リクルートエージェントは、人事専門誌『HRmics』を年3回、発行していますが、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えする「HRmicsレビュー」を定期的に開催しています。さて、5月24日にリクルートエージェント社内で行われた、第9回目のレビューの概要をお届けする最後となる今回は、HRmics編集長、海老原嗣生の講演の内容をお伝えします。テーマはずばり能力主義。本論となった楠田丘氏の話を補足する形となりました。レポートはHRmics副編集長の荻野氏です。※2011/06/23の記事です。
能力主義という言葉、世間では、けっこう誤解して使われたりする。雑誌の記事などでよく見かけるのが、「今までの終身雇用・年功序列の世界を切り捨て、企業は能力主義に舵を切った」というものである。この場合、能力主義ではなく、正しくは実力主義というべきだ。
こうした混乱が起きてしまうのは、「能力主義とは何か」という理解が難しいからだろう。しかも、「能力主義=物事をなし得る力の大きさを重視すること」と、字面のみで理解したとしても、それが現実の企業組織でどういった現象となって表われるのかがはっきりしないことも、論調をおかしくさせる一因ではないか。
海老原はまず(日本流の)能力主義と(アメリカ流の)職務主義との違いを、英語、ドイツ語、双方のカリキュラムを備えた語学スクールをたとえに説明する。
英語しか話せない講師A、どちらも話せる講師B、2人の講師がいたとする。能力主義下では、当然、講師Bのほうが能力が高いと見なされるので基本給が高くなる。ところが職務主義になると、こうした個人の能力に対する評価は存在しない。給料はあくまでも仕事に応じて支払われる。時間給に講義時間をかけて算出される。
海老原:「能力主義下では仕事に必要な力をつけた人の基本給はアップします。その結果、毎夜、自分の家でドイツ語を自主的に勉強する人が増えるのです。そうやって培った力が仕事で発揮され評価されると仕事が面白くなりますから、会社に対する愛着心が芽生え、勤続期間が長くなっていく。それが人間というものでしょう。対する職務主義下では、給料を上げるには今より上のポストに就くことが絶対条件です。もしポストが空いていないなら、余所で探すしかない。だから転職が増えるのです」
つまり、まず能力主義は社員を自己啓発や自己研鑽に向かわしめ、一つの企業に長く働かせる仕組みとして作用するということだ。
さて、海老原の比較は続く。今度は異動の話である。
職務主義のアメリカ企業で、営業から企画、そして経理に異動する人がいたとする。かの国では、職務の難易度によって給料が変わる。つまり、一般的には仕事の難易度が最も高い2番目の企画職についた時の待遇が最もよくなる。一方、能力主義の日本企業では、職務ではなく、本人の能力が給与を決めるため、査定に応じて連続的に給与も上がる。つまり、企画になっても給与はスライスにしか上がらない。さらに経理に異動すると、アメリカでは「給与ダウン」、日本は件の通り連続的にスライスに上昇していく。
海老原:「異動により給料の額が変動するとなると、異動が忌避されてしまうのは当たり前です。ところが日本企業の場合は連続的だから、異動もすんなり受け入れてもらえます」
異動には、(1)部署間の繁閑に対応できる、(2)個々人の仕事の向き・不向きが緩和され適材適所に至る、という2つの効用がある。それがスムーズに行くのも能力主義があるからなのだ。
さて、3つ目の比較話である。こんな内容だ。
仕事の内容が同一の3人の営業マンがいたとする。22歳の新人営業マン、28歳のベテラン営業マン、38歳の超ベテラン営業マンである。
職務主義をとるアメリカ企業では、職務給は横並びとなり、成果給の部分のみが三者三様となる。一方、能力主義下の日本企業の給料は職能給。これは、たとえ同じ仕事に従事していても能力の高い年長者ほど高く設定される。成果給もあるが、比率はアメリカ企業ほど高くない。
海老原:「それによって、どんな違いが生まれるか。アメリカ企業ではベテランが新人を手取り足取り、教えるということになりません。そういう役割が与えられ、専用の手当てでもあれば別ですが、基本的に給与は成果でしか差がつきません。ならば、「教える」よりも「成果獲得」に力を注ぐのが必定。仕事の後に飲みで、ベテランが新人をご馳走し、プライベートな相談にも乗るということも起こりにくい。そう、教え合い、助け合うという関係を築くのが大変難しいのです。その対極にあるのが能力主義下の日本企業です」
以上をまとめると、能力主義には、以下のようなメリットが存在するといえる。
(1)常に勉強し、自己研鑽を怠らない社員をつくる
(2)異動がスムーズになされることで、柔軟な人員配置が可能になる
(3)個人にとっては、異動により、仕事の向き・不向きを何度か試せる
(4)教え合い、助け合う風土が醸成される
これらは個人のキャリアを考える際にも生きてくる。特に(3)についてである。
海老原:「世間には数限りない仕事があるといっても、大卒ホワイトカラーの場合、7割が営業、2割が事務、他の専門職に就くのが1割というのが標準でしょう。世にごまんとあるキャリア本というのは、たった1割の専門職の世界にとらわれ過ぎているのではないでしょうか」
その7割を占める営業のキャリアを考えてみよう。
海老原:「大企業の場合、上司、担当地域、事業が次々に代わることで、自分の力が発揮できるポジションを自然に発見できる。それでも駄目だったら、内勤への職種転換という手もあります。20代のうちに、こうした再チャレンジが3~4回もできる。これが可能なのは能力主義で組織が運営されているからです。自分にあった天職は何か、というプレッシャーに悩む若者が増えていますが、発想が間違っています。日本型雇用では天職を見つける必要はない。自然に見つかるものなのです」
当然のことながら、能力主義にもデメリットの部分がある。能力は一旦、獲得されたら退化したり雲散霧消したりしない、という考えを採るため、一度上がった給料を下げるのは至難の技になるのだ。ところがHRmicsレビュー、予定時間を超過したため、残念ながらここで幕切れとなり、この話題にまでは海老原は踏み込めなかった。他日を期したい。
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