電気・機械・メーカー業界-日本企業は「川上シフト」。ただし…

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業績好調で求人も活況状態の企業から、一つの法則が見えてきます。

「変われない日本」「米国と韓国の板挟みで失速」と、よい話をなかなか聞くことができない日本のハイテク産業。日本のハイテク産業はこのまま尻すぼみになっていくのか?HRmics編集長の海老原は異論を唱えます。※2012/06/07の記事です。

たった半年で、脱レアアースを実現する力

先日、自動車用モーターを開発する日本電産が、ハイブリッド車などに使われるモーターに対して、一切レアアースを使用しない新製品を開発したと発表していた。昨年9月の尖閣諸島問題に端を発した中国のレアアースの国外輸出規制措置にともない、ハイブリッド向けモーターが打撃を受けたことへの対策として始まった開発が、短期間に実を結んだ格好だ。

異分野のエンジニアが集結して、地道にすり合わせを行った結果、顧客メーカーのニーズに合う製品が、瞬く間に開発されたこのモーターの開発。まさに、日本型経営の真髄ともいえるケースだろう。

スティーブ・ジョブズのような天才的なリーダーがいたとしても、こうした開発は進められないだろう。一人の天才より、レベルの高い一群が共同して知恵を出す風土が必要だからだ。

アイデア一本で生活を大きく変えるようなエポックを生み出す事業は、当たりはずれが大きく安定的に業績を伸長させづらい。そして、そうした企業の多くが、カリスマ創業者のような一部の天才に業績の多くを依存するため、天才が去ったあとには夢の跡が広がることにもなる。さらにいえば、彼らカリスマたちは、自分の興味ある領域では信じられないほどのパフォーマンスを発揮するが、興味のない分野では、たとえクライアントから強烈に要望されようとも、なかなかその能力をフルに発揮してはくれない。

昨今のハイテク産業界の求人状況を見ていて、ふと、こんなことを考えてしまった。

日本のハイテク産業は全般的に不調、というイメージが強いのは事実だが、実際は、最高益を更新する企業も非常に多い。しかも、こうした好調メーカーの多くは、新規求人活動も活発に行っている。そして、彼らの顔ぶれをみると、産業材の超大手メーカーの名前が並んでいる。

その顔ぶれをみながら、上記のようなことを考えるにいたったわけだ。

震災・洪水・円高下でも川上企業は好調

具体的に、業績好調な企業を実名で挙げていこう(以下の数字は、アイシン精機と富士電機のみが連結決算をもとに集計。他はすべて単独)。

  • ・IHI(売上8.9%増、当期利益53.7%増)
  • ・三菱化学(売上83.1%増、当期利益115.2%増)
  • ・宇部興産(売上6.2%増、当期利益114.5%増)
  • ・東レ(売上1.1%増、当期利益17.2%増)
  • ・昭和電工(売上12.9%増、営業利益60.4%増)
  • ・三菱マテリアル(売上6.3%増、営業利益3.1%減)
  • ・住友金属工業(売上7.5%増、営業利益86.2%増)
  • ・日本触媒(売上11.5%増、営業利益11.8%増)
  • ・富士フイルム(売上44.2%増、営業利益52.4%増)

どうだろう。産業材のトップメーカーの名前が並んでいる。しかもこれは昨年度の決算状況なのだ。東日本大震災やタイの大洪水があり、しかもドルと円の為替レートが戦後最高を記録したうえに、ギリシャショックで欧州経済が急減速した、あの昨年の業績なのだ。

こうした「産業材」分野での好調は、各所で同様の傾向が見受けられる。

たとえば、震災・洪水・欧州ショックの影響が一番大きかった自動車業界でも、BtoB向けの企業は、相当善戦しているのだ。

表1:自動車業界の各企業の売上高前年比

表からわかるとおり、完成車だけではなく、ジェットエンジン分野にも強い富士重工業は他の完成車メーカーほどの売上減に見舞われていない。また、総合油圧機器メーカーのKYBや自動車基幹部品のアイシン精機は、もはや日本の自動車メーカーだけが取引相手ではない。欧州・米国・中韓のメーカーに大量に部材供給を行っているから、世界の自動車販売が増えれば、国内メーカーの生産状況とは関係なく売上を伸ばせる構造にある。

同様に、円高と韓国勢の攻勢に苦戦を報じられた電機分野でも、好調企業は見受けられる。

表2:電機業界の各企業の売上高前年比

家電よりも重電に力を入れる日立製作所が順調に売上を伸ばしていることが象徴的だ。東芝も同様に産業材に力を入れ、パナソニックも、パナソニック電工と三洋電機を合併、しかも、三洋の白物家電をハイアールに売却する、という流れは、明らかに家電全体の「川上」遡上を意味しているように見てとれる。

日本型が圧倒的に有利な川上産業

要は、最終製品メーカーではなく、中間材や製造装置などBtoBの領域で事業を展開する企業が、日本でも世界でも相当業績を伸ばしている、それが、ハイテク産業全体で言えることなのだろう。

この理由を考えてみよう。

  1. 1、産業材は、技術の応用範囲が広いために、一つの技術をもとに多方面への事業展開が可能。たとえば、旭硝子は自動車向けガラスのシェアを減らしたが、現在はスマホ用で売上を増やしている。富士フイルム、大日本印刷、東レなどは、社名と関係ない分野で大きな売上を稼ぐ企業となった。つまり、高技術を保っていれば、裾野の広い産業で引き合いがあるために、一つの事業が不調でも、他でカバーできることになる。
  2. 2、もう少しミクロで考えると、一つの産業(たとえば自動車や家電)内でも、多数の取引先に製品を供給することができる。そのため、あるメーカーが不調だとしても、あるメーカーがヒット作を連発していれば、トータルで安定的な売上を確保することができる。
  3. 3、パッケージングやコンセプトワークなどの「企画・提案」でエポックメイキングな新製品を作る、というよりは、地道な技術の積み重ねと、それを製品化・製造ラインに乗せるすり合わせが重要な分野だ。そのためには、一人の天才が事業をリードするよりも、多数の優秀層がスクラムを組むという「日本型経営」が適する。
  4. 4、技術の積み上げやアウンの呼吸でのすり合わせには、人材の長期雇用が不可欠となる。

この面でも、日本型経営が適している。

そう、産業向けのBtoB材とは、取引先を固定せずポートフォリオが組めるという強みがあり、そのために業績が安定的に保てる。だから、人材育成に時間がかけられ、長期雇用も可能。結果、技術的蓄積とすり合わせが可能となり、結果、かなりの円高下でも、他国の同業をしのいで、日本のトップ企業に受注が入る、という好循環となっているのだろう。

川上シフトとは別の、日本のもう一つの強み

さてさて。では日本はこのまま、中間材の王者として、トロイの木馬のように、米韓中の製品の基幹部品を作りながら、成長を維持する、という流れになっていくのか?

それは少し違うと感じている。

再度、スティーブ・ジョブズに登場いただくが、彼は日本製の家電・オーディオ・デジタル製品を見ながら、そのきめ細やかな機能や、斬新なパッケージングに感動していたと聞く。そう、本来、日本はエポックメイクにも強かったはずだ。

たとえば、戦争に使う火薬を、花火として芸術にまで昇華させてしまったのは江戸時代の日本。独自の発展を見せた浮世絵はジャパニメーションとなり、今はやりのK-POPとて、多人数のアイドルユニットはおニャン子→モー娘がその始まりだろう。

たとえば、インターネットに携帯をつなげてユビキタスの入口を作ったのも日本だし、家庭用ゲーム、携帯ゲームで先陣を切りながら、オタクゲーマーと決別して、家族や友人と体を使って楽しむゲーム(Wii)を提案したのだって日本。

そうした一大製品さえも、一人の天才の名前が冠されることなく、ほとんど誰が作ったかも知られずに終わる。きっと、多くのエンジニアがアイデアをキャッチボールするうちに、その中のキラリと輝く一つが日の目を見た結果なのだろう。

そして、こうしたエポックメイクな製品が多々登場しているにもかかわらず、それが「日本が生んだ」とあまり騒がれないところも日本らしい。

よく言われる「日本型の産業は、iPhoneやfacebookのようなアイデアフルな提案ができない」というのはここに書いた製品群を見れば、すぐにウソだとわかるだろう。

ただ現在は、あまりに激しい円高という暴風にさらされて、アイデアフルな一面が見えづらくなっているだけだ。雨風が落ち着くまでの間、もう一つの強みである川上産業に、一時避難している、というのが今の日本企業の姿だろう。

そうして空が晴れた日には、きっと、細やかでかわいらしい、日本発のアイデアフルな最終製品群がまた世界に羽ばたいていくはずだ。

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