男女雇用機会均等法が試行され、今年で25年となりました。前回に引き続き、女性労働の促進策について考えてみます。レポートはHRmicsの荻野副編集長です。※2011/11/17の記事です。
最初に下図をご覧いただきたい。これは年齢階級別に、女性の就業率を国際比較したものである。スウェーデンやノルウェー、フランス、オランダ、アメリカと比べて、日本人女性の場合、20代後半から30代前半にかけて数字が落ち込み、M字カーブを描いている。かつての先進国でもこのM字カーブが必ず表われていたが、ご覧のように今はへこみがなく、逆U字型または台形型になっている。
ここで取り上げた5ヵ国は女性が男性と同じくらい社会で働く国として知られる。前回掲げた以下の表も参考にしながら以下の記述を読み進めていただきたい。
トップバッターはスウェーデンである。
この国は、上のA、B、いずれの政策も充実している、いわば女性活用の優等生だ。
まずAからみていくと、1994年制定の男女機会均等法がある。「日本の雇均法より制定が遅いじゃないか」と侮っていけない。同法は、自社の社員の賃金を調査し、そこに現れた格差が正当的なものか、しかるべき賃金調査を行うことを企業に義務づけている。その結果が開示されたおかげで、最近、約600の事業所で5800人の社員の賃金が引き上げられた。そのうち9割が女性だったという。
とはいうものの、同国で以前から女性が活発に働いていたわけではない。その流れを強めたのが、女性の経済的自立を目指し、1971年から導入された個人単位の課税だった。年金も個人単位で計算されている。老後の安心を高めるには、女性もせっせと働き、稼いだ所得に対する年金保険料を納め、年金支給額を少しでも多くするしかない。日本の専業主婦のように、保険料を納めずとも「第3号被保険者」として夫の年金を受給できるわけではない。
Bで目立つのは手厚い子育て支援である。スウェーデンでは育児休業当が出産後、1年4ヶ月分支給される。日本のように、休む権利が与えられるだけではなく、その間の休業補償もあるのだ!そのうち、最初の1年1ヶ月は出産時の賃金の最大77.6%が支給される。
この受給権は父親と母親に均等分割されていたが、夫婦間で譲渡が可能なため、大部分を母親が活用していた。これを改めようと1995年から導入されたのが「パパ・クォータ(割り当て)制」。1年4ヶ月のうち1ヶ月(現在は2ヶ月に拡大)は父親でなければ受給できないとされている。つまり、取得しないと、休暇どころか、その際の補償ももらえない。一種のペナルティといえるだろう。こうした過激な策のおかげで、民間企業における育児休業取得率は男性は8割弱に達している(女性は8割強)。同じ数字が2%にも満たないどこかの国とは大違いだ。
次はお隣、ノルウェーに移ろう。上のスウェーデンで説明した「パパ・クォータ制」発祥の地が実はここだ。ノルウェーでは1993年から施行されている。今の首相をつとめるストルテンベルグは、1980年代に育児休暇を取り、“主夫”をしていた経験がある。最近では男女平等推進策のトップの職にある男性の大臣が4週間の育休を取ったことで注目された。
民主党の目玉施策、子ども手当の本家もここノルウェーだ。子ども手当て法に基づき、親の収入には無関係で、18歳までの子どもを持つすべての家庭に人数分が支給される。
最近の話題といえば、何といっても、上記Cにあたる役員会の女性比率規制だ。2003年に会社法が改正され、国営企業では2004年から、取締役に一方の性が40%以上を占めなければならなくなった。民間企業にも適用されるようになったのは2006年である。
企業側はすばやく反応した。上場企業460社の取締役会に占める女性の割合は2008年初頭には38%だったが、同年春の株主総会後には44%となった。文句なく世界一の数字である。
南に下って、フランス。かのフランス革命の国だから、女性の働く権利も早々に認めてきたのだろう、と考えるのは早計である。1970年代から、国民のそういう意識がようやく芽生えてきた。そうしたなか、「女性の地位担当庁」が1976年に設置され、社会党のミッテラン政権下の1981年、「女性の権利省」に昇格された。
その後、1983年の男女職業平等法、1984年の育児休業法、1992年の刑法改正によるセクシャルハラスメント禁止など、Aの部分が急速に充実した。日本と比べると、10数年、フランスのほうが先を行っている感がある。
フランスに特徴的なのは男女の格差を徹底的になくそうという動きだ。その動きは、同一、均等、平等などを意味する「パリテ」という言葉に象徴される。1990年代後半には、議員や公職における男女同数を目指す動きが高まり、1999年の憲法改正にまで結びついた。
こうした政治領域だけではなく、社会経済領域における「パリテ」を目指す動きも起こった。今年1月、それがノルウェーに引き続き、企業の取締役会における女性比率を40%にする法案の成立で形になった。
あとの2カ国は駆け足でいきたい。まずは同じヨーロッパのオランダ。1996年に労働時間差差別を禁止する法律を制定、フルタイム労働とパートタイム労働の垣根を取り払った。その結果、パートタイム労働の比率は59.9%とおそらく世界一である(2009年OECDのデータによる)。それは女性が働きやすい国と同義だ。またスウェーデンと同じく、年金制度は1987年に、所得税制度も1990年に個人化された。
最後はアメリカだ。この国は、Aのうち、法的平等についての施策は強固にあるものの、それ以外は国が口出しせず、企業や労働者、あるいは市場の調整機能に任せるという姿勢が濃厚だ。1960年代以降の女性解放運動により、1963年に男女間の賃金雇用平等法、1964年に公民権法の修正条項(雇用差別上の禁止条項として人種・宗教、国籍に加えて性別が導入)が加えられた。
他の国では国家や自治体による施策が多いBに関しては企業頼みだ。連邦単位の育児休暇制度は存在しない。州単位では存在するが、ほとんどが無給だ。
ファミリーフレンドリー、最近では転じてワークライフバランスと呼ばれる諸施策も企業が多くを担っている。優秀な女性人材を引きとめておくため、優良企業のほとんどが自社内に保育所をもっている。
肝に銘じるべきは、こうした施策はその国独自の“土壌”の上に咲き誇った“野生の草花”である、という点だ。きれいな草花だけに目を奪われず、その下の土壌の部分もよく理解しておく必要がある。
たとえば、スウェーデンが女性就労に力を入れたきっかけは高度成長期の労働力不足に対応するためだったし、ノルウェーの場合も北海油田の発見による経済成長がきっかけとなっている(この2国については、どちらも人口が数百万人の小国であるという事情も勘案すべきだろう)。
フランスのやり方は革命以来の人権意識と無縁ではないし、賃金高騰による国際競争力の低下をワークシェアリングでしのごうという発想が、オランダをして、女性にとって働きやすいパートタイマー大国にした。アメリカのやり方も、個人の独立と自由を何より重んじるという建国以来の精神に負っている部分が大きい。
さて、翻って日本。各国のやり方を取り入れるのはいいが、取締役会のクォータ制は明らかにやり過ぎだろう。一方、厚生年金の被扶養配偶者(いわゆる第三号被保険者)の問題がいま議論されているように、夫婦における年金の個別化は不可避の流れかもしれない。アメリカ企業のワークライフバランス政策に関してはもっと見習っていい。
日本の場合、女性の仕事支援が少子化防止策とセットで論じられ過ぎていないか。「男女共同参画が実現すれば少子化が防げる」という仮説のいかがわしさを、データを駆使して明解に論破したのが『子どもが減って何が悪いか!』(赤川学、ちくま新書)である。二兎を追う者は一兎も得ず。なぜ女性が働かなければならないのか。そろそろ冷静な議論が必要だ。
参考文献:
『スウェーデン・パラドックス』(湯元健治・佐藤吉宗、日本経済新聞出版社)
『世界の女性労働』(柴山恵美子/藤井治枝/守屋貴司編著、ミネルヴァ書房)
『ポジティブ・アクション』(辻村みよ子、岩波新書)
『オランダモデル』(長坂寿久、日本経済新聞社)
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