マスコミでは、国連を舞台にした尖閣問題をめぐる日中の攻防に注目が集まっています。もっとも、両国衝突の火種は政治にとどまりません。中国による日本からの輸入検閲の強化、レアアースの輸出制限や、逆に日本による中国への投資計画の再考など、経済への波及が心配され始めました。今回は、HRmics編集長の海老原が、想定される問題を整理します。※2012/10/04の記事です。
まず、今年の世界の景気動向に関していえば、昨年末からこの連載で書いてきた通り、(1)欧州不安、(2)中国減速という二つのマイナス要因が想定されていた。対して、(3)アメリカの不況からの脱出、(4)震災復興需要による日本の景気底上げがあり、久方ぶりに世界景気を日米両国が引っ張るのではないか、というのが当初の予想であった。(1)(2)は、悪いことにそのまま的中したのに対して、(3)(4)の日米の踏ん張りは、期待外れに終わりつつある。その原因はなんだったかを考えてみよう。
日本のGDPの4半期成長率(実質、前期比年率換算)を見ると、1~3月は1.3%と順調な滑り出しを見せたが、4~6月は0.2%と、限りなくゼロに近い数字に後戻りしている。もちろん、同時期の欧州でギリシャ与党が選挙で大敗し再選挙が行われたこと、同じくフランスで財政再建重視のサルコジが大統領選に敗れたことなどに代表される大波乱が起きたことが原因の一つだろうが、もう一つ、国内でも予想外のことが起きていた。
震災復興予算16兆4,855億円のうち、7兆7,451億円が、2011年度中に事業化されず、宙に浮いていたのだ。もともと、復興予算は使途が決まったあと、それを数年かけて費消するため、そのギャップがそのまま今年度の景況に影響を及ぼすわけではないのだが、それでも、総予算の3割程度が今年度に実行される想定であったため、2兆円規模のマイナス影響を及ぼしたことになるのだろう。
一方、アメリカの不調は、大統領選とそれに伴う上下院の選挙結果のせいで、俗に言う「財政の崖(フィスカル・クリフ)」に突き当たったこと。それによって、企業経営者が投資や生産にアクセルを踏み続けられないという迷いが生じていると考えられそうだ。
財政の崖とは何を指すのか?
2000年代に始まった所得税などに対する大型減税策、いわゆる「ブッシュ減税」が2012年末に期限切れになるのだが、これをどう延長させるか、民主・共和両党で大きく意見が異なる。もし、上院で民主が多数、下院では共和が多数という現状の「ねじれ」状態が継続すると、有意義な法案が通らず、大きく景気を冷やす可能性がある。これが一つ目の崖という名の「壁」。
二つ目は、2011年にアメリカの債務上限(アメリカは国債の発行額の上限を議会が決めて法律化する)が問題になったことに起因する。この結果、債務上限を引き上げる(つまり、国が借金をして景気対策にお金を使える)が、ただし、2013年1月から、その借金を返すために強制的な予算削減を行うという「時限爆弾」が埋められてしまった。この爆弾の起爆を後ろ倒しにできるかどうか。こちらも、選挙結果が大きくモノを言うことになる。
同時に、2011年同様に、債務上限を引き上げる法改正がもめると、アメリカ政府が資金不足となり、これまた大きな景況不安が起きる。
これら3つの壁が大きく立ちはだかるために、経済が一進一退を繰り返す状況にあるのだろう。
この混迷はどこまで続くのか?
その先には、カタストロフが待っているのか?
予想を進める前に、一方では想定していなかった好転要因についても触れておきたい。
まず、中国では、今秋に予定される指導者のチェンジを前に、一足早く、景気刺激策が決まった。中国国家発展改革委員会(NDRC)が、9月5日から6日にかけて、鉄道や港湾、高速道路など55項目、総額1兆元(約12兆3,000億円)規模の公共事業の開始を承認したのだ。これは、4年前のリーマンショック直後に決めた景気対策と比べると4分の1ほどの規模だが、それでも、瞬発的なカンフル剤としては十分に大きな規模といえるだろう。
欧州はどうか?こちらでも、いくつかの好転要因が見いだせる。サルコジからフランス大統領を引き継いだオランドが主導して、2つの積極経済対策を打ち出したのだ。
(1)欧州投資銀行(EIB)の資本増強によるレバレッジで、600億ユーロ(約6兆円)を、重債務国を中心としたインフラ開発投資資金として捻出
(2)EUの低所得地域向け補助金である「構造基金」から約600億ユーロを中小企業支援や若年層の雇用対策などに割り当てる。同補助金は利用率が低く、EUの埋蔵金ともいえる存在
この二つの施策により、欧州でも12兆円ほどの小さくない景気対策が打たれることになる。
さらに、財政破綻状態のPIGS4カ国(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)が、超緊縮財政で景気下降スパイラルに陥らないようにと、財政再建計画の先伸ばしがささやかれ始めた。もともと、南欧州諸国と関係の深いフランスは、再建計画に寛容であったが、9月に入って、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が、ギリシャに関し、「選択肢の一つとして、(債権)期限(の延期)は検討される必要がある」と援護射撃を始めている。各国のストライキとも相まって、早晩、再建計画のリスケジューリングが現実となる可能性は高い。
こうした欧・中のプラス要因に加え、日本でも事業化されなかった復興予算残7兆円が2012年度の予算に組み込まれ、今期後半以降に事業化されていく、という底上げ要因が期待できる。今年の景況が「そこまで盛り上がらなかった」分、来年以降が逆に少々明るくなるわけだ。
さて、ここまでを整理してみよう。
<マイナス要因>
(1)欧州は今年、想定以上に悪いことが重なった
(2)日本は想定していたほど、底上げが起きなかった
(3)アメリカも、予想以上の「財政の崖」不安が起きた
<プラス要因>
(1)中国の中規模の景気対策
(2)欧州の中規模の景気対策
(3)欧州の重債務国の再建猶予
(4)日本の使い残し予算の事業化
見ればわかるとおり、想定外のマイナス要因は、現在までに起こったことであり、逆にプラス要因の方は、今後起きることである。
つまり、想定外に今までが悪かった分、今後は、想定以上に上向く可能性が高いのではないか?
では、現状の霧が晴れるのはいつになるのか。
その時期は、ずばり11月だろう。
この月には、言わずと知れた、アメリカ大統領選がある。そしてもう一つ、スペインの最大州であるカタルーニャ地方での「分離独立に関する住民投票」もある。
アメリカ大統領選では、共和党候補のロムニーが5月の内部演説で、「47%の人(所得税ゼロの人=貧困層)は政府に頼り切りだ。自分たちは被害者で、政府に面倒をみる責任があり、医療、食事、家、何でも受け取る資格があると思っている」と暴言を吐いたことが明るみに出て、みるみる支持率を下降させてしまった。
一方、民主党のオバマ現大統領は、主導した貧困層の医療無保険者を救う医療保険改革法が、連邦憲法裁判所で6月に合憲と判断され、こちらは着実に株を上げている。世論調査でも、ねじれの起きた下院での共和党の「何でも反対」姿勢には批判が強い。一方、民主多数の上院は、改選数が全体の3分の1のため、今回の選挙で共和逆転は難しいだろう。とすると、オバマ再選・上院民主死守・下院民主逆転、という民主のトリプル勝利でねじれが解消される可能性が少なくないのだ。
これに、スペインのカタルーニャ地方での分離独立が否決されることが重なれば、プラス要因がようやく軌道に乗りだすのではないか。
ただし、アメリカのトリプル選・スペインのカタルーニャ州投票ともに、ひとつ風が吹けば行方は大きく変わる。その前に、日中の尖閣問題も波乱が懸念される。
まだまだ、予断を許さない“抜き差しならない状態”がしばらく続くといえるだろう。
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