戦後の環境変革と人材政策の歴史~人事の本道を見つめよう~(後編)

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小手先の人事論ではない、まさに人材社会学の優れたエッセンス

リクルートエージェントは、人事専門誌『HRmics』を年3回、発行していますが、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えする「HRmicsレビュー」を定期的に開催しています。今回は前回に引き続き、5月24日に行われたレビューから、戦後の日本の人事をつくりあげた伝説の人事コンサルタント、楠田丘氏の講演の内容をお伝えします。話されたテーマは、(1)過去100年の日本企業の人材政策、(2)日本型成果主義、(3)人材システム変革に大切な心・技・体とは、(4)ワークライフバランスの4つ。今回は残る(3)と(4)を取り上げます。レポートはHRmics副編集長の荻野氏です。※2011/06/16の記事です。

国難を救うために今こそ人材社会学を

前回は、20世紀初頭からの日本企業の人材政策の変遷を振り返り、年功主義(年功給)→能力主義(年齢給)→職能主義(職能給)→アメリカ型成果主義(職務給)を経て、日本型成果主義の時代になったこと、そしてその日本型成果主義の中身について説明した。

楠田さんの話はいよいよ「人事の本道は何か」という話題へ入っていく。

前回、見てきたように、戦後の日本企業の人材政策は20年から30年を周期に目まぐるしく変化してきた。こうした激しい環境変化の中で、自社に適合した制度をつくるには、じっくりと腰を据え、労使が協力して対応する必要がある、と楠田さんはまず述べる。

その際に必要なのが、人事における心・技・体、すなわち、企業トップが備えておくべき人事理念(=心)、上層幹部が心得ておくべき人事政策(=技)、人事の現場や労使が管理する具体的な人事システムおよび運用(=体)であるという。

人事の理念、政策、システムの三層構造(心・技・体)

人事の心・技・体とは

まず人事理念だが、これは基本理念3か条と、時代に応じて変遷する1か条、計4か条からなる。  基本理念とは、人間には優劣はなく、価値はみんな同じだという「能力主義」、人間の価値観はそれぞれ異なるという「加点主義(個尊重主義)」、その人の現在の姿は過去の環境や運・不運によるものだという「人に対する思いやり」の3つである。楠田さんはこの基本理念をインド哲学から学んだ。

楠田:「これはインドだけでなく、中国や日本といったアジア諸国に共通する考え方です。人間に優劣はないのですから、評価は絶対評価あるのみで、相対評価なんていうものはあり得ません。これこそ人事の本道といえるでしょう」

最後の1か条の内容は、前回報告した、人材政策の歴史的変遷で見てきたように、時代に応じて変化する。楠田さんの見るところ、現在は「ワークライフバランスの回復」がそれに当たるが、2035年以降は「グローバリゼーションへの対応」に変わるという。

次に、上層幹部が心得ておくべき人材政策である。能力主義、加点主義(個尊重主義)という2つは基本理念と重複しているが、成果主義、実力主義の2つが加わる。下図にあるように、それぞれは労働市場の変革と対応している。

上層幹部が心得ておくべき人材政策のあり方

これら4つの人材政策に即して考えると、日本型成果主義は、以下のように12の人材システムで構成される。

12個の人材システム

楠田:「重要なのは、トップの理念、上層幹部の政策、人事の現場および労使が関わるシステム、この3つの連携と整合性の確保が不可欠ということです。理念の策定には2年、政策の決定には3年、システム構築に当たっては15年、合計すると最低でも20年の歳月が必要になります。たった一つのシステムを変えるにしても、じっくり腰をすえて取り組む必要があるのです」

日本消滅を阻止するため、今すぐ取り組むべきこと

ではこれからの日本の課題は何か。楠田さんが最大の問題と見るのが少子化、すなわち絶望的なまでの出生率の低さである。

楠田:「私が子どもだった大正の終わりから昭和の初めは、夫婦2人に子ども5人の7人家族がざらにありました。私自身も5人兄妹の4男でした。ところが今は夫婦2人に子供が1.4人しかない。このままのペースでいくと、数百年後には地球上から日本が消えてしまうかもしれません。人口こそが国の勢いであり、出生率の維持こそが国家にとって最大の課題なのです。28歳で結婚した人には1,000万円、30歳で第一子、33歳で第二子、35歳で第三子というように、あらかじめ想定しておいた子育てのライフサイクルを達成してくれた夫婦には1億円、というように、出生率回復のための補助金制度の創設を国は真剣に考えるべきでしょう」

楠田氏さんは、下図のように、「海面」から空高く、垂直に人材が育成されるべき、と考える。

人材の右側に「社会」、左側に「経済」という重りがあり、本来、やじろべえの腕のように、水平になって海面上に位置するべきものが、下図のように、バランスを欠き、社会、経済ともに冷たい海面下に没している現状を憂いている。

人材を基軸とした経済および社会のゆがみ

こうしたアンバランスの原因はどこにあるのか。

楠田:「働く人の生活がなおざりにされているからです。労働時間はいたずらに長く、有給休暇の取得率も低いまま。時には平日の4時に家に帰り、子どもとキャッチボールをしたり、夕食をつくったりする。そういう、人間として当たり前の行為ができないのは不幸としか言いようがありません。こうしたワークとライフのアンバランスを是正するには、(1)雇用の維持・拡大、(2)労使の協力と協議、(3)成果の公正配分という生産性三原則の意義を改めて確認する必要があります」

この問題に関連し、楠田さんは人材社会学という新たな学問の興隆を企図する。上の図で考えると、中央の人材から左に、労働、経済、市場ときて経済に至る過程を考察するのが市場経済学である。

一方、基点は同じく人材だが、今度は右に、生活、家庭、福祉ときて社会に至るのが人材社会学である。楠田さんはそれを「市場経済の発展によって生まれた冨の、社会や生活への配分を適切に行う方策を考え、個を尊重した人材の育成・活用・処遇を通じて、心豊かな社会と人生の創造を目指す学問」と定義する。

市場経済学が活力ある経済の実現を目指すアクセルだとしたら、人材社会学は、その行き過ぎを戒め、すべての人が一度しかない人生を心豊かに生きられる社会を築くブレーキといえるだろう。アクセル、ブレーキ、一揃いあっての車であることは言うまでもない。

楠田さんの今回の話こそ、小手先の人事論ではない、まさに人材社会学の優れたエッセンスというべきものであった。戦後60年以上にわたって、日本企業の人事をリードしてきた重鎮の言葉には重みがある。聴衆の背筋を自然に伸びさせる何かがある。自らの体験を踏まえ、時には舌鋒鋭く、時にはユーモアや冗談も交えながら、数百年後を見すえた理想を堂々と語る姿に強い感銘を受けたことを最後に付け加えておきたい。

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