「信じられない値段であの高級店が利用できる!?」、そんな驚きのお宝メールがザクザク届く、フラッシュマーケティングというサービスが最近流行しています。雑誌や新聞でもよく見かけ、テレビCMも盛ん。当然、急成長中の業界各社は、人材拡充のために、積極的な求人活動も展開中。その奥底で、各社は驚きの価格を提供するだけでなく、実はキャリアや雇用の面にも変化を生み出している―今回は、そんな知られざる事実をHRmics編集長の海老原嗣生がレポートします。※2010/12/16の記事です。
11月の下旬に、アメリカのネットビジネスで、またまた大きなM&A話が盛り上がり、新聞やネットニュースで取りざたされた。今回の主役も、いつものことながらという表現が似合ってしまう企業、そう、グーグルだった。
買収候補先は、フラッシュマーケティングの火付け役として知られている「グルーポン」という会社。提示された金額は60億ドル(約5000億円)というから、なかなか高額な買い物といえるだろう。12月に入ってもこの商談は実らず、結局、買収は不成立に終わりそうな雲行きだが、その理由も、グルーポン側が提示金額に納得していないからだ、という。
天下のグーグルが5000億円を出してもクビを縦に振らないほど有望なフラッシュマーケティングという新たなビジネスについて、まずはその仕組みについて話していくことにしたい。
メールをあけると、信じられないような値段のチラシが山ほど入っている。それも、普段はディスカウントを余り見かけないような、レストラン、旅館、遊園地、化粧品・・・。こんな「お宝メール」が毎日届くのが、フラッシュマーケティングの基本的な仕組みと言えるだろう。
少々実例を挙げてみると、「レトルトカレー10袋で300円(一つ30円!)」、「神楽坂にある高級イタリアンレストランが60%オフでフルコース2980円」「旅行雑誌で読者ランキング年間ベストテンに入った伊豆の老舗旅館、一泊一人4万円が1万2800円」・・・。チラシや広告、クーポン券などの割引なら、普通は、「乾杯ドリンクサービス」とか「幹事さん無料」が一般的で、出血大サービスと銘打ってもせいぜい割引額は20~30%がいいところ。一番割引率が高い、ということで人気のあった「共同購買」とて、半額まで下がることは少なかった。ところが、フラッシュマーケティングのお宝メールは、最低でも5割引、目玉だと9割引などというものもけっこうあり、しかも、それが極普通に毎日送られてくるのだ。
こんな価格だと出品した企業は元が取れるのだろうか、という気持ちになってしまうのだが、心配は無用。このビジネスは、たった2つの仕掛けにより、出品者にも十分おいしい構造を作り上げている。それは、
なのだが、これにより、何が生まれるのか?そこを少し考えてみよう。
たとえば、大量に商品が余ってしまった、もしくは、モデルチェンジで旧商品の在庫に困っている、そんな企業があったとしよう。今までなら、ディスカウンターにプロ市場で流すか、アウトレットモールに出展するか、そんな方法しか在庫の処理ができなかった。ディスカウンターに流したとしても超大量のロットは捌けないから、ある程度のロットに分けて複数業者への販売をする、といった面倒な手間がかかる。しかも、100%現金決済というわけにもいかない。一方、アウトレットモールに出展した場合は、店舗運営費が必要となり、しかも、売れるかどうかもわからない、という不安定な状態を余儀なくされる。こんな状態と比べた場合、「大量に」「前金で」取引が成立するフラッシュマーケティングに商品を流したくなる理由が見えてくるだろう。もちろん、こうした新たな市場が存在することにより、今までなら「買い叩き」をしてきたディスカウンターに対して、商談時に強く出ることも可能になる。
在庫品の処理だけではない。たとえば、旅館や遊園地のような設備産業は、最盛期を睨んで大きなハコを建設しているため、いつでも「空室」「空席」が生まれてしまう、という宿命がある。こうした空席・空室が現金かつ前金で売りさばければ、通常ビジネスの方の損益分岐点が大幅に下げられるだろう。飛行機のディスカウントチケットやパック旅行の格安料金と同じ原理なのだが、同じ設備産業でも遊園地やレストランにはそれがなかった。だからこそ、フラッシュマーケティングが待ち望まれていたともいえる。
その他にもメリットはまだまだ上げられるだろう。
どうだろう。ここまでメリットがあると、消費者産業に携わる経営者なら皆、一度はこの仕組みを利用したい、とつい考えるようになってしまう。その気持ちを受けてか、フラッシュマーケティング専門のサイトが雨後の筍のように生まれ、しかもそれが、「飲食」「美容」「エンタメ」「トラベル」など専門ごとに特化した形で運営されるようにもなってきた。
消費者の側も、「驚きのあまり」つい、買う気もなかった商品を購入するようにもなる。結果、消費は伸び、日本の経済成長にも寄与していく・・・のかもしれない。
さて、「人材の流れ」からこのビジネスを検証してみたい。なんと、この面でもフラッシュマーケティングは一種の革命を起こしつつある。
フラッシュマーケティングでは、出品者を見つけるために、営業スタッフが必要であり、当然、各フラッシュマーケティングサイトは大量の営業スタッフ募集を続けている。
そのこと自体は、特筆すべきことではないのだが、採用条件が少々変わっていると言えるのだ。たとえば、美容室に営業をかけるなら「元美容師さん」、レストランなら「飲食店勤務経験のある人」、旅館やトラベル関連なら「ホテルマン」・・・。そう、営業スタッフの募集なのに、採用条件は、「かつて接客業のプロだった」人。これは、求人においても、働く人のキャリアの観点でも、画期的なできごとといえる。
長らく、日本の中途採用は同業・同職務経験者が重宝される傾向にあった。そのため、営業スタッフなら営業経験者を採用することとなり、同様に経理なら経理経験者、人事なら人事経験者と半ば決まってしまっていたため、結果、販売やサービス業に就職した人は、販売サービス業の中でしか転職が難しい、といった硬直的な雇用・キャリアとなってしまっていたのだ。
フラッシュマーケティングの登場により、この壁が壊れた。あまり注目は集めてはいないが、人材業界に身をおく人間からすると、「小さな一歩だが、大きな前進」なのだと感じている。
では、成長著しいフラッシュマーケティング業界に、不安や死角はないのか?この点についても触れておこう。
最近、業界内ではこのサービスに不安・疑問の声が上がり始めているのも実は、事実ではある。
たとえば、「旅館やレストランなどで安売りをしたため、従来なら高額で利用してくれていたリピーターが安く泊まるようになり、結果、客単価を下げてしまった」という話が聞かれだしている。つまり、「新規顧客を開拓」できず、結局、旧来層の値崩れになるという不安があるのだ。
逆に、新規顧客は開拓できたが、「結局、安売り時の一見に終わり、リピートがなかった」という声もある。店側としては、新規顧客向けに至れり尽くせりのサービスを施し、何とかリピーターに、と出血サービスをしがちなことも相まって、一見で終わった時の失望感は強くもなる。
さらに、フラッシュマーケティング業者が増加して、出品企業も増え、それに伴い「お宝メール」も乱発されているため、メール自体への有り難味も薄れ、ジャンク感が漂いだした、といったマイナスもある。
この先、出品クライアントも、ユーザーも成長して、このサービスの利用法がよりスマートになり、同時に、乱立しているフラッシュマーケティング業者も淘汰と棲み分けを進めて、業界自体が進化していくことになるのだろう。
ちょうど、10年ほど前、ホットペッパーやタウンワークなどリクルート社が火付け役となって、「無料誌」旋風が巻き起こり、その後、大手競合誌や地元タウン誌などが百花繚乱という状態になっていった。それから5年ほどかかって、無料誌は淘汰と棲み分けを進め、業界自体も進化した。その道のりと似てくるのだろう。
今回も、あと何年かでこのビジネスから退出していく企業は出てくるに違いない。ただし、その時が来たとしても、彼らが販売サービス業の人たちを営業職へといざなった功績は大きいと、私は思っている。なぜなら、ひとたびこのビジネスで営業を経験した人たちは、次回の転職で「れっきとした営業経験者」と認められ、就労機会を増やしていけるからだ。
日本に、あといくつかこんな、キャリアチェンジを可能とするビジネスが生まれたら、企業も若者ももっともっと元気になっていくのではないだろうか。
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