長時間労働の現状とエグゼンプションの課題(前編)

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日本型雇用はいい面も多いが、本人希望やパフォーマンスを考慮したコースも用意すべきである。

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回は、9月27日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けします。今回は、同誌編集長、海老原嗣生による講演の要旨をお伝えします。執筆は同誌副編集長の荻野です。※2013/10/17の記事です。

日本にミドルの転職市場が育たない理由

講演の枕で海老原がこんな話をした。最近、大企業22社の人事担当者を相手に研修講師を担当した際に、大卒総合職で50歳になったときの役職と給料について、ヒアリングしたところ、90%以上が課長になれる企業は2社しかなく、最近大きな合併があったため20%という極端に低い企業を除き、19社、つまりほとんどの企業は50%から80%という数字を挙げたという。10年前と比べたら、これはかなり低い数字といえるだろう。

一方、給与についてはどうか。22社のいずれにおいても、50歳でも上級管理職になれていない、つまりヒラ、もしくは係長相当の人に対して、800~900万円が支払われている。これも以前よりは下がった。ただし、どちらも海外と比べるとまだまだ高い。

海老原:「この年代の人の再就職支援を行う場合、600万円台が分水嶺になっている。中小企業の管理職の給与水準が600万円だからだ。このレベルなら就職先が決まりやすいが、700万円になると難しい。日本にミドルの転職市場が育たない理由は、能力うんぬんよりもまず、年収が高すぎることが大きいのではないか」

とはいえ、大企業側は彼らの年収を800万円台に抑えるために苦労している。本給を下げることは難しいから、賞与を極端に下げるしかない。賞与は査定反映が色濃く出るため、査定を相当低くつけることで、彼らの年俸を押さえる。

結果、どうなるか?

「彼らは、低い査定で心を痛め、モチベーションが極限まで下がってきている。その悩みを研修相手の数社から聞いた」

結局、日本型は、皆が昇進昇級をするという階段が一つで、それ以外のコース設計が出来ていない。だから、この階段が一本の状態だと、そこから外れる人が出ると、当人も企業も苦心惨憺という状況になるのだろう。

海老原:「日本型雇用はいい面も多い。ただ、そろそろ階段をいくつか用意し、本人希望やパフォーマンスを考慮して、いろいろなコースに行けるようにすべき時期なのではないか」

その変化の一助として、意外にもエグゼンプションが機能すると、海老原は言う。本論は後半に回し、まずは、「階段ひとつで上を目指して皆が無茶働きする」様子をデータで探ってみよう。

日本の総合職社員は明らかに働きすぎ

そもそも日本人は毎年どのくらい働いているのだろうか。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、日本人の労働時間は所定内、総実含め、1995年を境に右肩下がりに低下している。総実労働時間でみると、1995年は1,913時間だったものが、2009年には1,777時間まで、200時間近くも落ちている。

政府や企業の時短政策が効いたから、というのは早合点であり、海老原が提示した下のグラフを見ればわかるように、実はパートタイマーの増加が平均労働時間を押し下げたというのが真相だ。

図表1:就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移

逆にフルタイマーに限ると、日本人の労働時間はOECD加盟国中、第3(4)位と非常に長くなっている(1位はトルコ、2位がメキシコ。韓国の週間労働時間データがないが、年間労働では強烈な長さのため、明らかに週間でも日本より長いとみる)。要は、OECD諸国で日本より長く働くのは、発展途上の中進国しかない状況だ。

図表2:雇用者の週間労働時間

厚生労働省「労働力調査」(2010)によると、その値は週42.6時間となっている。これは少し違和感をおぼえる、と海老原。

海老原:「週休2日で、1日7.5時間、週5日働くとすると、計37.5時間。42.6時間にするには週にあと5時間の残業となるが、その数字は実感と異なる」という。なぜなら、ここには、総合職正社員以外に、派遣社員や契約社員、一般職(事務職)、定年後の再雇用者などが含まれている。「階段を上り続ける」総合職社員に絞った数字とは異なるだろう。

そこで、海老原が参照したのが総務省の「国勢調査」である。この調査には、雇用労働者の中で、毎日の生活において「仕事が主」という区分がある。これは日本企業の総合職に非常に近い。それを表したのが次の図表である。数字は2005年のものである。

図表3:国勢調査における「仕事が主」層(男性)の週間労働時間(%)

35歳から39歳の50.1%を筆頭に、週48時間、つまり週5日制の場合、1日9.6時間働くのが標準になっている。かなり長い労働時間だといえるだろう。

海老原:「同じ国勢調査で、週48時間を超える人(「仕事が主」の男性の場合)の割合は40代前半で多く48.8%、週60時間を超える人(同)の割合も23.8%にのぼる。週48時間を超えるイギリス人、ドイツ人のいずれも男性労働者の割合がそれぞれの国の調査で22.2%、14.8%であることを考えると、日本の総合職の男性が明らかに長時間働いていることが分かる」

2005年に日本でもエグゼンプション制度導入の議論があったが、このときは、「残業代ゼロ」と批判する野党・マスコミに対して、政府側は「エグゼンプションで自律的・時短を」と呼びかけていた。エグゼンプションを取り入れれば、果たして時短に有効なのか。海老原はここに疑義を提示する。

海老原:「表中の45~49歳男性を見て欲しい。この年代なら、冒頭で述べたとおり、多くの企業で管理職が過半となる。つまり現行法制でも“エグゼンプション”が適用されているのだ。それでも労働時間は長い。ということは、残業代を払う払わないとは別に、階段を上り続けるから長時間労働、という考え方とおさらばするような仕組みが必要なのである。エグゼンプションにそれをしっかり組み入れることを考えるべきだ」

自主努力よりも全体施策で時短を

その時短策として、海老原は「個人の自主努力よりも全体施策を打ったほうが結局は効果が高い」と主張する。過去の労働時間データを見ながら、説明していこう。

次のグラフをご覧いただきたい。

図表4:不況と労働時間の関連性

これを見ると、戦後の労働時間は不況による工場などの稼働率ダウンと週休2日制のダブルパンチで減ってきたことがわかる。1回目は1973年のオイルショックと何らかの週休2日制、2回目は1991年のバブル崩壊と完全週休2日制の導入である。ただし、このグラフに表われている最近の減少は、前に見てきたように、パートタイマーの増加によるものだ。

海老原:「不況期には労働時間が当然減る。好況になっても、減った分を元に戻さず、休日の増加や一日の労働時間短縮に結びつけていくやり方だ。フランスも同じやり方を採って35時間制を確立させた」

知的労働者の労働時間管理も同様に、自主努力よりも全体施策というやり方のほうがうまく行くという。

海老原はフランスの超エリート層、カードルの例で説明する。

フランスは週35時間労働制の国であり、労働者がゆうゆう働くワークライフバランス大国のようなイメージがあるが、実態はそれとかけ離れている。一般労働者には当てはまるが、カードルに関しては日本の総合職並みの忙しさを強いられているのが現実だ。

フランス民主労働同盟が2012年に組合員であるカードルを対象に行った調査によると、毎日10時間以上働いている人の割合が24%、日曜日も休まず働いている人の割合が67%にのぼる。おかげで、「家族と過ごす時間に満足」と答えた人の割合は36%しかいなかった。

また、時短といえばテレワークを採りいれ、時間と場所にとらわれず働けるようにすればいい、という意見があるが、同じカードル向け調査によると、テレワークには大きな弊害も出ているようだ。「個人費用負担が増大する」(35%)、「仕事責任の所在が曖昧になる」(22%)、「同僚との関係が稀薄になる」(18%)などを押さえて、「労働時間の長期化」を問題視するカードルが64%にのぼっている。

削減効果の大きい、時短より日短という考え方

そうだとしたら、カードルは働きすぎで過労死してしまうのではないか。

海老原:「そうなっていないのは年間217日という総労働日数の上限があるからなのだ。1日単位での時短は難しい。そこで、カードルを1日単位で強制的に休ませ、年間総労働時間を2,000時間内に収めようとしている。時短というより日短という考え方だ。これも全体施策に他ならない」

労働時間本体だけではなく、有給や代休取得についても、社員それぞれの自主努力に任せるよりも、企業が全体施策として取り組んだほうが効果が上がる、と海老原は力説した。たとえば日本の場合、有給の時季指定権(イニシアチブ)は労働者にあるが、ヨーロッパの場合、企業にある。

講演では紹介されなかったが、HRmics16号では全体施策と個別施策をうまくミックスしたIT企業の時短成功例が紹介されている。

たとえば、SCSKでは、今年の4月から、月平均時間外労働を20時間、有給取得日数を年間20日(有給100%消化を意味する)削減させる「スマチャレ20」なる全社キャンペーンをスタートさせた。しかも、目標を達成した部門の社員には報奨金が支給される。経営の本気度がかなり伺える内容だ。あわせて参考にされたい。

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