医薬・医療業界-リーマンショックのツケがやってきた

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当時の新薬開発の鈍りが、発売時期の今になって打撃を与えているようです。

少子高齢化により人口の減少が続く日本。そのため、内需産業はどの業界も売り上げの頭打ちに悩む状況です。そんな中、医薬医療業界は高齢者人口の増加という追い風を受けるため、長期的な売り上げ増が見込める希少な産業でした。その医薬医療業界が、昨今、採用を抑えているようです。メガトレンドに反するこの動きはなぜなのか?求人ウォッチャーとして、海老原嗣生(HRmics編集長)が切り込みます。※2012/08/30の記事です。

話題の宝庫のはずが、なぜ低迷?

医薬・医療業界は内需では珍しい成長産業のため、人も金も集まる。だから羽振りもいい。未経験の医薬営業スタッフ(MR)の募集では20代前半で年収500万円も普通であり、周辺業界を押しのけて、若手求職者を吸い寄せるような、そんな存在だった。

それは人だけでなく、企業も同じだろう。大手電機メーカーは、医療機器にこぞって参入。医療系の光学機器で定評のあるオリンパスの経営が揺れたとき、多くの企業が救済の手を差し伸べようとしたことなども記憶に新しい。やはり光学関連の富士写真フイルムが、ナノ技術を生かして化粧品に参入し、その余勢を駆って、メディカル分野でも業績を伸ばしているのも、周知の事実だ。人も企業も集まれば、当然、新たなエポックも生まれてくる。

ここ数年の動きを見ても、MRは新薬発売時に大量に必要となり、それ以外のときは余剰となるので、そうした人材需要の増減を緩和させるために、MR専門の特定派遣(CSO)が浸透した。

また、大量の未経験MRが毎年誕生するため、技術・知識レベルを担保しようと、MRの資格化や各種認定制度も整備されている。医薬の申請・認可などについても規制が緩和され、そこから治験を代行するような事業(CRO)なども生まれた。

最近では、医薬品の単価を下げる目的で、ジェネリック(後発薬)が奨励されることになり、こうしたジェネリックは、医師ではなく薬局で薬剤師が選ぶため、医薬品メーカーは、川下のドラッグストアチェーンのM&Aに注力。

こんな感じで、成長分野だけに、いつも何かしらの新機軸が生まれる。それがメディカルマーケットだったのだ。

ところが、昨年末ごろから、大変調。求人がぱたっととまり、人が動かない。そして話題も少なくなっている。“最後の成長業界”だけに、その様子は異様だ。

理由は、どうやら新薬発売の急減少にあるようだ。

ただ、少し業界に詳しい人なら、この話に違和感を抱いてしまうだろう。

なぜなら、医薬品メーカーは、こうした新薬ブランクや求人停滞が起きないように、何重にも手を打ってきたからだ。たとえば、前述したCSOやCRO。こうしたアウトソースにより、極端に人材ニーズが上下動しないようにしている。さらには、新薬開発にも大きな穴があかないように、次々に新薬が生み出されるような経営計画(パイプライン)も作っている。実際、2010年に既存大型薬のパテント切れが起きるから、それに合わせて開発をするように、という2010年対策なども、口うるさいほど業界では騒がれていた。

つまり、転ばぬ先の杖には、事欠かなかったわけだ。

にもかかわらずなぜ、ほとんどのメーカーがここに来て同時に「ぱったりと」発売が止まってしまったのか。

理由の一つは、間違いなく、リーマンショックがあげられるだろう。

2008年秋からもう4年もたつから今さら、と言えるかもしれないが、新薬の開発には時間がかかる。欧米系メーカーの場合、その時間を短縮するために、いい薬の芽を育てている創薬ベンチャー企業のM&Aを手がけている。そのM&Aがリーマンショック後に下火となった。そのため、当時の創薬が鈍り、今になって発売スケジュールに狂いが生じたようだ。

そのほかにも、今年ポッカリ穴が開いた理由はいくつか指摘できる。

  • ・2009年の株価低迷=絶好の業界再編期であり、そのためM&Aへの投資が増え、新薬開発投資が抑制された
  • ・低分子医薬品の限界期となり、抗体医薬・バイオ医薬への投資先が変更されたちょうど端境期であった

こんな3~4年前に起きた事象が尾を引き、今年、新薬発売にポッカリ穴があいた状態になっているのだ。

低空飛行が負のスパイラルを生む

実際、求人活動は相当下火となっている。たとえば国内大手メーカーが細々とMR募集を続けている程度。2年ほど前には、対人接客経験があれば、業界は問わずに大量に採用をしていた欧米系メーカーの大規模な未経験MR採用は全く動いていない。

比較的採用スペックが緩く、頼みの綱だったCSOまで5月には求人がストップ。ただでさえ求人が少ない中に、昨今、震災復興需要や景気の持ち直しにより、他業界の高待遇求人が徐々に増えてきたため、求職者もメディカル以外に目を向け出した。そこで、残り少ない医薬系の求人さえもあまり動かない。そんな“ないない尽くし”の状態となっている。

こうした低迷状態に業界全体がつかると、さらに、事態は深刻化していく。

たとえば、CROは治験のアウトソースの他に、新薬申請-承認に関してのコンサルテーションをサービスに入れるようになった。効率的な申請・認可のプロセス構築のためのアドバイスを行うわけだ。これにより、コンサル料金は発生するが、その代わり「治験なしでも認可が可能」となるケースもあり、本業の治験のアウトソース売り上げがますます伸び悩むという、皮肉な状態にもなっている。

CSOは、一時期、価格勝負に走りすぎたため、業界全体がその反省から、クオリティ重視=MRの知識・技能向上へと動いた。そこで、循環系や消化器系、脳神経系など、分野ごとに教育・研修を整備し、経験年数なども考慮して、その分野の熟練者と認定していく制度を設け、サービスレベルの向上に努力してきた。

ところが、こうして認定を受けた熟練者も、自分の得意分野での新薬開発が細り、他分野に派遣されることが増えた。結果、いくら熟練者でも「未経験領域での活動」ということで、認定制度は生きず、また、会社としては派遣料金も下がるという、またまた皮肉な状態になっている。

やがて霧は晴れ、定速運航に戻る、だが…

現状では、高齢化で需要が爆発的に増えると言われた、ガン(オンコロジー)、糖尿病、高脂血症、認知症などの有望領域でも新薬は減り、人材は余っている。それでもガンだけは、経験豊富なMRを絶やさず育成し続けないと、画期的な新薬が生まれたときに対応できないため、ここは停滞期の現在でも人員を確保している。ただ、それ以外は、有望領域でも減員傾向なのだ。ましてや、ライトに高齢化需要を見込んだその他の領域、たとえば、湿布や骨粗鬆症などの分野では、人材需要はお寒い限り。

さて、この流れはいつまで続くのか。

実は、来年には通常に戻り、再度上向きになるという見方が強くなっている。すでに、来年分の発売スケジュールは万全で、100名単位の新規人材需要がある、というメーカーの情報を3社ほどつかんでいる。

つまり、あと1年もしないうちに、また、通常レベルに戻る可能性は高い。いや、こうした動きに対して、人材確保は先行するため、秋が深まるころには、求人が活発化しだす可能性が高いといえるだろう。要は、この業界の停滞も胸突き八丁を超えた、というところなのだ。

ただ、少々残念ではある。

儲かる業界だけに、多少、粗削りなところもあったビジネス慣習が、次第に洗練され、また社員教育も整い、認定資格制度などもできてきた、ここ数年。ようやく「大人」のビジネスへと転換が進んでいた矢先に、今回の大きなインターバル。ここで、健全化の流れが止まってしまうことがないように、と祈りたい。

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