巷では、景気対策終了とともに、関連する業界の業績ダウンが騒がれ始めています。9月末にトップバッターで終了するエコカー買換え、12月に終了する家電エコポイントと住宅エコポイント。自動車・家電・住宅がそろって売上ダウンを余儀なくされることになります。しかし、この影響は求人に対しては及ばない、という意外な声が聞こえてきました。この景気対策3本柱について、HRmics編集長の海老原がレポートします。※2010/08/19の記事です。
08年9月のリーマンショック後、百年に一度の不況の中で、世界各国でどこも似たような景気刺激策が行われてきた。その一つが、自動車購入支援であり、もう一つが日本のエコポイントや中国の家電下郷などに代表される家電購入インセンティブだ。09年当初より一足早く自動車購入支援が実施された欧州では、すでにこの制度を終了する国が増えている。その結果、自動車の販売数ダウンが起きているのだが、その落ち込みは、国によって大きく異なる。
イギリスでは-9.8%と小幅な減少にとどまり、ドイツでは車種によっては3割に迫る売上ダウンとなっている。これだけ幅があると、果たして日本はどうなるか予測が難しいところなのだが、取材から得た情報では、イギリス程度かそれよりも少ないくらいの落ち込みになるのではないか、という感触を得ている。なぜなら、日本の自動車メーカーは用意周到に以下のような「購入支援終了後」対策を施しているからだ。
こうした対策により、9月末の「エコカー買換え終了」は何とかしのぎ、3月末の「エコカー減税終了」までは、販売目標をクリアすると予想される。ここから先は、民主党公約である、「自動車重量税・取得税」の暫定税率廃止(約半額になる)が実現されるかどうか、がキーとなるはず。この公約が実現すれば、来年度も減少幅は小さくなると予想できる。つまり、言うほど業績は落ち込まない。そこで求人も減らない、というのが一つ目の結論。
では、家電業界はどうか?
こちらは正直、自動車業界ほど準備万端というわけではなさそうだ。確かに、3Dテレビなどの新製品をエコポイント終了後に発売するという動きはあるが、それも大量投入といえるほどではない。しかも、来年7月には地デジ完全移行が終わるので、どんなに頑張ってもテレビ関連の需要は増えない。つまり、エコポイント終了により、最大売上を誇るテレビを筆頭に、家電製品は売上ダウンを余儀なくされる、と予想できる。
それでもなぜか、業界自体は動揺が少ない。この理由は何だろうか?
実をいうと、家電業界の企業は、家電専業ではなく、多くの場合、原子力発電や半導体、太陽電池、産業用機械など家電以外が現在のメイン事業となっている。二つ目が、家電に絞って考えても、国内での売上シェアは50%を切っており、旺盛な新興国需要に支えられているため、国内売上ダウンをある程度カバーできること。そして、家電×国内に絞ってみても、たとえばパソコン関連や光学機器、電話・ファックス・コピーなどのOA機器、掃除機・調理器具など、エコポイント対象外の製品が多く、エコポイント終了が売上ダウンに響く領域は、意外に小さい、ということがあった。自動車業界のように、ほぼ8割の車種が購入支援の対象となったのとは、大きく異なる。
こうした事情により、思いのほかダウンが小さいと考えられているのだ。この構図は、そのまま住宅関連メーカーにも言えるだろう。住宅関連メーカーも商品は多く、また住宅以外の産業用製品も多い。そして、エコポイント対象商品は非常に少ない。しかも、新築住宅の場合、1年以上かかって購入するユーザーが多いのに、「エコポイント」の実施期間はたった9ヶ月。しかも、何千万円もする住宅に対して、エコポイントでのカバーはせいぜい50万円程度。これでは購買促進にはつながらない。売上を大きく伸ばしたのは、リフォーム関連だろうが、こちらは会社全体の売上に占めるシェアは大きくない。
つまり、住宅関連メーカーも家電業界同様、エコポイント終了がそれほど響かないという声が強くなっている。
求人関連に、エコポイント終了が及ぼす影響が意外に小さい理由として、3業界共通で言えることがもう一つある。実は、この3業界とも今回の景気回復では、メイン領域での求人がそれほど増えていないのだ。つまり、「そもそも、激減するほど求人が入っていなかった」。これが下半期以降に求人が減らない最大の理由とも言えるだろう。
3業界とも、2003~08年、つまりリーマンショック前の長期景気拡大期に大量のエンジニア採用を行っている。ここで整えた体制に対して、現状の売上規模ではまだ「過剰雇用」状態であり、本格的な採用回復に至っていないのだ。
確かに、昨年のどん底期と比較すると、3業界とも採用は増えている。しかし、その多くはど真ん中(メイン領域でのエンジニア)での求人ではなく、たとえば自動車業界で電池関連の採用とか、家電企業で(リストラが大きかった)半導体関連の再補充といった周辺採用に他ならない。この他にも、たとえば中堅上場メーカーを主にIFRS絡みでの経理スタッフ採用や、海外進出によって手薄になった国内営業の補充などなど、いずれも、ど真ん中とは言えない部分での求人に留まっている。そのため大量求人には至っていないのだ。
以上で、自動車・家電・住宅関連メーカーの求人に、景気対策終了は、それほど影響を与えない、という理由がお分かりいただけたと思う。ただし、それとは別に少し不安な声も聞こえてくる。電機や自動車の部品メーカーで、特に半製品を中国や韓国、東南アジアに対して輸出している企業が、「そろそろ生産調整に入る」と考え出したことだ。昨今騒がれる新興国の景気過熱感=生産過剰により、それらの国では最終製品の在庫が積みあがっていることを危惧した動きといえるだろう。
では、この状況に対して、同業界を担当する弊社コンサルタントはどう考えているかを以下に正直に書いてみよう。
「前回のリーマンショック時は、長期好景気のため、行け行けドンドンで生産調整が遅くなり、在庫指数も非常に高まりました。その失敗への恐怖感が業界には残っているから、今回は早めの調整を心がけ手堅い経営環境で、大幅増もあり得ない代わりに、壊滅的なマイナスもあり得ない。つまり、来年以降不況が来たとしても、それは緩やかな調整レベルに留まるのではないでしょうか」。
景気の荒波で大影響を受けた業界を担当しているベテランだけに、含蓄ある卓見といえるのではないだろうか。
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