「就職氷河期」脱出のための政府施策は奏効するか(前編)

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若年採用ならびに実習受け入れに関する補助金制度についてレポートします。

めでたい新年も何のその、あちこちのメディアで、「就職氷河期」という暗い言葉が踊っています。今年3月卒業の大学生の内定率は、昨年10月1日時点で57.6%と、政府が調査をはじめた1996年以来過去最低の数字となっています。こうした事態を憂慮した政府が、昨年から、既卒3年程度の若年者を雇用、あるいは実習生として受け入れた場合、企業に奨励金や助成金を出す制度を相次ぎ創設しています。HRmics副編集長の荻野が諸制度の概要と運用状況をお伝えします。※2011/01/20の記事です。

トライアル雇用と採用拡大奨励金

まずは雇用問題を扱う本丸、厚生労働省が、昨年9月に以下2つの制度をスタートさせた。

ひとつは「3年以内既卒者トライアル雇用奨励金」だ。高校や大学に在学している時に就職が決まらず、卒業後3年以内で就職活動を継続している若者を、まずは有期で雇用(原則3ヶ月)した企業に対し、対象者1人につき月額10万円支給し、その若者を正社員として雇用した場合、さらに一人につき50万円を支給する、という内容である。有期雇用が終了した後、正規雇用に結びつかなかったとしても、受け取った奨励金を返還する義務は企業にはない。

もうひとつが「3年以内既卒者(新卒扱い)採用拡大奨励金」である。同じく卒業後3年以内の若者を正規雇用として採用した企業に対し、採用から6ヵ月が経過した時点で、100万円を支給する。この場合、人数にかかわりなく、一事業所につき、一律100万円が支払われ、複数名受け入れたからといって、その分が加算されるわけではない。

どちらの奨励金も、地域のハローワークもしくは新卒応援ハローワーク(学生および既卒者向け求人を専門に扱う専門ハローワークで、昨年9月に開設)に、それぞれの求人を出すのが条件だ。

指針改正により「既卒3年以内は新卒扱いに」

雇用状況に好転の兆しが見えないことから、昨年11月、厚労省は続く3つ目の採用奨励金制度をスタートさせた。「既卒者育成支援奨励金」である。こちらは中小企業が対象で、「育成」と名がつく通り、雇用のほかに、しかるべき教育訓練を施すことが義務づけられている。

すなわち、環境・健康分野の建設業や製造業、あるいは医療・福祉関連業など、菅内閣が定めた成長分野に属する中小企業が、卒業後3年以内の既卒者を、6ヶ月間、有期雇用し、その間、座学などのOFF-JTを実施したうえで、その後に正規雇用に移行した場合、最大125万円の奨励金が支給される。

有期雇用の期間は、一人あたり月額10万円が支給され、さらに座学等に要した経費が月額上限5万円(3ヶ月以内)まで補助される。続く正規雇用の雇い入れに際しては、一人につき50万円が支給される(ただし、正規雇用に移行した3ヶ月後)。こちらもハローワーク経由で求人情報を出すことが必須である。

厚生労働省がこうした「3年以内既卒者」にこだわるのには理由がある。在学中に就職が決まらず、就職浪人となってしまう若者が激増するなか、昨年11月、雇用対策基本法の指針の一部を改正したのである。

具体的には、〈意欲や能力を有する青少年に応募の機会を広く提供する観点から、学校等の卒業者についても、学校等の新規卒業予定者の採用枠に応募できるような募集条件を設定すること〉という条項のあとに、〈当該条件の設定に当たっては、学校等の卒業生が学校等の卒業後少なくとも3年間は応募できるものとすること〉という文言が追加されたのだ。指針なので違反したとしても罰則が科せられるわけではないが、世の中の流れがそう動いていることを企業は認識しておく必要がある。

インターンシップにも助成金支給

一方、雇用ではなく、インターンシップ実施および受講に対する助成金事業もスタートした。

厚生労働省が、昨年9月から開始したのが、「新卒者企業実習推進事業」である。大学などで卒業年次に在籍する学生や、卒業後3年以内の既卒者に対して、最低3日から最長1ヶ月までのインターンシップを受け入れる事業所に、受講者一人に対して日額3400円を支払う内容である。こちらもハローワークが主体となり、企業がハローワークと打ち合わせをした上で、インターンシップの内容を確定する。そしてハローワークが希望者向けにその内容を説明し、応募者を募る形だ。厚労省の調べでは、昨年10月末の時点で、企業の申し込みはごく少数に留まっているという。

これに対して、同じような内容でありながら、利用が多いのが、中小企業庁が昨年2月から実施している「新卒者就職応援プロジェクト」である。新卒未就職者を対象とし、中小企業において、6ヶ月間のインターンシップ機会を提供するという内容だが、実習生本人にも日当を支給する点が効いている。

受け入れ企業に対して、一人あたり日額3500円、実習生に対しても日額7000円を支給する。昨年3月の未就職卒業生を念頭におき、同年2月から募集が始まったが、当初の予定の約5000件の実習成立に達したため、一旦6月で募集を終了。新たな予備費を確保した上で、今度は倍の1万人規模で、昨年10月から改めて募集を再開した。企業、学生ともに今も募集は継続中だ。

この事業の場合、人材派遣会社や各地の中小企業関係団体がコーディネータ役となり、応募者と企業とのマッチング業務を担当している。実態はインターンシップだが、制度の目的は「就職応援」のため、受け入れ先企業は「新卒採用意欲のある企業」に限定している。具体的には、新卒求人情報を出した実績が最近あるかどうかを審査しているという。

インターンシップが採用に結びつく例も

月20日時点で実習が終了した1314人のうち、就職がかなった人が484人となっている。(実習先に就職できた人だけではなく、期間中、他の企業に決まった人も含む)。

たとえば、こんな例がある。

北海道にある学生服製造会社。今までは即戦力となる中途採用のみだったが、このプロジェクトの存在を知り、高卒の女性をひとり受け入れたところ、優秀な働き手であると認められ、実習期間終了とともに正規雇用に移行させた。

同社によれば、新卒の受け入れは社内の教育体系の整備に役立ち、さらに、既存の社員のやる気向上にも結びつく、という効果があったという。関係各社と協議し、地域の学校とのつながりの強化に乗り出そうとしている。

もう1社、京都にある機械金属企業の例である。ここに、このプロジェクトを通じ、コンピュータ系の専門学校に通っていた20代半ばの男性が実習に訪れた。男性はIT企業でプログラマーとして働くことを希望していたが、就職がうまく行っていなかった。そこでプロジェクトに参加したのだが、当初は志望と違うので戸惑った。ところが、企業からの説明を聞くうち、CAD/CAMなどの分野で、機械金属にもIT技術が必須であることを理解し、実習に入った。しばらく働くうち、仕事が面白くなり、将来は機械金属面で働きたいと思うようになったという。実習が終了したら、その企業への就職が実現するのではないだろうか。

現実は「既卒1年以内に46%が正社員」

昨今の若者の就職状況を“超”氷河期だと、マスコミが騒いでいるが、人事の方ならご存知の通り、わがニッポンの就職大陸には、昔から温暖な地域もたくさんある。リクルート ワークス研究所の調査によれば、2011年卒の大卒求人倍率は、従業員5,000人以上の大企業の場合は0.47倍と確かに低い数字だが、300人未満の中小企業の場合、4.41倍もある。

ここで紹介したような制度を活用するのは、ほとんどが中小企業だろうが、こうした機会を通して、「大学を出たら大企業へ。中小企業はそれ以外の人が行くところ」という間違った常識が壊れるといい。

さて、厚生労働省によると、冒頭で紹介した「3年以内既卒者トライアル雇用奨励金」の場合、対象となる求人数が9万4,094人、登録者が2万2,799人、実際のトライアル雇用開始者は2,661人となっている(昨年11月21日現在)。一方の「3年以内既卒者採用拡大奨励金」の場合は、対象求人数が1万1,400人、登録者数が1万340人、採用者は196人となっている(同)。求人数に対して実現した人数の割合は前者が2.8%、後者に至っては1.7%しかない。開始から2ヵ月の時点での数字であるが、緊急対策にしては成果が低過ぎやしないだろうか。

これに関しては、前回海老原が、厚生労働省の「若年雇用実態調査」で本当に注目されるべき数字がそうなっていないと指摘したことを思い出して欲しい。繰り返しになるが、同調査によれば、新卒時に正社員以外の雇用形態(つまりフリーター)だったか、無業者だった若者のうち、実に46%が1年以内にきちんと正社員になっているのである。

つまり、こういう制度の助けを借りずとも、「3年以内の既卒者」の多くは正社員になっていくのではないか。さらに意地悪な見方をすれば、こうした制度が横で走っているがゆえに、厚生労働省は制度の存在意義を薄めてしまうような数字に世間の注目が集まるのを避けようとしたのではないか。

とはいうものの、私たちもこうした制度の存在がまったく無意味であると主張するわけではない。若者にとっても企業にとっても、より使い勝手のよい制度は何か。次回は海老原にバトンタッチし、その問題を考えたい。

若年採用ならびに実習受け入れに関する補助金制度の概要の図

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