派遣法-改正案の抜け穴とは何か

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派遣法改正を巡るその後の動きや周辺事情を報告します。

レポートはHRmics副編集長の荻野です。※2010/04/22の記事です。

登録型派遣に大きな打撃

規制緩和から規制強化へ、急転直下の法改正である。マスコミは製造業務派遣と登録型派遣の禁止を改正の2本柱として喧伝しているが、製造業務も常用型の場合は禁止を免れることを考慮すると、今回の改正の大きな柱は「登録型派遣の原則禁止」ということになる。(例外は次の4つ。つまり(1)専門26業務派遣、(2)産前産後および育児および介護休業取得者の代替要員派遣、(3)高齢者派遣、(4)紹介予定派遣)。

派遣労働者を使う経営側ならびに派遣業界、当の派遣労働者にとっても、極めて厳しい内容であるのはご承知の通りだ。

最も大きな影響をこうむるのが26業務以外の、いわゆる自由化業務と呼ばれる仕事に従事している労働者である。前のレポートでも述べたが、自由化業務についている派遣労働者の業務の割合を高い順に並べると、物の製造(24.0%)、一般事務(23.6%)、その他(12.8%)、倉庫・搬送関連業務(5.9%)、医療関連業務(3.2%)、販売(2.9%)、イベント・キャンペーン関連業務(1.4%)、営業(0.8%)、介護(0.6%)となり、圧倒的に物の製造と一般事務が多い(厚生労働省「平成20年派遣労働者実態調査」)。

製造業務派遣は別途禁止の対象なので、登録型派遣の禁止によって最も大きな影響を被るのが一般事務派遣なのである。ただし、“抜け穴”はあった。

抜け穴ふさぎにかかった厚労省

専門26業務のなかに、事務用機器操作、ファイリングという2業務があるが、これが「一般事務」とほぼ同義で使われているケースが多い。専門26業務の中で、労働者の割合が多い2大業務がまさにその2つであり、割合は事務用機器操作が17.4%と1位、ファイリングが10.0%と2位になっている。この時代、パソコンの操作や文書のファイリングが専門性の高い仕事とはいえない。つまり、ファイリングや事務用機器操作という仕事に従事している派遣労働者でも、(自由化業務である)一般事務とさして変わらない仕事をしている可能性が高い。

こうした構図が暗黙的に成立していたので、登録型派遣が禁止されても、自由化業務である一般事務から、26業務である事務用機器操作業務、もしくはファイリング業務に鞍替えして働き続ける派遣労働者が増えることが容易に予想できた。

ところが、事態は急変、抜け穴はすばやく埋められようとしている。この2月8日、厚生労働省が「専門26業務派遣適正化プラン」を発表、(自由化業務である)一般事務と混同されやすい専門業務として、まさに事務用機器操作とファイリングを名指ししたうえで、偽装「専門業務」派遣の撲滅を目指し、派遣会社に対する指導監督の強化を宣言したのである。

その言葉は嘘ではなかった。厚生労働省は3月1日、東京都内に本社をもつ2社、大阪府内に本社がある1社に対する改善命令を発表。いずれの場合も、仕事内容は一般事務などに代表される自由化業務だったにも関わらず、受入期間に制限のない専門26業務(多くは「事務用機器操作」と「ファイリング」)と偽り、原則1年という期間制限を上回って、労働者派遣を続けていたことが咎められた。

うち2社は、派遣会社の業界団体、日本人材派遣協会の理事長、副理事長が、それぞれトップを務めていた大手だったため、業界としても深刻に受け止めざるを得ない。責任を取った2人は同協会の理事長、副理事長の職を退く決断を行っている。

政治の横槍で事前面接の解禁がストップ

この26業務の適正化は、昨年秋から、派遣法改正の中身を審議してきた労働政策審議会において、派遣の規制強化を一貫して主張してきた労働側代表が繰り返し述べてきたことだった。そういう意味では、労働側の主張がさらに認められたわけだが、法案提出の直前になり、使用者(経営)側が譲歩を迫られる事態がもうひとつ発生した。社民党、国民新党の根強い反発によって、3月17日、「事前面接」などの解禁条項が改正案から削除されたのである。

もともと派遣法では、派遣先が派遣労働者を受け入れる際、面接を行ったり、履歴書の送付を促したり、年齢を限定したりといった、労働者の「特定」を目的とする行為は禁止されているが、今回の法案では、期間を定めずに雇用する労働者に対しては、派遣先企業による労働者の「特定」を解禁する条項が含まれていた。

同日の記者会見で社民党の福島瑞穂・党首は「今回の法案は規制を強化するものだから規制緩和の条文があることはおかしい」と述べ、事前面接については、(1)雇用者責任を負わない派遣先が労働者の採用に介入し選別することは労働者派遣の基本構造をおかしくする、(2)女性労働者が容姿で差別されるおそれがある、という問題点を挙げている。

しかし、(1)に関しては、面接の解禁によりマッチング機能が強化されるので派遣労働者にもメリットがある、(2)に対しては、女性の容姿差別を憂慮するなら直接雇用の場合の面接も同じことであり、派遣の事前面接のみを禁止する理由がわからない、という反論も可能だろう。

この修正に対して、法案の中身を答申として取りまとめた労働政策審議会は強く抗議する意見書を長妻昭・厚労省に提出する、という異例の姿勢を見せた。

労働政策の変更は国際労働機関(ILO)条約に基づき、政府側・労働側・使用者側による三者構成方式が取られている。その場が労働政策審議会なのである。出るところは出て、引くところは引き、ぎりぎりの調整の末に生まれた虎の子の答申に対して、政治の横槍が入ったわけだから、怒るのも当然だろう。

派遣会社の許可基準も厳格化へ

派遣に関しては、こうした法制面だけでなく、事業面での規制も着々と進められている。厚生労働省は、この4月から、登録型派遣を手がける事業者の許可更新に必要な基準資産の要件を約2倍に引き上げた(初回は3年、以後は5年ごと)。具体的には、資産から負債を引いた基準資産額を、1事業所あたり、これまでの1000万円から2000万円に、現金および預金額を同じく800万円から1500万円にかさ上げした。さらに、派遣元責任者の要件も厳しくし、派遣元責任者講習の直近の受講日を5年以内から3年以内に短縮化。経営を維持できる体力をもたない弱小派遣会社を市場から締め出すことで、いわゆる「派遣切り」のような事態を防ごうという動きだ。

大手派遣会社の中には全国に100を超える事業所をもつところもあり、そういう場合は膨大な資産の保有を強いられることになる。拠点の統廃合も検討されるだろう。登録型派遣の原則禁止によって市場も縮小する。いずれにせよ、淘汰もしくは撤退を選ぶ派遣会社の数が増えるのは間違いがなさそうだ。

常時雇用とは何を指すか

さて、労働側が、先述した「26業務の実態」と並び、派遣法改正の“抜け穴”と主張してきたことがもうひとつある。今回は禁止の対象にならない、登録型以外の「常時雇用労働者」という概念である。

誤解されがちな点なのだが、常時雇用労働者とは、「雇用期間に定めのない労働者」とイコールではない。派遣会社と労働者が期間に定めのある契約を結ぶ場合も、常時雇用に含まれるのだ。

法案の骨子である法案要綱にはこういう文言がある。

〈派遣元事業主は派遣先に、当該労働者派遣に係る派遣労働者が常時雇用する労働者であるか否かの別(当該労働者が期間を定めないで雇用する労働者である場合にあっては、その旨)を通知しなければならないものとすること〉

これを読む限りにおいては、「常時雇用労働者」とは「期間を定めないで雇用する労働者」も含む、より上位の概念なのだ。

厚生労働省が作成した「労働者派遣事業関係業務取扱要領」によれば、期間に定めがない労働者に加え、雇用期間が1年を超える見込みがある労働者も「常時雇用の労働者」とされている。

“契約社員型”派遣が認められるのか

話が込み入ってきたから整理しよう。今回の法改正で、仕事のある時だけ、派遣会社の社員となって派遣先で働く「登録型」には厳しい規制の網がかぶせられることになる。一方、その網を逃れた、「登録型」以外の「常用型」とは、仕事のあるなしに関わらず、期間に定めのない契約を派遣会社と結ぶケースと、仕事のあるなしに関わらず、派遣会社と契約を結ぶ点は同じだが、契約期間に定めのあるケース、の2つがある。さしずめ、前者が“正社員型”派遣社員であり、後者が“契約社員型”派遣社員である。

改正案を審議してきた労働政策審議会では、労働側が「常時雇用=期間の定めのない雇用」と定義したうえで、その常時雇用型の“正社員型”派遣社員のみを認めよ、と強く主張してきた。そうでなければ、登録型との違いが明確ではなく、派遣労働者の十全な保護にはつながらない、というのが労働側の主張であるが、法案要綱を見る限りにおいては、常時雇用労働者には、期間に定めのある雇用、つまり“契約社員型”派遣社員も含まれる。

法案審議にあたっては、この「常時雇用」の定義が重要なポイントのひとつになりそうだ。

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