リクルートエージェントが2008年10月に創刊した人事専門誌『HRmics』。毎回、発行の翌月、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えする「HRmicsレビュー(無料セミナー)」を開催しています。
これから3回に分けて、去る1月25日に東京で行われた第8回レビューの概要をお届けします。
まずHRmics編集長・海老原嗣生氏によるPart1の「企業グローバル化の方程式」に関しては、2回にわたってご紹介します。(以下、同誌副編集長 荻野さんにレポートいただきます)※2011/02/10の記事です。
「グローバル」というまさに旬のテーマだからか、会場はほぼ満員という盛況ぶり。そんな中、始まった海老原の話は、以下2つの例をもとに、グローバル化の真の意味を問うことから始まった。
かたやトヨタ自動車の例。同社の社内報に、金髪碧眼の白人が作業服を着て、工場スタッフと口角泡を飛ばして議論している様子の写真が掲載されていた。聞けば欧州トヨタのフランス人CEOだという。そこから想像されるのは、その幹部は同国で「カードル」と呼ばれる伝統的エリート特権階級の人間ではなく、現場の把握に何よりも熱心な、紛うことなきトヨタ人、ということである。
かたや、安い労賃に目をつけ、中国に進出した静岡のリネン会社の例。リネン製品は価格が最大の差別化要因のため、同じ品質のものを安くつくり日本に持ってくればライバルに勝てる。ところが、中国人の責任者が不正を働いたので解雇した。あろうことか、当人は中国国内の同業にすぐさま転職、身につけたノウハウを駆使し、同じ品質の製品を作り上げてしまったので、静岡の会社はあっという間に苦境に陥ってしまった。
海老原:「グローバル化の推進は、自分たちの強みやDNAを抜きにしては語られない。トヨタは全世界に進出しているが、出た先で、フランス企業やアメリカ企業ではなく、現地版トヨタをつくっている。だから成功している。逆にリネン会社は、賃金の安さだけを利用しようとしたので、自分たちの強みを生かすことができずに失敗した」
その段でいくと、「グローバル化とは自分たちの製品やサービスを世界最先端にあわせることであり、そのためには現地で最も優秀な人材を獲得し、活躍の場を与えなければならない」という、よくある考えは実は的外れということになる。その前に、自社の強みや守るべきものを再確認することが重要なのだ。
そう、急いては事をし損じるのはグローバル化もまったく同じである。が、最初からトヨタのような展開ができるわけではない。そこで、グローバル化をいくつかの段階に分けて考えることを海老原は提案する。
フェイズ0は支社や支店になる前の「駐在所」のような段階であり、そこから製造拠点(フェイズ1)、販売拠点(フェイズ2)としての「単純支社」、さらに管理部門が加わった「原始的本社」(フェイズ3)を経て、研究開発やマーケティング企画部門などが付加された「本格的本社」(フェイズ4)へと成長していく。上記図表にあるように、それぞれのフェイズごとに、必要な現地人材とその採用方法、幹部日本人比率(フェイズが増すごとに低下する)、発生する問題が変わっていく。
海老原:「一般ビジネス雑誌や新聞が間違っているのは、フェイズ3とフェイズ4を混同していること。現地の一流大学を出たエリート人材にふさわしい就職先は(4の場合の)本格的本社である。(3の場合の)原始的本社に、そういう人材が行きたがらないのは当然だ。原始的本社の場合は、中堅大学出身者に狙いを定めればよい。その辺りを混同させて、『海外の一流人材が日系企業には行きたがらない』と煽るのは間違っている」
さて、海老原がもう一点、ビジネス誌・紙に苦言を呈するのが「グローバル人材の定義」に関して、である。具体的にどんな人材を指しているのか、丸ではっきりしないのだ。
新卒採用に限っても、日本人の海外留学生もいれば、純然たる外国人学生もいる。さらに後者は、海外の現地大学生もいれば、日本の大学に留学してきた学生もいる。
さらに、採用主体、採用目的も勘案すると、実に多様な「グローバル人材」が存在することになる。既存の日本人社員に、しかるべき経験と教育を与えれば、「グローバル人材」になり得る。トヨタのように、総合職の正社員はすべてグローバル人材と言い切る企業もあるくらいなのだ。
グローバル化には少なくとも5つの段階が存在すること、一言で「グローバル人材」といっても、その中身は多種多様であることなどを確認すると、次に海老原が指摘したのは「海外進出初期」と「同拡大期」の問題だ。
まずは初期だが、具体的には、上で説明したフェイズ0の駐在所から、フェイズ1およびフェイズ2の単純本社の段階を想定しているという。海老原いわく、この時期の典型的な失敗例は次の4つだ。
いずれの事例でも、冒頭で説明したリネン会社のように、自社の強みやDNAは伝承できず、後継者も育成されず、本社によるガバナンスも効かないため、進出は失敗に終わることが多い。ではどうすればいいのか。
海老原:「理想的なのは、現地に経験豊かな日本人をある程度赴任させるとともに、若手の現地人を早期採用し、DNAの伝承と後継者育成、ガバナンスの確保という3つのポイントをしっかり押さえることだ。現地人材が成長していくに従い、日本人の数を減らし、ポジションを委譲していく。そうしないと、現地人の『キャリアの発展空間』が拡大しないので、腐って辞めて行ってしまう」
そのやり方で成功したのが、インドにあるトヨタのバンガロール工場だ。500人の技術者がいる中で、日本人が200人も常駐し、同社のDNAを現地人に着実に伝承していった。日本人技術者も定宿となった現地のホテルのレストランは日本食のメニューを充実させるようになり、トヨタ本社がある三河地方の名物、味噌カツが人気メニューに加わったという逸話まである。このトヨタの例を、グローバル経営研究の第一人者、白木三秀・早稲田大学教授は「本気の進出」という言葉で表現している。
ではフェイズ3およびフェイズ4に相当する拡大期はどうすべきなのか。そこで起きてくるのが次のような問題だ。
海老原:「最初の問題に関しては、最初からハイパーな層を狙わず、適度なスペックの若手を採用し、じっくり育てることで解決できる。2番目、3番目の問題は根が同じと見るべきで、日本本社や第三国への異動、つまり、もうひとつの昇進の道をつくるべきだ」
そうやって、当該国だけでなく、本社はもちろん、第三国の拠点にも異動する人材を「トランス・ナショナル人材」と海老原は定義する。これがその次のテーマ、つまり、海外法人にも3つのパターンが存在するという話につながっていく。
すなわち、グローバル経営(この場合はフェイズ4以降を指す)には、「マルチ・ナショナル型」「トランス・ナショナル型」「インターナショナル型」の3つの形態がある。
マルチ・ナショナル型は、現地のことは現地法人に任せる「弱いグローバル経営」である。現地法人で活躍するのは現地人で、そこでの公用語は現地語になる。
トランス・ナショナル型は、人材をはじめ、各国の現法や本社が連携を密にして、適材適所的な経営が行われるパターンで、いわば「強いグローバル経営」である。そこでは現地での公用語も英語になることが多い。
最後のインターナショナル型は、上記のいわば中間パターンであり、本国の本社が経営全般をリードするが、各現法にある程度の自由を与え、現地化を容認するやり方だ。
グローバル化といってもなぜこんな形態の差が現れるのか。「扱っている製品の特性によるのではないか」と海老原はいう。
海老原:「政府入札や現地の事情に応じたカスタマイズ、アフターフォローなどが大幅に必要なものは現地の裁量を大幅に認めるマルチ・ナショナル型になり、逆に出来上がっているパッケージ商品を販売する場合は本社のコントロールが強く、世界最適を目指すトランス・ナショナル型になる。要は手離れのいいものは、トランス・ナショナル型、逆に悪いのはマルチ・ナショナル型になり、その中間がインターナショナル型になるのではないか」
以上の話を参考に、お読みいただいている皆様も自社の製品特性と海外における法人形態の関係を考えてみられてはいかがだろう。
次回は「グローバル化の方程式(後編)」と題し、日本本社および日本人社員のグローバル化について考えていきます。
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