「前門の虎、後門の狼」の派遣業界

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一体、この国の派遣法はどうなるのでしょうか。

2年前から、数度にわたって伝えてきた派遣法改正問題。リーマン・ショック後の「派遣切り」に端を発しただけに、派遣業界に極めて厳しい内容の法案が国会に提示されていましたが、ねじれ国会の影響などで、たな晒し状態が続いていました。あわや廃案か、と誰もが思っていた矢先の昨年11月、突然、動きがありました。HRmics副編集長荻野が報告します。※2012/01/26の記事です。

規制強化のハードルは下がったものの、正念場が続く

「前門の虎、後門の狼」の派遣業界

厚生労働省の審議会にまで通い詰め、改正案の動きを注視していた身にとって、昨年11月某日の新聞に思わず目を見張った。目玉だった登録型派遣、製造業派遣を撤回する形で、民主党が改正案の修正に応じ、早ければ12月の臨時国会で正式に可決される見通し、という記述だった。

その後12月に入って、衆議院厚生労働委員会では可決されたものの、臨時国会では見送りとなり、結論はこの通常国会に持ち越された。

2010年に提出された派遣法改正案を振り返ってみる。ポイントは以下の6つだった。

  1. 1、登録型派遣の原則禁止(禁止の例外=①専門26業務、②産前産後および育児および介護休業取得者の代替要員派遣、③高齢者派遣、④紹介予定派遣)
  2. 2、製造業務派遣の原則禁止(禁止の例外=常用雇用の労働者派遣)
  3. 3、日雇派遣の原則禁止(「日雇」とは日々もしくは2ヶ月以内の期間をいう。禁止の例外=別途定める専門的な仕事)
  4. 4、均衡待遇(=派遣労働者と同じ仕事についている派遣先の労働者との間における均衡待遇を考慮すべし)
  5. 5、マージン率の情報公開(=派遣会社は派遣開始の際、派遣先から派遣会社が受け取っている一人当たりの料金の額を派遣労働者に開示すべし)
  6. 6、違法派遣が行われた場合における派遣先企業における直接雇用の促進(違法派遣とは、①禁止業務への受入れ、②無許可・無届状態の派遣会社からの受入れ、③期間制限を超えた場合、④常時雇用の労働者以外の受入れ、のいずれかを指す)

登録型も製造業派遣も従来通りに

これが、今回の修正案ではどうなったかというと、

  1. 1、規定自体を削除
  2. 2、規定自体を削除
  3. 3、規制対象となる「日雇い」の期間を2ヶ月以内から1ヶ月以内に短縮
  4. 4、そのまま
  5. 5、そのまま
  6. 6、制度の開始を法律施行の3年後に延期する

派遣労働者保護の条項は残しつつも、派遣というビジネスそのもの屋台骨を揺るがすような「大改正」は取り止めた、ということだろう。

震災復興にあたり、派遣の貢献が認められた?

この突然の「心変わり」、背景には何があったのだろうか。

無視できないのがやはり東日本大震災である。建築資材の製造要員、仮設住宅の組立員、保険会社の電話オペレーターなど、スキルのある人材をすばやく、一定数集めるため、復興業務にあたった多くの企業は派遣会社の力を借りなければならなかったはずだ。

現に、震災発生後、細川律夫・厚労相(当時)が、日本人材派遣協会と日本生産技能労務協会のそれぞれの会長を大臣室に呼び、被災地の雇用創出への協力を要請している。この要請を受け、両団体は昨年9月、それぞれ実績を公表した。日本人材派遣協会は、被災4県(岩手、宮城、福島、茨城)で、6682人の新規の派遣就労を実現させた(期間は2011年3月14日から6月末まで)。一方の日本生産技能協会は、被災9県(青森、岩手、宮城、福島、栃木、茨城、千葉、新潟、長野)において、ハローワークを通じ、1691件の求人を創出させた(期間は2011年3月11日から5月末まで)。

これらの中には改正案が禁じていた専門26業務以外の登録型業務、あるいは非常用型の製造業派遣も多数含まれていただろう。適切なスキルをもった人材を、すばやく、必要な数だけ集めるのは派遣会社の得意とするところだ。そう考えると、逆に改正案が成立し、施行されていたら、震災復興がスピーディに進まなかった可能性が高い。民主党がそれまでの案に固執せず、より現実的な修正に応じたのは、震災を機に、派遣業の社会的意義を再評価したということではないか。

有期雇用に関する新しいルール

もうひとつ、政府民主党が態度を軟化させたに違いない理由がある。有期労働契約に関する規制強化の動きである。

日本の労働法では、労働基準法14条に「1回の契約期間の上限は3年(高度技能者は5年)」という規定がある以外、有期雇用に関する規制―――雇用を有期とする理由、更新回数の上限など―――は存在しない。ところが、これも派遣法と同じくリーマン・ショック以降、有期労働契約者の解雇や雇い止めが頻発し社会問題化したため、政府が審議会を主宰し、新たなルールづくりを検討していた。その結果がまとまったのが昨年12月26日。派遣法と同じく、今月から始まる通常国会において、労働契約法の改正という形での審議が予定されている。

ポイントは次の3点だ。

  1. 1、企業と労働者との間の労働契約期間が5年を超えた場合、労働者の申し出により、期間の定めのない契約、つまり正社員契約に転換させるべし
  2. 2、ただし、6ヶ月のクーリング期間(有期雇用契約が1年未満の場合はその半分)をおけば、その前の有期雇用期間に、その後の期間が算入されない
  3. 3、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当である場合を除いては認められないとする「雇い止め法理」をより明確なルールにすべきだ

なお、有期雇用の活用には何らかの合理的な理由が必要、とする、入り口規制に関しては、例外業務を定めるのが難しく、雇用機会の減少が見込まれるなどの弊害も大きいため、今回は規制が見送られた。

「有期⇒無期転換」は派遣スタッフにとっていいことか

派遣も有期雇用の一種であり、当然、この改正案の影響をもろに受ける形となる。たな晒しとなっていた派遣法改正案は、もともと、自民党および公明党から「厳しすぎる」と反発を食らっていたものだ。派遣法では両党の主張を入れ、より温和な内容に修正した上で法案をともかく成立させなければ、本丸の有期雇用法制の成立はおぼつかない。政府はそう判断したのだろう。

これに関してある業界関係者がこぼす。「5年経ったら正社員、という規定が派遣スタッフにとって歓迎されるべきことなのか、大いに疑問です」と。

その理由は2つあるという。

1つは、派遣スタッフは、なぜそういう働き方を選んだのか、ということに対する配慮がゼロだからだ。「派遣スタッフに、派遣のメリットを尋ねると、働く期間や時間を自分で選べる、残業がない、好きな勤務地を選べる、などが決まって上位にきます。これらは正社員になることで、逆に、阻害されてしまう要素です」。

もう1つは、正社員を希望するスタッフが多いものの、その場合の希望とは派遣元、つまり派遣会社ではなく、派遣先で正社員になることだからだ。

ところが法案が成立し施行されると、正社員は正社員でも、派遣元の正社員となってしまう。「派遣会社の正社員、いわゆる常用型派遣がITやエンジニア領域で多いことからもわかるように、スキルが非常に高く、常に派遣先があるようなスタッフでなければ、常用型派遣のスタッフになっていただくのは難しいのが現実です。『5年後は正社員に』となると、登録基準はおのずと今よりも高くなるでしょう。また、休業時の補償や教育訓の費用などを確保するため、今より高いマージン率(派遣会社の取り分)を設定せざるを得ないので、派遣料金も上がります。その結果、派遣の雇用創出機能が弱まり、失業者を増やすことになるのではないでしょうか。先の改正案もそうですが、派遣の実態を十分に把握せず、机上の論議で法律がつくられると現場は混乱します」。

専門26業務適正化プランの存在

実は派遣業界には、もうひとつ、頭の痛い問題がある。2010年の改正法案の国会提出と軌を一にして実施されている「専門26業務適正化プラン」である。派遣期間に制限のない専門26業務従事者の中に、期間制限のある、いわゆる自由化業務従事者に該当する人材が多数紛れ込んでいることを憂慮した厚生労働省が、労働局による抜き打ちチェックなどを含め、その是正を派遣業界に強く指導するものだ。

現場の運用が法律に違反しているなら是正されるのは当然だろう。ただ、その具体策として、厚生労働省が2010年10月に発表した「専門26業務に関する疑義応答集」を見ると、職場や仕事の実態とあまりにもかけ離れた、法律のための法律、施行細則のための施行細則になっているきらいがある。

もともと、それ以前は禁止されていた「派遣=自社で雇った人材を他社(派遣先)で仕事させること」が解禁されたのは、派遣先の正社員の雇用を奪わず、しかも雇用主と渡り合えるほどの高い専門性のある業務に限る、という縛りがあったからだった。最初に定められたのは13業務、それから順次拡大され26業務になったのはご存じの通りだが、その内訳を見ると、「受付・案内、駐車場管理等の業務」(第16号業務)のように、「なぜこれが専門性の高い業務なのか」と、首を傾げざるを得ないものが明らかに混在している。

その結果、件の「疑義応答集」に次のような“珍問答”が現れることになる。

Q:企業の入り口における受付を行っているが、来訪者を応接室・会議室に案内した後の待ち時間に当該来訪者にお茶を提供する業務は、第16号業務に該当するか。

A:来訪者を案内後、面会する相手方が応接室・会議室に現れるまでの待ち時間に、当該来訪者に対しお茶を提供する業務は、第16号業務に該当する。一方、会議開始後に、会議出席者のすべてにお茶を提供する場合のように、受付・案内の業務に伴っていない場合は、第16号業務に該当しない。

派遣スタッフが来客だけにお茶出しをする場合はOKだが、客が会いに来た社内の人間へのお茶出しはNGになるということだ。理屈は分かるけれど、ちょっと杓子定規過ぎやしないか。社員が担当する仕事を減らすために派遣社員を雇った企業に、余計な手間を押し付けるような規定ではないだろうか。冗談ではなく、「社員はお茶出しが済んでから応接室に入ること」というお触れが必要になるだろう。その前に、そもそも「受付」という仕事に高度の専門性が存在するか、という大きな疑問はあるが。

先の関係者は話す。「疑義応答集が派遣業界と派遣先企業に大きな混乱を及ぼしています。違反が恐いので、今までの派遣を直接雇用に切り替える企業も増えています。その場合、既存のパートと待遇を揃えなければならないので、仕事は同じなのに待遇が悪化してしまうスタッフもいます。疑義応答集がある限り、派遣業の未来には暗雲が垂れ込めています」。

こうなったら、業務の縛り(業務によって派遣可能期間に縛りを設けることも含む)は取り払ってしまい、昨今の派遣法論議で決定的に欠けている派遣労働者の保護施策(有期雇用者には認められている契約期間内の解雇に対する休業手当の支給や派遣先の正社員との均衡待遇、派遣先企業の共同雇用責任などを義務づける等々)を充実させた新・派遣法をつくるしかないのではないか。この作業を経ずして、新たな出口規制を派遣法に適用したとしても混乱は増すばかりだ。

とまれ、今週から幕を開けた通常国会、消費税だけでなく、派遣と有期にも注目したい。

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