに対して、労働者側委員が反対の声をあげた。国家戦略特別区域法が命じた、有期雇用の特例対象に高齢者は含まれていない、というのである。

すると、使用者側代表の別の委員が再反論した。60歳の定年まで働いた高齢者が1年ごとの有期で再雇用され、5年経ったら、また無期に戻ってしまう。これは到底理解しがたく、労務担当者も困り切っている。高齢者に対する無期転換ルールの見直しを求めるのは、高齢者の活用を抑制したいがためではなく、むしろ逆で、今以上に活用していくために求めていることなのだ、と。

この発言が効いた。最初の発案にはまるでなかった高齢者に関する無期転換ルールの見直しが議論に加わることになったのである。

現状のままだと雇用機会が逆に失われる

実際、これは企業にとって本当に頭の痛い問題だった。それをうまく避けるには、別途、もう一つの定年(第二定年)を定めるという解決法が検討されていた。

しかし第二定年の設定は別の問題もはらんでいた。

ひとつは雇用がその年齢で一律終了となるため、その年齢を超えても働いてもらいたいと企業が考え、本人もその気である高齢者を企業が雇用することができなくなる。せっかくの雇用機会が奪われてしまうのである。

もうひとつ、こんなデメリットも想定された。たとえば60歳を本来の定年、68歳を第二定年に設定したとする。定年後、契約を1年ずつ繰り返し、5回更新した時点の65歳で無期転換になるとすると、第二定年の68歳になるまでの3年間は契約更新はなく、どんな高齢者も無条件に3年間働けることになる。高齢者の体力や意欲を勘案しながら、1年ごとに雇用の可否を判断したり、労働条件を見直したいと考える企業にとって、それは受け入れ難いことだろう。結局、企業は第二定年の設定を止めてしまい、65歳ですべての高齢者が雇い止めされてしまう可能性が高い。

ともかく、立法の不備ともいえる、こうした厄介な問題が、今国会で解決する方向に向かっているのである。

年収1,000万円超の有期雇用者は稀少

一方、無期転換ルールのもうひとつの対象となっている、年収1,000万円超のハイパー有期雇用者だが、有期雇用者(非正規労働者)の平均年収は168万円(国税庁「民間給与実態調査」2012年)というから、稀少な存在であることは確かだ。そうだとすると、特例法が念頭に置くのは、やはり東京オリンピックに向け、企業が獲得に動くスポーツ選手なのか。少なくとも一般の企業実務に大きな影響を及ぼす内容ではないのは確かだろう。

それにしても、国家戦略特区に向けた有期雇用特例を提案した識者は自分の提案がこんな形で現実のものになるなんて夢にも思わなかったはずだ。これこそ公労使が関わる労働法ならではの改正プロセスなのだ。

いやいや、5年が10年になっただけで、定年後の有期再雇用者が再び無期になる問題は片付いていない、という方がおられるかもしれない。それについてはこう答えたい。60歳で定年を迎え、その後、70歳まで10年働き続け、さらに働きたいという高齢者には報奨の意味で無期雇用を認めてしかるべきではないかと。

以下、蛇足でこんなことも考えた。

こんな、ごく少数の例外的エリートを対象から外すという、大勢に関係のない規定が果たして生きてくるのか?一般常識で考えれば意味がない話ではあるが、そうはいかないのが法律の話なのだ。ちょっとしたついでに生まれた附則が、後々、大きな足かせや、またまた新機軸の出発点になったりする例は過去いくらでもある。たとえば、アベノミクスが破たんして、ハイパーインフレでも来たらどうなるか。物価も給料も4倍くらいになってしまったとき。1,000万円という規定は、現在の250万円相当と同義となる。ひょっとしたら、労政審の使用者代表はそこまで考えて動いてきたのか。性悪説で考えれば、その参考となる事例はある。たとえば、税率は累進性で高年収者ほど上がる。ハイパーインフレ待望は昔から国税庁的には歓迎!などと言われた。まさか……。

このエントリーをはてなブックマークに追加
ページの先頭へ

●採用成功ナビの3つの特長

最適な採用手法をご提案!

様々な企業が自社に合う人材の採用に成功している

採用方法の紹介を見る

豊富な採用実績!

多岐にわたる採用事例から自社に似たケースが探せる

採用成功事例を見る

日本最大級の登録者数!

欲しい人材の詳しい情報をお申し込み前に確認できる

求職者検索を見る

お申し込み・お問い合わせ・ご相談はこちらからお気軽にどうぞ!

採用サービスのご利用について

すぐに採用を始めたい方も。まずは相談してみたい方も。
ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

0120-98-3046 9時~18時 (土日祝日を除く)内容は正確を期すため録音しています

ご相談・お問い合わせはこちら

メールマガジン(無料)について

中途採用情報メルマガ(無料)を定期的にお届けします。

  • ・求職者の詳細な職務経歴情報が閲覧・検索できる
  • ・中途採用に役立つ最新情報や採用の秘訣などをお届け

貴社の事業成長に少しでもお役に立てられれば幸いです。

無料メルマガお申し込みはこちら