人事管理はなぜ難しいのか

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一人ひとりの管理職に高度な人事管理機能を発揮させることを目指すべきである。

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、1月24日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けしています。最終回となる今号では、東京大学社会科学研究所教授、佐藤博樹氏が語った内容をお伝えします。※2014/02/27の記事です。

人事のOSとアプリケーション

人事管理システムの違いを比較する場合、何を比較するのかが最も重要である。つまり、その根本原理同士を比較しなければ意味がない。その根本原理とは、パソコンにたとえると、人事システムが拠って立つところのOS(オペレーティング・システム)である。

人事のOSとは、具体的には、社員と仕事を結合させる仕組みのことだ。

海老原氏は、日本企業のOSはまず人ありきで、その人に合った仕事を柔軟にアサインさせる仕組みであること、一方の欧米企業は仕事としてのポストありきで、一つひとつのポストに合った人を当てはめる仕組みであると指摘した。その通りである。そのために日本企業の人事は社員の能力別格付けを熱心に行い、欧米企業は個々のポストの賃金設計を重視することになるのだ。

一方、人事管理のアプリケーションソフトとは、具体的には、採用から能力開発、配置・異動、労働時間、雇用調整、そして退職に至る雇用管理であり、人事考課、昇進・昇格、賃金、付加給付などの報酬管理である。その2つはOSが異なれば、違ったものになる。欧米企業のやり方、たとえば成果主義を日本企業が真似しても機能しないのはOSが違うからなのだ。しかも各アプリケーションソフトは相互依存関係や補完関係にある。

同一企業内で複数のOSが存在することもある。たとえば、どこの企業でも正社員とパート社員とで、社員と仕事を結合させる仕組み、つまりOSが違うはずだ。

さらに、このOSやアプリケーションソフトに影響を与えるものがある。経営者の価値観(日本企業は「社員の代表」、欧米企業は「株主の代表」)、技術のあり方、労働者の価値観といった内部環境であり、法制度、労働・製品市場の様態、社会の権力構造、労使関係といった外部環境である。

人事と購買で似て非なる点

人事管理システムが日本と欧米とで異なっているからといって、人事管理が担うべき本質が異なるわけではない。

人事の本質的機能に関して、私は次のように定義する。支払い可能な総人件費の範囲内で、企業が行う事業活動が必要とする労働サービス需要を充足させることである、と。

「人事の仕事とは人を管理する仕事。だから人が大事で、人が好きでなければ務まらない」。こう言う人がよくいる。でも先の定義に照らして考えると、この言葉は半分だけ正しい。人事は人だけではなく、仕事も見なければならないのである。

あるスペックの経営資源を、一定のコストで、必要な時期に調達し、社内に供給するという意味では、人事と購買はよく似ているが、決定的違いがある。購買が購入した物品は面倒な手当ては要らないが、人事が採用した人はそうはいかない。その人が仕事に意欲的に取り組んでくれ、想定した通りの働きを発揮してくれるかはまったく未知数なのである。そこが人事の仕事の難しいところだ。同じ職業能力を持っていても、それを発揮する意欲が低ければ、仕事の量と質が低下してしまうのである。

人事管理が目指すのは従業員が能力発揮意欲の高い状態で働いてもらうことだ。「上司から言われたから働く」というレベルを脱し、自ら考え、自主的に働いている状態である。それは「自己管理」ができている状態といえる。

カイゼンは必要に迫られて

戦後の日本企業では、そうした自己管理を促進する、柔軟な職務設計が行われていた。それには「仕事に人をつける」のではなく、「人に仕事をつける」ことのよさが影響していた。

たとえば、日本の大企業の工場労働者の多くが不良品を自ら発見し、その原因を突き止めることができる。いわゆるカイゼンの仕事である。実はこれはせいぜい1960年代からの取り組みだ。それ以前は、カイゼンは労働者ではなくて、エンジニアの仕事であった(欧米の工場では今でもそうだ)。

カイゼン活動に従事するよう、人事が論理的に考案したわけではない。高度成長で技術開発や製品開発にエンジニアを多く配置せざるを得なくなり、現場の労働者の範囲をエンジニアの分野にまで広げざるを得なかったのである。もちろん、スムーズにことが進んだわけではなく、エンジニアからは「自分たちの仕事をなぜ労働者が担当するのだ」という反発もあったようだ。

とにかく、そうした柔軟性が日本の現場にはあった。これがポストで仕事が固定されている欧米の工場ではなかなかできなかったが、最近では欧米の工場でも日本のやり方を取り入れ、仕事だけでなく能力で決まる賃金部分を増やしている。

仕事だけではなく私生活のケアも

そもそも人事管理は従業員のモチベーションをいかに上げるかという研究から始まった。きっかけとなったのが1924年から1932年にかけて、アメリカのウェスタン・エレクトリック社の工場で行われた、いわゆるホーソン実験である。職場の明るさや部屋の温度、休息時間など、様々な条件が仕事の効率にどう関係するのかを調べたところ、結果は驚くべきものだった。そうした物理的要素よりも、上司との人間関係や自分が注目されているという意識、個人の仕事観といった社会的要素に大きく左右されることがわかったのである。これが人事管理の出発点なのだ。

それから幾星霜を経て、21世紀となった。時代は大きく変わった。従業員の仕事へのモチベーションだけに留まらず、仕事以外の生活の充実にまで人事が気を配らなければならない時代になった。ワークライフバランスである。私生活の充実が能力発揮意欲を高めるというわけである。昔はワークだけ見ていればよかった。ワークワーク社員である。今はワークライフバランス社員が求められる。人事管理はますます難しくなりつつある。

人事機能の7割は管理職が担う

もうひとつ、人事の仕事の難しさを挙げておきたい。人事の仕事の担い手が人事部員とは限らないということだ。具体的にいえば、ラインの管理職が人事管理機能の大部分を担っている。私の感触では、人事が担う人事管理機能は全体の3割程度にしか過ぎず、残る7割は現場の管理職が担っている。

問題は、その大事な人事管理機能を担っているのに、その自覚をきちんと持っているライン管理職が少ないことだ。

欧米企業は違うようだ。あるポストに欠員が生じたとする。それを埋めるために、人事の応援も得ながら、社内外から候補者を集め、自分で面接して適任者を決める。採用の最終責任も握っているため、報酬も管理者が本人と話し合ってきめる。こうしたプロセスを何度も行っていれば、自分が人事管理機能を担っているという自覚が生まれるだろう。

日本企業はここまでやらない。管理職に、自分が人事管理機能を担っているという認識をどう与えるか。これも日本企業の大きな課題である。

部下に仕事をしてもらうのが管理職

その認識が日本企業の管理職に薄いのは、仕事ができることだけで管理職を登用しているからではないか。管理職は仕事ができるだけでは務まらない。そもそも管理職の定義は、自分に課せられたミッションを、部下に仕事をしてもらうことで達成する人、である。 

自分のミッションを100とし、部下全員の力を合わせても80しか達成できないという場合を考える。

自ら率先して動き、残りの20を達成してしまう人は管理職失格である。全員の力が100になるよう、能力が足りない部下の育成を図る人はすばらしい管理職だ。本当は実力があるのに、意に沿わない異動でやって来て仕事の意欲が下がっている部下とよく話し合い、その意欲を引き出し、上向きにさせられる人、これもすばらしい管理職だ。

人材育成にモチベ―ションアップ、管理職のミッションとは人事のミッションそのものである。自らが動くのではなく、一人ひとりの管理職に高度な人事管理機能を発揮させることを目指すべきだ。

適切な排出機能も重要になる

経営環境の変化がますます早くなってきた。今後の人事の課題は、そうした変化にキャッチアップできるだけの高い学習能力と柔軟性を社員に身に付けさせることだ。

一定年齢以上で、それができなくなった社員には、キャリア面談を実施した上で、他への転進を促すのも人事の重要な機能となる。もちろん、10人が10人、うまく行くとは限らない。やはり古巣で頑張りたいと決断する人も出てくるだろう。日本企業では転職は裏切りであるという感覚がまだ根強い。転職活動を行ったという事実を人事が上手に隠してあげることも大切ではないだろうか。

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