レポートはHRmics編集長の海老原嗣生氏です。※2011/05/19の記事です。
GWが明けたところだが、ようやくここへきて輸出産業の求人状況が見えてきた。
昨年は、外需を中心にした求人回復がみられたこの業界、SIerや住関連設備など、内需系にもようやく明るさが見えてきた矢先にこの震災。果たして元の上り調子に戻ることができるのかどうか、気を揉んでいたところだ。
結論から書いておこう。
状況は「最悪」ではない。徐々に復活を始めており、今年後半には順調に回復する期待、というのが総合的な実感値となっている。
整理しておこう。
こんな事情があるため、4月の後半あたりからは年初の求人オーダーを復活させる企業が増え始め、その勢いに、GWでのライン立て直しも加わり、一時の「総だおれ」という状態からは、相当いい状態に戻りつつあると言えるだろう。ただ、注意はしておくが、これは「予想ほど悪くはない」というレベルの話であり、震災前の求人数に回復しているわけではない。
こうした「意外な堅調さ」を演出している企業の顔ぶれを見ていこう。
まず、技術系スタッフを抱える特定派遣事業主が、採用を増やしている。この理由を聞くと、日本経済復活がさらに確かなものと感じられてくる。要は、「幅広い企業からの旺盛な求人ニーズがある」というのだ。なぜ震災後なのに?と思うかもしれないが、まず、既述したとおり、被災地の産業規模は日本全体からすると数%であり、サプライチェーンの問題で減産している企業を含めても、その他圧倒的に多くの企業がある。そして、震災もトバッチリもうけなかった企業は、今でも旺盛な人材ニーズがあるからだ、という。
この裏には、長引く派遣法改正問題があったため、企業も派遣スタッフを使うに使えずに来た、という理由もある。それが、最近では同じ派遣でも「技術系の常用雇用型派遣は規制対象とならない」ということが認知されたこともあり、需要が増しているという。ここには、景気回復期にいきなり正社員採用を行うのは危険だから、まずは派遣スタッフで、という企業ニーズが見てとれる。つまり、派遣ニーズが増えてしばらくすると、本格的に正社員ニーズも増えてくる。この流れで言うと、今後の人材ニーズは増加!と予測できる一事ではある。
次に少々目立つのは、やはり「復興関連」産業となる。ただ、この要因での求人増加は、企業によってずいぶん色合いが異なっている。たとえば、「発電」関係や「蓄電池」などの分野では、求人の増加もほどほどだが、昇降機や建機などの分野では大量増員が始まっている。内需が中心の産業では、そもそも、「復興」需要は時限的なもので、それが過ぎれば人材ニーズは減っていくことになる。とすると、今、多忙にかまけて人を採りすぎるといつか人材余剰が起きる可能性が高い。そう考えると、派遣などの代替要員でこの特需を乗り切る、と考える企業群も多くなる。一方で、継続的に成長が見込める産業では、この特需時期に一気呵成で人員補充をしても、あとで余剰は起きない。さらにもう一つ、定着率・離職率というパラメーターもある。転職が盛んな業界では、そもそも繁閑により人も流動するので、余剰人材が生まれにくい。こんな業界自体のおかれる環境の違いが、採用判断に差を生み出していると言えるだろう。
業界とは少し異なるが、採用を増やす企業に「外資」の割合が多いのも一つの特徴となっている。正直に書けば、国内系が減っているために、外資のシェアが上がっているように見えるだけのことともいえるのだが、それにしても外資のニーズは減っていないことが驚きではあるし、第一、採用意欲が高い企業が目立っている。ここには笑えない現実がある。
それは震災により、外資系企業のスタッフの多くが本国に帰ってしまい、人手不足が生まれたから、という事情がその裏にあるのだ。ハイテクメーカーのみならず、グローバル人材を活用していた企業群、たとえばコンビニエンスストアや大規模流通業などでも、同様な話を聞く。今回の震災により、グローバル化の進んだ企業は、人材戦略に再考を迫られる可能性が生まれてきたのかもしれない。それは、本来多くのグローバル企業が旨としていた、「各国現地では現地人登用を」という当たり前の方向への再修正となるのではないだろうか。
最後に、求人復活の最大理由に触れておきたい。それは、とりもなおさず「外需」。やはり、世界経済はまだまだ好調で、とくに新興国向けの輸出産業は引き合いが強い。それも、最終製品のみならず、現地メーカーへのパーツ・半製品など上流から下流まで例外なく「外需」に関わる企業群は業績を拡大し続けている。「自動車部品」メーカーはその一例として既述したとおりだが、他にも、自社工場群が被災したにもかかわらず、業績拡大が進んでいるために人材採用を拡大している半導体関連メーカーなどもある。
なかでも、化学系メーカーの好調ぶりが目を引く。この業界は、本来は合成繊維やゴムなどの素材産業に端を発するが、現在では「繊維」の世界を離れ、静電タッチパネルやコンデンサ、偏光フィルム、イオン交換樹脂、半導体材料など最先端ハイテク機器を作るのに不可欠な素材・製品を数多く生み出し続けている。最終製品として目につくものはないが、あのハイテク製品にもこのヒット商品にも関与している、という企業が多いのだ。こうした「多産業へ多種を納入する」というポートフォリオ型産業のため、どこかで不況が起きても、どこかで成長が続き、ポートフォリオの組み替えにより不況知らずで成長を続けている。そこには、他国を寄せ付けない高い技術力がある。「選択と集中」を旨とせず、広く基礎研究を行い続けた、日本型長期投資の賜物といえるだろう。
そもそも、ここ20~30年で急成長した新興国の大学には、化学系の学部学科が少ない。それは、ここ20~30年は、物理・機械・電気・ITの時代だったからだろう。ただ、日本のように半世紀近くも世界のトップランナーを走り続けてきた国には、その昔の「重化学工業」や「農産品増産」時代に産業を支えるため、化学・生物・食品系の学部学科が数多く設置されている。こうした産学を超えた基礎投資があるからこそ、化学・素材分野で今なお日本企業は不況知らずでいられるのかもしれない。
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