日本の近未来を示唆するフランスの障がい者雇用施策

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障がい者に対する「適切な措置(合理的配慮)」の実行を企業に義務化したフランス

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、5月20日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けします。今回は、その最終回で、欧州、特にフランスの障がい者施策に詳しい永野仁美・上智大学法学部准教授の講演内容をお伝えします。執筆は同誌副編集長の荻野進介です。※2014/06/26の記事です。

フランスを後追いする日本

フランスの障がい者雇用施策に注目が集まっている。

その1で、海老原が説明したように、世界における障がい者雇用促進策には3つのアプローチがある。割り当て雇用アプローチ、差別禁止アプローチ、そして両者の折衷アプローチである。フランスは長く割り当て雇用アプローチを採ってきたが、現在では折衷アプローチを採用している。1990年に差別禁止原則を法制化し、2005年には障がい者に対する「適切な措置(合理的配慮)」の実行を企業に義務化したのだ。

永野氏:「日本も同じ流れを辿っている。障害者雇用促進法が改正され、2016年4月から差別の禁止と合理的配慮の提供が義務化される。そういう意味で、フランスの現状を理解しておくことは、日本の障がい者雇用のこれからを考える意味で有用だろう」

症状が軽くても障がい労働者認定がおりる

続いて、永野氏は「フランスでは、人口の10%が障がい者だと言われている」と、意外なことを言う。いくらなんでも日本ではそこまで数字が高くない。

フランスの労働法典によれば、「身体的、知的、精神的機能または感覚器官の機能の悪化により雇用を獲得し維持する可能性が現実に減退しているすべての者」が「障がい労働者」と定義される。これに対し日本では、「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」(障害者雇用促進法)が障がい者雇用施策の対象となる障がい者である。就労との関係で定義がなされている点で共通するが、実際に雇用施策の対象となる障がい者の範囲は、フランスの方が広い。

フランスでこの障がい労働者認定を行うのが障がい者権利自立委員会という組織である。そこでは、先述の定義に基づき、どんな機能がどう悪化しているのか、その悪化が雇用にどんな影響を与えているかが精査される。認定に通ると、企業の雇用義務(率)制度の対象となり、就業への道が大きく開かれる。そればかりではない。障がい労働者のために用意されている特別な制度の対象となれるだけでなく、一般法が定める雇用政策(特に支援付雇用契約)へのアクセスが優先的に保証される。加えて、いざ企業に雇用された場合は必要に応じて労働時間の調整を受ける権利が保証され、通常の労働者と比べて解雇予告期間も2倍と長くなる。認定されると、十重二十重に保護されるわけだ。

永野氏:「日本では障害者雇用促進法の対象となるか否かを決するものとして障がい者手帳が重要な役割を果たしているが、フランスでは違う。手帳制度はあるが、その有無は障がい労働者の認定とは直接関係がない。たとえばパン屋で働く人が小麦アレルギーになったとすると、その人は障がい労働者認定を受けることができ、認められれば、他の仕事に就くための職業訓練を受けることができる」

こういうケースでも障がい労働者と認められるので、日本よりが障がい労働者の範囲はぐっと広くなっているのだろう。パン屋のケースでは、他の仕事に就いた時点で、障がい労働者の認定が切れる。障がい労働者の認定は、その人が置かれたシチュエーションに応じてなされる点に、フランスの法制度の特徴がある。

フランスの法定雇用率は6%!

フランスの雇用率制度は日本にもあるものだ。もともとは1924年に傷痍軍人を対象としてスターとした制度で、1957年からすべての障がい者がその対象となった。改編ののち、現行制度が成立したのは1987年のことだという。

その雇用率は現在6%(従業員数20名以上の事業所が対象)だから、日本の2%(同50名以上の事業所が対象)と比べて3倍だ。が、これにはからくりがある。

雇用義務の履行方法には、①障がい者本人の雇用の他に、②(障がい者が数多く就労している)保護労働セクターへの仕事の発注、③障がい者の研修での受入れ、④納付金の支払い、があるのだ。なお、④は日本にも存在するが、フランスでは、その額は従業員規模数によって異なり、従業員数20名から199名の企業の場合、不足1名分につき年額で法定最低賃金の400倍、従業員数200名から749名の場合、同500倍、従業員数750名以上の場合、同600倍となっている。こうした制度があるので、実雇用率は2010年の数字で2.8%に留まるという。また、①~④の履行方法とは全く独立のものとして、⑤労働協約の締結によって義務を履行することも可能となっている。

では、フランスの使用者は、どのような方法によって雇用義務を履行しているのか。2010年のデータによれば、対象となる事業所のうち、①②③の方法によって雇用率を達成している事業所が41%、①②③に④の納付金の支払いを足して雇用率を達成している事業所が42%、④の納付金の支払いしか行っていない事業所が8%、⑤の労働協約の締結によって義務を履行している事業所が9%ということになっている。

永野氏:「納付金の支払いしか行っていない事業所は、フランスでは、クオータ・ゼロの事業所と呼ばれ、問題視されている。そこで、2005年の法改正で、3年以上に渡り納付金の支払いしかしていない事業所には、法定最低賃金の1,500倍の制裁的納付金の支払いが課せられることとなった。また、納付金の支払いさえしない企業には、国庫に対し、不足1人に対して年額で法定最低賃金の1,750倍の額を支払うことが科せられている」

前回の海老原報告でも触れられたが、日本の場合、2012年のデータで、1人も障がい者を雇用していない企業は、従業員300~500名未満の企業で3.8%、500人から1,000人未満の企業で0.6%、1,000人以上の大企業ではわずか0.1%だった(海老原発表は「未達成企業」が分母のため、数字が異なる)。大まかに日仏比較をすれば、日本企業は相当頑張っていると言えるのではないだろうか。

差別と差異の違い

さて、最後のお題は差別禁止についてである。

障がいや健康状態を理由とした雇用差別がフランスでは禁止されている。募集時から始まり、配属、研修や訓練、昇進、異動、利益配分または株式付与、懲戒、解雇にいたるまで、職業生活全般において、直接的または間接的な差別的取扱いが禁じられているという。

ただ、永野氏いわく、「差別に当たらない」とされる「取扱いの差異」も存在する。具体的には、次の3つの場合だ。

一つめは「本質的かつ決定的な職業上の要請に基づく」場合である。たとえば、パイロットの募集に視覚障がいの人が応募してきた場合である。合理的に考えて、その人を落としたとしても差別にはならない。

二つめは、労働医が労働の不適性を認定した場合である。ある労働者のある職務の遂行につき労働医が労働不適性の診断をした場合、それに基づきなされる取扱いの差異は、差別には当たらない。

三つめは、障がい者に対して「適切な措置」がなされる場合である。

「過度の負担」の判断において公的助成が考慮される

永野氏:「日本にも2016年から導入される合理的配慮がまさにこれだ。フランスでは、合理的配慮のことを適切な措置と呼んでいる。使用者は、過度の負担が生じる場合を除いて、障がい者が持てる力を発揮できるように適切な措置を講じなければならない。たとえば、障がい者が無理なく使えるよう機械や設備を改良する、仕事内容を組み立て直す、スロープをつけるなど作業場所へのアクセスを整える、通院を考慮し業務時間を柔軟に設定する、などが適切な措置の内容として考えられる。平等取扱いの促進のためになされる適切な措置は差別に該当しないとされるが、逆に、こうした適切な措置を行わないことは、フランスでは、差別に該当するとされている」

では「過度の負担」かどうかをどう判断するのかといえば、フランスでは、使用者に対してなされるさまざまな助成がその鍵を握るという。そうした助成を考慮して、過度の負担か否かの判断がなされる、というのだ。

その助成を行っているのが、障がい者職業参入基金管理運営機関(AGEFIPH)という組織で、先述した納付金の徴収機関でもある(日本で同じ役割を担っているのが独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)。ここが企業からの納付金を財源とし、各種支援金という形で障がい者を雇用する企業にさまざまな助成を行っている。

永野氏:「この雇用率制度で徴収された納付金が、差別禁止原則の一部をなす適切な措置を講じるための費用の原資になっている。フランスでは、雇用率制度と差別禁止原則とが車の両輪のようになって、障がい者雇用の進展を促している」

合理的配慮の基準は個別具体に

フランスの障がい者雇用のアウトラインを手際よく解説いただいた永野氏の講演はここで終わったが、会場から、具体的に何が合理的配慮に当たり、何が当たらないのか、判断基準についての質問があった。それに対して、「何が差別か、何が合理的配慮なのか、判断するのは非常に難しい。合理的配慮だと思い、障がい者の人が働けるポストをつくった場合にも、仕事内容や待遇によっては、差別と見なされてしまう可能性がある。差別に該当するか否かは、あくまで個別具体のケースに即して考えるしかない」というのが永野氏の答えであった。法が施行される2016年4月までには、厚生労働省が合理的配慮に関する「指針」を作成することとなっている。まずはそれを待ちたいものだ。

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