震災と人事管理

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「備えあれば憂いなし」です。

未曾有の激甚災害が東日本を襲ってから早1ヶ月が経過しましたが、その爪痕はなお深く、原発事故の思いもかけない影響もあって、復興への足取りは順調とは言えない状況です。今回は、そうした緊急災害時における労働法の特例の問題を取り上げたいと思います。あわせて、先の阪神・淡路大震災をきっかけに、より一層の整備が進んだ被災従業員の援助制度についてもHRmics副編集長の荻野氏にレポートいただきます。※2011/04/21の記事です。

労基法の特例事項とは

労働法の中核的存在である労働基準法には、今回のような天災を念頭においた規定が4ヶ所ある。まずは、労働時間および休日の特例を定めた以下の第三十三条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)だ。

〈災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない〉

大規模地震などの緊急事態においては、社屋や工場の復旧作業が必要になるため、社員を深夜・早朝に急遽呼び出したり、休日を返上して働いてもらう、という事態が起こり得る。その場合、週40時間、一日8時間までと規定した労働時間の原則(32条)、「週に一度は休日を付与すべし」という週休制の原則(35条)の、いずれも例外を認めたのがこの条項だ。

行政官庁とは労働基準監督署のこと。単なる業務の繁忙によるものや、「必要の限度」を超えたものは認められないのは言うまでもない。以上の内容は、時間外労働と、午後10時から午前5時までの深夜業への従事を禁じた年少者にも適用される〈労基法61条〉。

天災は大切な家財を破壊し、人間に大きな怪我を負わせるなど、思わぬ出費を強いる。賃金の非常時払いを定めた以下の25条(非常時払)も災害を念頭においている。

〈使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない〉

「既往の労働」とは、支払い時点までに労働者が行った労働のこと。たとえば、4月10日に労働者が賃金支払いの請求を行い、会社が4月15日に支払いを約束した場合は15日までの労働分となる。期日に関しては「なるべく迅速に。遅くとも7日以内」というのが通説だ。

三つ目、四つ目は解雇についての条項だ。すなわち、解雇制限の例外について定めた19条、解雇予告の例外を規定した20条である。

いずれも条文が長いので内容を要約して伝えよう。

仕事上の怪我などで休業している労働者と、産前産後で休業している女性社員は、その休業期間中とその後の30日間は解雇してはならないが、天災その他のやむを得ない事由の場合は、そうした解雇も認められる、というのが19条である。

一般の解雇時には、30日前の予告が必要で、万一、なされなかった場合は、30日分以上の賃金を支払う義務を事業主に課すのが20条だが、同時に、天災その他のやむを得ない事由による場合はその義務が免除されることを規定している。

雇用助成金、雇用保険の活用を

そうした解雇に至らずとも、社屋や設備の被害が甚大で、休業を余儀なくされる場合がある。その場合、労基法26条に〈使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない〉という規定があるが、今回の震災は「使用者の責に期すべき事由」に該当するかといえば違うだろう。地震や津波は事業とはまったく関係ない事情で発生したものであり、事業主が最大の注意を払って業務に従事していたとしても避けるのは甚だ困難だったことが予想される「事故」だからだ。

では、会社が被災して働けなくなった労働者はどうすればよいのか。その場合の“杖”となるのが雇用調整助成金および中小企業緊急雇用助成金である。いずれも、休業を実施して雇用の維持を図った事業主に、休業手当の一部を助成するものであるが、今回、厚生労働省が要件を緩和し、部品の供給停止や計画停電の実施で業績が悪化した企業も対象になった。さらに雇用保険失業給付に関しても特例措置が実施され、実際に離職していなくても、会社が被災して賃金がもらえない状態にある場合にも手当が支給されることになった。

休みに関しては、会社側が強いる休業ではなく、労働者による自発的な休職をお願いするというやり方もある。日本航空が、今回の震災による旅客減という事態を受け、この5月から6月にかけて、月100名程度、1ヶ月単位で休職する社員を募集している。会社都合の休業の場合、上記の労基法の規定により休業手当の支払いが必要だが、この場合は労働者の希望を優先した休日なので、無給となる。

最後に検討したいのが採用内定取り消しの問題である。メディアの報道でも、東北地方を中心に、内定を取り消したり自宅待機を命じたりする企業が出始めたようだ。

内定に関する法的な規定は存在しないが、取り消しは、客観的にみて合理的かつ社会通念上、仕方がないと認められるべきものに限る、というのが判例の考え方だ。その際、正社員の整理解雇の4要件、つまり、(1)人員削減の必要性、(2)整理解雇の必要性、(3)対象者を選定するにあたっての合理性、(4)手続きの妥当性、を満たすに準じた対応を求める判例があることを頭に入れておくべきだろう。

過去、内定取り消しが有効とされた例としては、(1)学校を卒業できなかった、(2)経歴詐称が判明した、(3)犯罪の現行犯で逮捕された、などがあり、災害を理由とした取り消しの無効性が争われた例はないが、新卒者の厳しい就職状況が続いているだけに、そうした訴訟が提起される可能性もある。

内定取り消しまでには至らず、自宅待機の場合、その時期が入社予定日前なら問題ないが、予定日以降の場合は、前述の労基法26条により、平均賃金の6割以上の支払いが義務となる。

阪神・淡路大震災、その時企業は?

こうした法律上の緊急避難措置がひと段落したら、被災した従業員の援助が問題になるだろう。これに関しては、関西経営者協会(当時)が、阪神・淡路大震災が起こった直後の1995年2月に行った調査(「阪神・淡路大震災の被災従業員に対する企業の援助措置」)が参考になる。同会員のうち無作為抽出の120社に調査回答を依頼し、うち73社から回答を得た(以下のデータは『労政時報』第3206号より引用)。

まず災害見舞金だが、その額は全損で平均50万7,000円、半損で同29万1,000円、一部損壊で同12万9,000円となっている。全損の場合、最高額が400万円、最低額が5万円、半損の場合、最高額が200万円、最低額が5万円、一部損壊の場合、最高額が80万円、最低額が1万円と、支給金額に幅があるのが特徴である。

それぞれの分布は以下の通りだ。

災害見舞金の金額分布の図

こうした支給基準は「従来の規定に上積みして支給」が60.3%と最も多く、「従来の規定に基づき支給」はその半分以下の24.7%である。それだけ規模の大きな“想定外の”震災だったということだろう。

住宅の確保策(複数回答)は、「自社所有の社宅・寮の提供」が最も多く74.0%を占めた。次いで、「賃貸住宅の紹介、借り上げ社宅の提供」が54.8%、「ホテルの提供」20.5%、「その他」20.5%となった。

住宅の改築や家財道具の買い替えなどを想定した特別貸付金については、68.4%の会社が実施した。いずれも通常より低利、もしくは無利息での貸付けである。限度額については、50万円から300万円とする会社が多かったが、住宅の買い替えを目的にした場合、1,000万円から3,000万円までOKとする会社もあった。

休業中の賃金については、全額支給とする会社が8割近くと圧倒的多数を占めた。

休業中の賃金取り扱いの図

今回の東日本大震災は被災地が広く、原発事故の影響もあるため、復興にかかる費用は阪神・淡路を上回るとともに、必要な期間も相当、長期にわたることが今から予想される。官民あわせた大規模な支援が必要になるだろう。

豊かな自然と四季に恵まれた日本はそれだけ天災の多い国でもある。「万が一」を考えた人材マネジメントの必要性を痛感するとともに、被災された地域、会社の一刻も早い復興を切望するものである。

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