有期雇用でつまづかないため、考えておくべきこと

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有期雇用を活用する場合の実務上の留意点を振り返ります。

ユニクロにスターバックス、すかいらーくにイケアと、パートやアルバイトといった有期雇用の非正社員の多くを無期雇用化する動きが相次いでいます。背景に深刻な人手不足があるのはもちろんですが、こうした動きの大きなきっかけとなったのが昨年4月から完全施行されている改正労働契約法です。ご承知の通り、有期雇用者の雇用安定のため、有期雇用の規制強化を図ったもので、有期から無期への転換条件と、既に判例法となっている雇い止め法理を法定化するとともに、無期雇用と比べた場合の不合理な労働条件を禁止する内容です。先にあげた各社は、そこまでうるさく規制されるなら、いっそ有期雇用自体を止めよう、という決断をしたということでしょう。ただ、そこまでの決断ができる企業はむしろ少数派です。
改正法の完全施行から1年、今回の執筆はHRmics副編集長の荻野です。※2014/05/08の記事です。

有期雇用、新たな3つのルール

まず改正労働契約法の中身を振り返っておこう。以下の3つである。

①無期雇用契約への転換(第18条)
同一企業で、有期雇用契約が通算で5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みによって、雇用契約が無期に転換する。ただし、半年間のクーリング期間を置いた場合はその限りではない。

②雇い止め法理の法定化(第19条)
有期雇用契約が反復更新された結果、更新の拒否が解雇と見なされる場合、または労働者側に更新を期待する合理的な理由があった場合、更新拒否(雇い止め)には合理的理由と社会通念上の正当性が要求される。

③無期雇用契約と比較しての均衡待遇、つまり不合理な労働条件の禁止(第20条)
同一企業内で働く有期雇用契約労働者と無期労働者との間で、期間の定めの存在を理由として不合理な労働条件があってはならない。

無期への転換、認めるか否か

①から順番に対応策を見ていくと、この条項は昨年4月から施行されている。つまり、無期転換の請求権を持つ労働者が現れるのは最速で2018年4月となる。

これに対して、企業側には以下、6つの対応策が考えられる。

一つは無期転換者を出さない。あらかじめ労働契約に、更新回数あるいは総契約期間の上限を記しておくのだ。有期雇用者の雇用安定という法改正の趣旨からいって、これが許されるのかといえば、おそらく許されるはずである。自動車業界で期間工の人たちの契約期間は以前から2年11カ月になっており、その有効性が裁判でも認められているからだ。いわゆる「2年11カ月ルール」である。この場合、「4年11カ月ルール」ということになる。

ただし、無期転換を行わない、つまり更新回数や契約期間に制限が存在することは入職時にあらかじめ示しておく必要がある。無期転換にかかる直前の契約時になって初めて提示する場合、次の第19条「雇い止め法理」に抵触するおそれがあるからだ。特に、業務が継続して存在し、本人の期間満了後に新規で別人を採用する場合が問題になる。業務が継続してあるのに、なぜその人には雇い止めを行い、別人を雇い入れるのか、という合理的説明が必要になるだろう。

二つは既存の正社員とは違う、5年後無期転換社員という雇用区分を新たにつくることだ。既存の正社員とは職務内容や勤務地が限定される形となる限定正社員、ジョブ型社員という位置づけに近い。既に、無期雇用の非正社員という区分が存在する場合は、そのままスムーズに移行させればよい。

三つは既存の正社員に転換させる。

四つは何もしない。5年後に無期転換の要望が生じた場合、個別に対応するやり方だ。

五つは、クーリング期間を利用する。5年になる前に雇い止めを行い、半年以上経過した後でまた有期契約を結ぶのである。

最後はまさにユニクロやスターバックスが採ったやり方だ。学生アルバイトなどを例外とし「有期雇用を使わない」という選択である。

働く側の意識も考慮した制度設計を

繰り返すが、無期転換者が現れるのが今から4年後の4月である。各社人事ともそろそろ対応策を確定させている頃だと考えられるが、有期雇用者の数、役割、同業他社の動きを見ながら、慎重に対応策を決める必要がある。

最も手間がかかり、既存の雇用区分や人事制度との調整が大変なのは、新しい雇用区分を設ける二つ目のやり方だ。逆に手間がかからず、既存の制度との齟齬も生じないのが、無期転換者を出さないという最初のやり方だ。ただ、働き手にとってみたらどうだろうか。最長5年しか働けないとなると、仕事に対する意欲が下がってしまう恐れがある。それを防ぐには、自動車業界で既にやられていることだが、契約期間が満了した時点で、かなりの額の報奨金を支給するといった方策が必要かもしれない。もしくは、有期雇用契約は5年だけれども、本人の希望と上司の同意があった場合という条件つきで、正社員登用の道を用意しておくことも検討すべきだ。

三番目、既存の正社員に転換させる道を設ける場合は、採用時の見極め、そして有期雇用期間中の査定をしっかり行う必要がある。

有期雇用者の数がよほど少数の場合は四番目の個別対応でいいのかもしれないが、多い場合は人事の負担が増すだけだろう。

五番目を選択するには大きな経営判断が必要となる。人材競争力強化のため、昨年から、すべての客室乗務員をそれまでの契約社員から正社員にした全日空もそうした判断を行ったということだ。

六番目は緊急避難的な裏技といえる。何度もこれを繰り返し、無期転換防止のため、ということがあまり露骨になると、次に述べる第19条に抵触し、5年直前の雇い止めが認められないことがあるかもしれない。

ただ、この無期転換の仕組みをむしろ望んでいた企業も多い。たとえば飲食流通業界である。恒常的な人材不足に悩まされ、勤怠や業務の習熟という点で問題を抱える入職者も多いため、優秀なパートやアルバイトにはできるだけ長く働いてほしかったのだ。

問題は受け皿だった。いわゆる「正社員」しかなかったのだ。そこに、この無期転換の仕組みができた。そうした業界では、今後、結構活用されるはずである。そして、ユニクロやスターバックスなど、体力に余裕のある大企業はその上を行く「有期は使わない」方策に出たということだろう。

雇い止めが合理的で有効、とされるには

続いて、②「雇い止め法理の法定化」に移る。

この②は「有期雇用者の身分保障の強化」という意味で、前記①とはコインの表と裏の関係にある。すなわち、①は有期が無期になる条件を定めたのに対して、②は有期における安易な雇い止めの禁止を規定しているのだ。①によって、5年経ったら無期になる、つまり雇い止めができなくなるルールが定まった。でもその前の有期の時にも、安易な雇い止めはできませよ、と②で釘を刺しているわけだ。

安易な雇い止めと判断されるケースとは、有期契約が何度も更新され、無期契約と等しい状態となっていた場合、そして労働者が契約更新を期待するしかるべき理由があった場合、である。そうした状況下で企業が雇い止めを実行するには、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が必要とされる。

これを裏返して考えると、有期契約をみだりに更新せず、無期社員と有期社員とで担当する職務を明確に分けておく、有期社員には契約更新を安易に期待させない、といった方策を打っておくべきだろう。

2003年に出された厚生労働大臣告示「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」によると、1)仕事内容が臨時的、2)労働者の地位が臨時的、3)契約更新を期待させる企業側の言動がない、4)更新手続きが厳格である、5)過去から雇止め例が多い、6)労働者の勤続年数、年齢などに上限を課している、といった場合、雇止めが合理的で合法だと裁判で判断されるという。

いずれにしても、①に関わる「無期雇用契約への転換ルール」と合わせ、有期雇用者の活用ルールを全社で明確にしておく必要がありそうだ。

わかりにくいのが第20条の均衡処遇

最後の③「均衡処遇の実現、つまり、不合理な労働条件の禁止」に移りたい。

実は、これが前2つと比べると、なかなか厄介な条項なのだ。

この条項は、本当に分かりにくいので、以下に原文を掲げる。

第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

職務、業務と似たような言葉が混在し、どの言葉がどの言葉にかかるのかがよくわからない、明らかに悪文の見本ですね。

上記条文を解説した厚生労働省作成の通達によると、労働条件の相違が不合理とみなされるかどうかは、

  1. 1、職務(業務内容と責任の程度)
  2. 2、職務および配置の変更の範囲
  3. 3、その他の事情

を考慮して、それぞれの労働条件ごとに判断されることになっている。

同じく通達によると、対象となる労働条件とは、賃金や労働条件だけではなく、災害補償、服務規律、教育訓練、付随業務、福利厚生など、一切の待遇が含まれるとされている。なかでも、通勤手当、食堂の利用、安全管理になどについて有期と無期とで条件を変える(無期のほうを下にする)のは、特段の理由がない限り、合理的とは認められないという。

パート労働法第8条との関係

実はパート労働法にも似たような条項がある。

第八条 事業主は(略)短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。

この場合の「短時間労働者」とは、「①職務内容が同一企業に雇用される正社員と等しい、②期間の定めのない無期雇用者であり、③職務内容と配置換えの仕組みが正社員と同一であること」という3条件を満たす労働者を意味したが、今般、このパート労働が改正され、「期間の定めのない」という②の条件が削られた。労働契約法改正(による第20条の設置)と平仄を合わせるようとしたのである。その結果、有期雇用者であっても、正社員と職務内容と雇用管理の仕組みが同一であれば、正社員との差別的取扱いはまかりならん、となったのだ。

このパート法第8条と、労働契約法第20条を比べていただきたい。

前者の場合、比較されるべき対象が明確になっているのに対して、後者は明確ではない。不合理か否かは個々の労働条件に応じて、総合的に判断するとなっているわけだ。そのため、第20条は、「無期と有期を比べる場合、パート労働法のように、同一の職務、同一の雇用管理という条件がなくてもいいんだ。差別があったら即、解消されるべき、という条項なのだ」と述べている論考が巷で目につくが、本当にそうなのか。

労働契約法第20条は、パート労働法と違って「同一」という言葉は使わず、①職務内容(業務内容と責任の程度)、②配置変更の範囲、を、不合理な差別か否かの判断基準に用いると規定している。でもその2つを精査していくと、やはり同一職務、同一雇用管理下の無期雇用者、つまり正社員と比較して、その差が合理か不合理かを確かめる、という道行きになるのではないか。

職務内容も責任もまるで違うアルバイト学生と部長との間における労働条件の比較とはならずに(それはまったく無意味なことである!)、つまるところ、同じような仕事を担当し、雇用管理も似通っている有期雇用者、無期雇用者間での比較という、パート労働法第8条と似たところに落ち着くのではないだろうか。

その場合、有期と無期で、仕事内容や責任がまったく違うから比較する者がいない。そういう企業が実は多いのではないか。その場合、有期を活用していたとしても、その企業にとっては、この条文は無縁なものとなる。そう解するのが理に叶っている。

ただ、先述の第18条によって生まれる、無期だけれど、いわゆる正社員とは違うジョブ型社員がいる場合は、話がまた違ってくる。その人たちと、有期社員の労働条件を合わせればいいわけだから、経営にとってはそんなに酷ではないはずだ。

判例の積み重ねを待ちたい

第20条が規定する「労働条件」にも疑問が湧いてしまう。社員食堂などの福利厚生施設を有期の人は使えない、となっていたら、それは改めるべき「不合理な労働条件」だろう。

でもたとえば通勤交通費はどうか。フルタイム勤務の無期雇用者には3カ月の定期代を、週4日以下勤務の短時間労働の有期雇用者には日割りで支給していたとする。「無期雇用者が支給される定期は会社が休みの日も使える。忘れ物をした場合でも、何度でも往復できる。有期はそれができない。それは差別だ。不合理な労働条件だ。有期雇用者にも3カ月の定期代を支給すべきだ」という主張が通ることになるが、それが果たして合理的主張かどうか。

疑問はまだある。第20条の規定により、「不合理な労働条」と認定された場合、無効となるだけか。是正を促す圧力がかかるのか。それまでの企業の態度が不法行為となり損害賠償が認められるのか。それとも罰則なしの政策的規定なのか。それも今一つはっきりしない。

この第20条が施行されたのも、第18条と同じく昨年4月で、はや1年が過ぎた。聞くところによると、そろそろ裁判例が出てくる頃だという。その動きに着目していきたい。

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