どうなる?女性の社会進出とクォータ制

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前例踏襲型のクオータ制に異議あり。本丸を見据えるべき。

安倍政権が女性の社会参加を促す支援策を拡充させつつあります。育休3年義務化、という話が物議を醸したのが記憶に新しいところですが、その他にも、全上場企業で女性役員輩出を努力義務化する案も打ち出しています。その先に想定されるのは、役員や管理職における女性割合に、最低ラインを義務付ける「クオータ制」となるでしょう。早くもこの話を巡って、マスコミでは、女性の社会進出推進派と、現状維持派との間でつばぜり合いが始まりつつあります。『女子のキャリア』などの著作で、この問題に対して早くから世に意見を問うてきた、HRmicsの海老原編集長に意見を聞きました。※2013/09/12の記事です。

欧米先進国で広まる「役員に占める女性比率」でのクォータ制

私が、女性の社会進出について本格的に考えるようになってから、もう3年になる。これまで、その中間成果物として、2011年12月にHRmicsの特集で「女性にキャリアがなくて、日本に明日があるか」と、2012年10月に『女子のキャリア-男社会の仕組み教えます』(ちくまプリマー新書)を発表してきた。

今回はその続きとも言える話を書いていきたい。

女性が本格的に社会進出するために、「クオータ制」が必要かどうか、についてだ。

クオータ制という言葉、まだそれほど浸透はしていないと思われるため、ざっと概略を示しておこう。

これは、簡単にいえば、役職別に、女性の登用割合を決めて、それを義務(もしくは努力義務)化するということだ。

この仕組み、1988年にノルウェーで「公的機関が4名以上の構成員を置く委員会、執行委員会、審議会、評議員会などを任命または選任するときは、それぞれの性が構成員の40%以上選出されなければならない」という男女平等法ができたことに始まる。

こうした公的機関におけるクオータ制はその後世界各国に以下の通り広がっている。

  • ・議員候補などのクオータ制を政党が綱領にしている国:73か国163政党
  • ・国会議員のクオータ制を憲法で定めている国:14か国(準備中3か国)
  • ・国会議員のクオータ制を選挙法で定めている国:38か国(準備中3か国)
  • ・地方議会議員のクオータ制を憲法・法律で定めている国:30か国

こうしたなか、大手企業の役員の女性比率について具体的な法律が世界各国で成立していった。

ノルウェーでは、2004年に会社法を改正し、企業の取締役に関しても、同様の規定を設けた(政府系企業は2004年内に義務化、一般上場企業は08年から義務化。罰則規定として、株式会社登録の取り消しがある)。

前後してイスラエルが取締役のクオータ制を定め、現在では、フランスやスペイン、オランダ、アイスランドなどでも、法律が整備されている(図表①)。

図表1:諸外国における女性クォータ制の実態

日本はどうか、というと法律的にはその定めはまだないが、2003年に男女共同参画推進本部にて、「2020年までに企業の指導的な地位にて女性の登用が30%を超えること」という計画が掲げられた。

最近では、安倍首相が経済3団体幹部に、すべての上場企業で、執行役員、取締役などの役員のうち1人は女性を登用するよう要請し、3年育休義務化などとともに物議をかもしたのが記憶に新しい。

こうした動きの中で、日本も本格的にクオータ制を導入すべきか否か、という話が盛り上がりつつある。

私はクオータ制について、現実的な立場をとる。それは反対でも推進でもない。きちんと地に足のついた数字で目標を作るべきと考え、そして何より、欧米諸国が作った制度をそのまま直輸入するのではなく、日本にとって最も実効性が高くなるような仕組みを、一から組み立てるべき、という意見だ。

以下、その詳細について語っていこう。

女性の人材プールとクォータ制の関係

まず、現在の欧米のクオータ制はどうなっているか?

ノルウェーでは両性とも、上場企業の役員比率が4割を下回ってはいけない、という均衡目標となっている。スペインでは、従業員250名以上の上場企業で、2015年までに役員の女性比率を4割に、アイスランドでは同50名以上の企業で2013年9月までに4割、オランダでは2015年までに3割以上に、フランスでは上場企業・非上場企業で実施までの猶予期間は異なるが、2011年以降、指定期間内に決められた割合までに女性比率をあげることが法制化されている。

こんな数字と歩調を合わせるように、国内のクオータ制推進論者からは、女性の役員比率2~4割という数字が掲げられる。欧米でできることがなぜ、日本でできないのかという論調だ。

私はここを精査したい。

北欧諸国での女性の社会進出は、第二次世界大戦後の復興期に、戦災を被らなかった同地域がその牽引役となったため、極端な労働力不足が起きたことに始まる。つまり、1950年頃からそれが起こり、そうして40年以上たった1990年代に役員のクオータ制は成立する。その間に、優秀な女性が多数、経験を積み、役員相応の人材プールが整備されてようやく実現したわけだ。

一方、フランスでは1960年代のユニオン・リーブル運動や、70年代の低成長(=家長の賃金削減)などで専業主婦モデルは崩れ、女性の社会進出が加速する。そこからやはり40数年たった現在、女性の役員クオータ制が法整備されている。一番女性進出が遅かったオランダでさえ、1982年のワッセナー合意でダッチモデル型労働が開始されてから、やはり30年の時を経て、民間企業での取締役クオータ制は成立した。

つまり、女性の本格的社会進出から40年程度経ち、経験豊富な人材が揃った段階で、取締役のクオータ制が実現する、という流れだ。

この現実的なスピードからすると、日本に女性役員のクオータ制はまだ早いというのが正直なところ。どうしてもそれを掲げねばならないならば、10%程度が妥当と考える。

理由は、日本では女性の社会進出が2000年前後から始まったばかりであり、まだ人材プールが整っていないからなのだ。

確かに、男女雇用機会均等法は1985年に整備され、30年近く経過した。しかし、同法の施行当時、女性の4年制大学進学率は12%程度であり、しかもその進学先は、女子大の家政学部が多かったため、産業界に受け入れられる人材は少なかった。こうした進学の問題が解決されるのが1990年代中盤。1996年に短大と4大の進学率が逆転し、彼女らが卒業する2000年前後にようやく下地が整い始める。そこから現在15年足らず。つまり、係長相応の年代で女性人材プールが整い始めた、というのが現在なのだ。

経験の浅い社外登用者では、実務ポジションは厳しい

さて、こうした現状分析をもとにクオータ制の数字設定を議論するときに、いつも反駁する声が寄せられる。

それは、「役員となる人の年齢を、熟年層に想定していることが問題だ。本来、年齢と能力に関係はないだろう。それも、役員となるほどの最優秀な層であれば、とりわけその傾向は強い。何より、けっこうな規模のベンチャー企業では、30代でも普通に役員をしているではないか」という指摘だ。

そして、この話は、大体こんな感じに展開されていく。

「そもそも、東証一部上場企業に限れば、その数は2000社にもならない。ならば、30代の優秀な女性が1万人程度いれば、彼女らが掛け持ちで数社の役員となることで、事足りるはずだ。それぐらいの人材プールはあるだろう。」

私はこの話に、一部共感する部分がある。確かにそうした人たちを活用するのは一つの手といえるだろう。

ただし、そうした人材を活用し、そして一方では、均等法施行直後から働いている希少な女性熟練層を活用し、両方でようやく1割程度、女性役員が誕生させられるのではないか、というのが実感なのだ。

なぜか?

30代の社外役員の女性が受け持てる役員ポジションは、どうしても限られるためだ。

役員というと、会議で意見を述べるだけの仕事と思われがちだが、現実世界ではそれは全く誤りといえる。たとえば、財務担当の役員は、資金計画に基づき、銀行や証券会社と頻繁に交渉を行う。

同様に、営業担当の役員は、自分の管轄する販売会社に対して脅し透かしをまじえて、手練手管で交渉をしていくことになる。

同様に、政府渉外担当の役員は、関係省庁と複雑で難易度の高い調整を日々行う。

つまり、役員とは、その会社の事情に精通して、高度な実務を行うことが要求されるのだ。もちろん、そうではない、洞察力や発想力が必要なポジションもあるだろう。ただし、その数はそれ程多くない。たとえば、CSR担当やダイバシティ担当、CRMや商品企画などでは、30代女性の若々しい感性を取り入れるのもよいだろう。しかし、それが限界ではないだろうか。彼女らに代理店渉外や銀行との資金繰りや、官公庁との調整をお願いすることは、明らかに難しいはずだ。

3割や4割という役員比率になれば、必然、こうした高度な実務ポジションの席が多数になる。そこに、実務経験の少ない、掛け持ち役員を置くというのは難しい。

だから、昇進スピードの早い欧米でさえ、フォーチュン500に入るような大企業の役員初任年齢は40歳を超える。

まずは10%を軸に、努力目標ではなく、義務化を

現実的な線として打ち出すべきは、やはり、2020年を目処に、女性役員を1割義務化、という線ではないか。実は、我らが師と仰ぐ欧米でさえ、1990年代にクオータ制が整った北欧以外は、女性役員は10%程度なのだから(図表②)。

図表2:女性取締役割合の国際比較(%)

ただし、この数字を努力目標ではなく、「義務」とする。こうなれば、優等生の大企業軍団は、必ず目標を実現してくれるだろう。そのために、5%の優秀な勤続女性を抜擢し、社外掛け持ち役員を作る、というような形で。それを礎にしながら、2030年に向けた次の目標を立てればよいのではないか。その時こそ、3割という数字が現実味を帯びてくる。

こうした現実論に対して、急進派からは、「女性役員が1人だと、男性主流の中で埋没する」という意見が寄せられる。ただ、この点についても、1割義務化なら私は問題が少ないと考える。なぜなら、1割義務化でも、11名以上役員がいる会社では、女性が2名必要となり、同様に21名以上いる会社は女性が3名必要となる。一部上場企業なら大抵は2名以上ということになるからだ。

本丸は人材プールを厚くするための入り口目標のはず

さて、ここで政府にも推進派にも厳しく言いたいことがある。

こうしたクオータ制については、表層上の数字、それも欧米で先例のある話ばかりが主体になっていて、本質的な問題がおざなりにされている、ということだ。

まず、本格的に実務ポジションで女性役員を誕生させるためには、女性の人材プールを充実させることが、課題だとわかっただろう。ならば、その入り口にあたる採用場面で、女性割合について、しっかり目標を持たせることが必要だろう。この点に関して関係者に聞くと、たいていの答えは、「私企業の経営活動にはタッチできない」となる。しかし、それに違和感を抱いてしまうのだ。なぜなら、「主導的な地位に占める女性割合」も、間違いなく「私企業の経営活動」に関するサジェスチョンだからだ。それが許されるのに、入り口の「女性採用割合」についてNoというのは逃げ(もしくは、欧米がやっていない=前例主義)だろう。

企業はどうしても、産休や育休などのライフイベントコストが発生する女性採用に二の足を踏む。とりわけ、優秀な男子大学生の応募に事欠かない大手人気企業はその傾向が強い。図表③は東洋経済新報社の『就職四季報(女子版)』から調査した、大手企業の総合職採用に占める女性割合だ。

図表3:新卒総合職に占める女性の比率(%)

一目瞭然だろう。入り口で、遠く3割に及ばない女性比率というのが現実なのだ。これでは、いつまで経っても女性の人材プールが3割に届く可能性は少ない。ここに手を打つ重要性に気づいてほしい。義務とか努力目標がふさわしくないなら、3割を超えた企業に対して、評価・表彰するという方向でもかまわないから、早急に入り口施策を整えてほしいところだ。

さて、この話をすると、メーカーなどからは、「そもそも、エンジニア採用が主なので、理工学部出身者が大多数となる。その理工学部に女性が少ないから、必然的に女性採用が少なくなる」という嘆きの声が聞かれそうだ。

この話は根が深い。理工系こそ注目されがちだが、実は、産業界が欲しがる法律・政治・経済・経営・商学部系でも女性比率は、少ないのだ。

女性の社会進出を考えていくと、最終的に学部専攻という壁に行き当たる。ここにも手を打たなければならないだろう。だとしたら、大学の学部別に、アファーマティブ・アクションとして、女性優遇を実施する方向を打ち出してみてはどうだろう。それは無理、ということもない。インドなどでは、マイノリティ民族に優先的に大学入学枠を振り当てる政策がある。それと同じで、アファーマティブな規定なら、決して実現できない ことはないだろう。

たとえば、中教審でそれを題材にするのもいい。もしくは、行政との関係性が強い国公立大学にて、先行導入するのもよいだろう。国公立大学こそ、大手企業の採用実績が大きいわけだから、それだけでも十分効果は発揮するはずだ。

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