年金問題の本丸を探る-未納者を増やす風聞に注意

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年金制度や老後の生活を破たんさせうる年金未納問題について考えていきます。

近頃では、「年金未納は珍しいことではない」という常識が生まれ、また、「こんな危ない年金に加入するくらいなら、外資系生保の養老保険の方が有利」という声も聞かれます。年金未納の真相とはいかなるものか。今回も海老原がレポートします。※2012/02/16の記事です。

未納者の4分類

年金未納者が4割を超えたことが問題視されている。新聞やテレビでもそうした記事が紙面をにぎわすことは少なくない。

なぜ、未納者は出るのだろうか。原因は以下のように分類できるだろう。

  1. 1、純粋に、払うべきお金の余裕がない人
  2. 2、「年金を払っても損だ」と考えている人
  3. 3、年金未納者が多く、制度自体が危ないと考えている人
  4. 4、企業自体が厚生年金未加入のため、未加入に気づかない人

この種別にしたがって精査していくことにしよう。

まず、1に関してだが、正当に低収入な場合、そこには年金支払いを免除もしくは軽減する制度がある。こうした人たちには、以下のような免除もしくは軽減が本来なら適用される。

図表1:保険料の免除・猶予制度

実際、こうした制度を知らずに加入しない人や、過去の未納(これも免除可能性がある)分を追加徴収されることを恐れてあえて未加入を貫く人などが、日本年金機構の調査で明らかとなっている。

こうした人たちに対しては、免除制度の周知徹底を行うことで、受給可能性を持ってもらうことができそうだ。

次に、2の「損」と考える人たち。

図表2:厚生年金の世代別の給付負担倍率

これも平成21年の第15回社会保障審議会年金部会で上記のような資料が示されたことにより、流れが加速した。ただし、前回の連載で書いたとおり、この「モデル加入」というのが曲者だろう。1940年代生まれの人たちの多くは、諸事情により途中から加入とならざるをえなかった。

  • ・年金制度のカバー範囲が狭い(1954年以降に範囲が徐々に広がった。特に、1986年の抜本改正により、中小企業に厚生年金の加入義務が初めて生まれた。)
  • ・3号保険(勤労者の配偶者用の保険)が1986年まで未整備。
  • ・非正規社員への加入強化は1999年の改正から。

そもそも、厚生年金対象とならない自営業・農業就労者が今よりも格段に多かった。

つまり、長い間厚生年金になど加入していた人は少なく、国民年金でさえ主婦加入の未整備や制度浸透の遅れなどで、欠格期間の長い人が多い。そのため、現在支給者の年金の月額中央値は、8万円余りとなっている。

つまり、現実的にはそれほどの差にならないのだ。にもかかわらず、こうした、「昔はトク、今は損」が一人歩きすることにより、現在の加入率が下がることはゆゆしき問題だろう。

なにより、正常な頭で考えてほしい。物価変動を考慮してなお、公的年金は支払い額の2.3倍を受け取ることが可能。これほど有利な保険・年金商品は他にはないと。

基礎年金全体で考えると未納者はたった4.8%という事実

3つ目の話。未加入が多いから、そのうち破たんするという話。ここでも新聞が盛んに「4割が未加入」等の情報を垂れ流す。

実はこれが大きな間違いなのだ。

この数字は国民年金だけで未払い率を算出している。実際には、国民年金は、厚生年金や共済年金と基礎年金部分は共通。つまり、基礎年金(分母)ベースで未払い率を出せば(厚生年金・共済はほぼ100%支払のため)、未払い者比率はなんと5%弱にまで減る。

現在は過去のように「農業・自営業」比率も少なくなり、そのうえ、昔と違って中小法人にも厚生年金加入義務がある。そして、彼らの配偶者は全額企業負担で基礎年金に加入している。つまり、圧倒的多数(7割以上!)の人が、基礎年金に強制加入させられている中で、残りの3割弱の人たちのうちの一部が、支払いをしていないということ。全基礎年金加入者をベースに、未納者の率をだせば、それはたったの4.8%にしかならないのだ(図表3)。

図表3:年金未納・未加入者は4.8%(平成18年度末)

つまり、年金未納は、ホンの一部の例外的行動である。

さらに付け加えるならば、こうした未納者には年金が支給されないことになる。当然、彼らにまで年金を支払うわけではないから、未納者が増えたからといって、年金財源がひっ迫することはない(正確にいえば、賦課方式のため、一時的に財源が痛むことはあるが、長期では全く関係ない)。いやむしろ、支給者には税金による基礎年金の国庫負担が半額支給されるため、こうした未納者=未支給者が増えれば、国庫負担が減り、財政的にプラスに転じるとさえいえるだろう。つまり、この面でも、全く間違った噂により、「未納」という間違った行動を取っていることがわかる。

過大な希望を持たせる数字もやはりウソ

最後に、未加入の企業(年金逃れ)が多く、これが年金制度を破たんさせる、もしくは、ここを徹底的に調べれば、まだまだ年金財源が生まれる、という4の話について考えていこう。 

ざっくり言うと、以下のようなロジックとなる。

現在、会社に雇用される就労者は5,400万人。ただし、厚生年金加入者は3,400万人。この差の2,000万人が未加入者というのだ。この未加入者に対して、標準的な報酬から年金支払い額を試算すると、年額12兆円の年金原資が生まれる、とも主張する。

さらにこのデータを裏付けるために、国税庁の法人統計も利用して、「法人登記は270万社、社会保険支払い事業所は80万社」とし、やはり、この差の190万法人が年金逃れなのだ、とも説く。

この話が本当なら、まだまだ日本には財源というものが潤沢にあり、胸をなでおろせるのだが、残念なことに、雇用統計を詳しく見ると、ほとんど誤りだとわかってしまうのだ。

まず、未加入2,000万人といわれる雇用者のうち、一番大きいと思われるのが、主婦。彼女たちの多くは3号保険者として夫の会社ですでに保険に加入している。この数、1,010万人(2009年)。精査すると、このうち働く主婦率は7割だから、実際には700万人超が雇用者だろう。2,000万人から700万人を引くと、残りは1,300万人。

ここから、やはり扶養者たる学生バイト(149万人※労働力調査より)を引くと、残1,150万人。

さらに、高齢者の非正規社員。60~65歳だと非正規扱いで年金支払いを意図的に逃れる短時間ワーカーが多く、65歳以上ならば、年金支給者のため支払い義務がない。こうした人たちが主婦を除き252万人(数字は、労働力調査に既婚率を掛け合わせた推計)。

これで残りは900万人。

加入義務のない人たちはまだまだいる。65歳以上ならば正社員でも年金受給者なので年金支払い義務はない。その数約70万人。これで残りは830万人。

さらに、この雇用者という中には、自営業者の従業員(家族専従員を除く)も含まれる。こうした彼らの実数は不明だが、雇用者ありの自営業者は163万人とわかる(09年労働力調査)。こうした事業者が仮に1.5人を雇用していたとすると、約250万人となる。この数字を差し引くと、残りは580万人。

ここまでの、私の粗い試算でも数字はずいぶん小さくなった。

ただし、この試算はまだ終わらない。この580万人の中に、①の「免除対象」の低額所得者が含まれるからだ。それを除くと、たぶん、残りは400万人程度になるのではないか? もちろん、全件把握のうえ、全件徴収は現実的でないから、未加入法人問題で新規加入を見込めるのは、300万人程度が関の山だろう。しかも、未加入法人は小規模・零細なケースが多いため、標準報酬も低く、正当に支払った場合でも、その合計額はそれほど大きくない。大まかに考えて、1.5兆円程度ではないだろうか。

つまり、一部でうわさされる2,000万人、12兆円というのは過大な想定なのだとわかるだろう。


どうだろうか?

雇用に関する数字は、担当官庁が社会保障系・税務系・住民管理系にわかれているため、統計の合算が難しく、魑魅魍魎となりがちだ。そこからいつものごとく、色々な憶測数字で風評が流れがちとなる。

ただし、一つ一つ精査していくとそのほとんどが根拠のない誤りだとわかる。これが私のライフワークともなりつつあるので、いささか疲れてきたが。

年金問題に関しても、同じ。

誤った風聞で失望したり、扇動されたりするのはやめよう。同様に、過大な希望的数字に心踊らすこともやめにしよう。

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