前回取り上げた新卒就職問題を解決するための助成金。これで就職氷河も溶け去るか―と思いきや、意外にも「この施策は効果が薄い」との声が聞こえて来ました。確かに企業の採用現場からはそれほど前向きにこの助成金を利用しようという機運が盛り上がっていません。その理由はなぜか?雇用政策を長らくウォッチしてきたHRmics編集長の海老原氏にレポートしてもらいました。※2011/01/27の記事です。
前回レポートした「新卒を採りやすくする」施策は果たしてうまく行くか。
その答えは「否」。
実はこれら施策は、うまくいかない理由が多々あるのだ。その詳細を今回は書き、今、若年雇用対策に本当に必要なことを明らかにしていきたい。
まず、当たり前のことから書いておこう。
「既卒3年新卒扱い」浸透に向けた各種助成金。試行雇用期間の給料補填が30万円、採用時に50万円、1年経過時に100万円。都合180万円が雇用した企業の懐に入る仕組みとなっている。
ただ、資金的に余裕のある超大手企業は180万円という金額にそれほど魅力は感じないだろう。しかも、そうした大手の高利益企業が国費を受け取ることには、社会的批判も生まれ易い。とすると、この施策を利用するのは、やはり中堅中小企業が主となる。行政側の思惑からしてもこれは間違いのないところだろう。
要は、中小企業の若年雇用促進策としての色合いが強い。
しかし、新卒の求人事情に詳しい人からすると、この方針は、ますます「お門違い」に見えてくる。なぜなら、今でも中小企業の新卒求人は潤沢にある。その数はリクルートワークス研究所によれば、この氷河期でさえ30.3万人と発表されている。しかし、その多くが「応募者不足により未決定」に終わっているのだ。
ちなみに、こうした中堅・中小企業では、新卒偏重など少なく、既卒者採用も普通に行われている。前々回にレポートしたとおり、77%の企業は既卒応募をOKとし、採用成功した企業の4割近くがフリーターを正社員登用しているのだ(ちなみに、この数字は、超大手・準大手まで含んだ数字であり、中小企業に絞れば、率はさらにあがる)。こうした中で、新たに新規求人を開拓する必要はあるか?そこが一つ目の問題。
二つ目は、新規求人開拓についても、あまり効果がない、ということ。180万円程度のお金で、真剣に一生採用者の面倒を見ようと思っている会社が、今は求人をやっていないのに、この助成金のおかげで採用を開始するか?大企業よりも大分生涯賃金が劣る中小企業といえども、大卒後60歳まで38年間在籍した仮定でのそれは、ほぼ2億円となる。に対して180万円は1%にも満たない金額。つまり、長期雇用を真剣に考える企業にとっては、中小と言えどもそれほど魅力は感じられない。
結局、この助成金は以下のような企業が利用すると考えられる。
短くまとめれば、「お金をもらわなくたって採用していた企業」か、「何かしら問題がある企業」のどちらかがこの助成金の対象となってしまう危惧があるのだ。
3つ目の問題は、使い勝手。とにかく、この手の助成金は、「利用がしづらい」と企業側の評判が芳しくない。
まず、給与支払いと助成金の支給に大きなタイムラグが発生すること。たとえば試行雇用だと、採用3ヶ月経過後に〆て申請を出し、その後4~6ヶ月程度かかって支給となる。働き初めからすると、1年近くも経っての支給。今問題とされて事業仕分けにかかった「ジョブカード」だとさらに数ヶ月かかって、たとえば3月の期末に受入をした企業に、助成金が支給されるのは、実に、次々期となった、なんて話もある。上記2のような企業にとっては、こんなスローなテンポの助成では全く利用する気がおきないだろう。
そして、申請手続き。
この書類作成が面倒臭く、認定前に講習を受けたり、面談があったりもする。さらに、勤務条件等にさまざまな制約もあり、たとえばジョブ・カードの時は、「実務を離れた教育研修を盛り込む」「それを事前に受入後プログラムとして提示する」などの義務も負った。
人材不足な中小企業にとって、こうしたとても受け入れられない仕組みがここにはある。結果、ジョブカード事業は事業仕分けの対象となった。
さらに、ハローワークの登録者がハローワークを経由して紹介された場合のみ、この助成金は支給される。たとえば、ハローワークに出していない求人に応募した場合は助成金対象外であり、同様に、企業側がハローワークに求人を出していたとしても、近所の人のコネで紹介を受けた既卒者はその対象とはならない。若年求職者の雇用経路としてハローワークは3割を切っているという現実を考えれば、ハローワーク経由のみに絞ることは大きな問題だろう。「試行雇用で求人を出しているけれど、なかなか紹介者が現れない。だから、エージェントに頼んだ」という声も多々聞かれる。
こうした、使い勝手の悪さが敬遠されて、過去のジョブカード、試行雇用とも利用者は著しく少なかった。20代前半の既卒転職者は雇用動向調査によれば、約40万人弱。新卒の就職者数は35万人前後。合わせて75万人が職を得、さらに求人は前述の通り、新卒対象の中堅・中小企業だけで40万件もある。にもかかわらず、既卒3年新卒扱いの助成金の対象求人は1万1,400人、登録者は1万340人、採用者はわずか196人という状況。
過去にもほぼ同様の試行雇用助成金である「高年トライアル雇用奨励金」「若年者試行雇用奨励金」が総務省の「雇用保険二事業に関する行政評価・監視結果に基づく勧告(平成22年1月発表)」において、「助成金等の支給要件等事業実施要件が厳しいため又は事業自体がニーズに合わなくなっている等のため、事業実績が低調となっている」と勧告を受けている。
こうした問題点を厚生労働省もそろそろ反省すべき時だろう。
良い比較参考事例がある。
前回紹介した、厚生労働省と経済産業省(中小企業庁)が別々のプログラムにより実施した「インターンシップを入り口とした若年雇用確保対策」をもう一度読み返して欲しい。
インターンシップ1日当たりの助成金額は厚生労働省3,400円、経済産業省3,500円と、そこにほとんど差はない。にもかかわらず、厚生労働省は9月開始で10月末(2ヶ月後)時点で申し込みはごく少数。一方、経済産業省は3月開始で6月末(4ヶ月後)に予定の5,000件を上回り、申し込み修了。
さらに、実際の稼動も、経済産業省は10月20日時点で1,314件、就職決定は484人(求人1件当たりの決定率は9.6%)。前記した既卒3年新卒扱い助成金での就職成立が、求人当たり1.7%だったことと比べると、申し込み数・稼動実績とも、完全に経済産業省のプログラムに軍配が上がる。
さて、この理由は何か。
要は、
仕組みがなければ成り立たないということだろう。
特に最後の「求職者を振り向かせる」ということは大きなテーマと感じられる。
今までの多くの施策は結局、「企業にお金を上げるから人を採ってください」というだけの代物。そもそも中小企業の求人はいくらでもあるのに、学生がそこに振り向かないという大きな問題がある。ならば、お金を使うのは、「学生が中小企業にいかにしたら振り向いてくれるか」だろう。厚生労働省の施策では、その部分は、総務省勧告を受けた「試行雇用」が第一で、あとは「大学にキャリアカウンセラー設置」というやはりハコモノが主流となっている。
日本が貧しかった当時に生まれた「企業や大学にお金を払う」という使い古された手段。豊かになり選択肢も増えた現在では、こんな「前例踏襲」型の雇用対策など何も意味を持たない。
本格的な施策軸の変更=「若者に振り向いてもらう」ことに対して、行政も識者もそして、企業も大学も、みながスクラムを組んで力を入れていくべき時なのだろう。
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