人事必読本レビュー:守島基博・大内伸哉『人事と法の対話』(有斐閣)

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正社員・非正規社員の多様化が大きく進行し、人事管理と労働法改正の両面で大きな問題になっています。

実務にお忙しい人事の方向けに、世にあまた流通する人事に関連する書籍の中から、新刊を中心に、HRmics編集部が特に推薦したい書籍を選び、その読みどころをご紹介いたします。HRmics副編集長の荻野が担当いたします。※2014/04/24の記事です。

ルール=労働法を知らずして人事はできない

人事必読本レビュー:守島基博・大内伸哉『人事と法の対話』(有斐閣)

4月新年度は人事異動の季節でもある。今回紹介するのは新しく人事に配属された人にぴったりの本である。

なぜぴったりなのか。

どんな仕事にも、踏まえておくべきルールというものがある。人事の仕事は人事管理だが、そのルールにあたるものが労働法に他ならない。労働法の知識なくして、人事管理を行うのは、オフサイドやPKといったルールを知らないのに、サッカーをやるようなものだ。

ところが人事管理の基本書といえば、経営学者やコンサルタントが手掛ける場合がほとんどで、労働法に関する記載はなきに等しかった。

本書は違う。人事管理(守島氏)と労働法(大内氏)の、それぞれ第一線に立つ専門家が、採用から評価、育成、異動、退職といったテーマごとに、対談形式で議論を繰り広げており、人事管理と労働法の基本をバランスよく学ぶことができる。

誤解されないよう付け加えておくと、本書は「初学者相手の基本書」というわけではない。本書の読みどころは、経営学者と法学者のまさに「対話」にある。両者とも裃を脱ぎ、相当、突っ込んだ議論を繰り広げている。

しかも、そうした対談に加え、3社の企業人事、そして産業医との鼎談が計4つ加わっているためか、現場感も横溢している。人事実務と労働法の考え方の相違点や共通点が自然に浮彫りになっており、プロ人事にとっても得るところ大なのだ。

人事と労働法で異なる賃金の意味

両者の違いが際立つのは、たとえば次のような点だ。

労働法の世界では、賃金を労働の対償と考えるが、人事管理では違う。守島氏いわく、それは、社員から何らかのアウトプットを引き出すためのインセンティブだという。

アウトプットとは、たとえば本人の成長だったり、より大きな成果だったり、目の前の仕事の実直な遂行、だったり。経営がどんなアウトプットを望むかによって、制度を変えなければならないわけだ。

有期雇用の捉え方でも、両者は異なる。

雇用契約が何度も更新され、雇用が長期化している場合、労働法は雇用契約を有期ではなく、無期にすべき、と考える。一方、人事管理は、契約を繰り返し更新することで、現に雇用の安定を確保できているわけだから、それ以上の保護は必要ないでしょう、という捉え方をする(労働契約法の改正によって、前者、労働法の考え方が有期雇用において実現したのはご存じの通りだ)。

労働法はあくまで個が対象となる。一方の人事管理も同じく個が対象となるが、その影響が全体に及ぶことを忘れるわけにはいかない、という点が異なる。

具体的に見ると、異動拒否の問題だ。

労働法の教科書的解釈でいけば、正社員の場合、よほど特別な事情がない限り、会社の異動命令には従わなければならない。それを拒否すると懲戒解雇になっても文句は言えない。では企業が懲戒解雇を行うかといえば、守島氏いわく「行わない」。

企業としては意に従わない本人に対して、伝家の宝刀をぜひとも抜きたいところだが、抜いた場合に周囲に及ぶ影響を人事が考えざるを得ないからだ。異動拒否くらいで、解雇になるとは、うちの会社はひどいところだなあ。周囲の社員がこんな気持ちになったら、企業へのロイヤリティや仕事へのモチベーションがガタ落ちしてしまう。ましてや訴訟でも起こされたら、人事部長のクビが平気で飛んでしまうのだ。

守島氏はこうまとめる。

〈人事管理というのはその対象人材に対してだけやっているわけでないので、その周りの人たちも含めて多くの従業員に人事管理上の意思決定やアクションの影響が及ぶわけで、そこをどこまで考えるかが良い人事と悪い人事を分ける〉。

スペシャリストは解雇されやすい

一方、労働法の教科書的解釈が本領を発揮する箇所もある。

たとえば、大内氏がこういう。雇用の安定性と職種の安定性は両立しない。職種別採用で入社した人材はその職種がなくなったり、その職種を必要とする事業がなくなったり、あるいは本人がその職種をこなすだけの能力を失った場合、企業はその人材を解雇できる、と。

それに対して守島氏はこう返す。人事としては驚きの内容だ。そんな会社は現実にはないだろうが、解雇を容易にするという点で職務限定採用が経営にとってメリットになるということか!

続けて大内氏がこう畳みかける。

〈スペシャリストはある意味危険なところもあるわけです。雇用の安定性とは結びつかないところがあるので。スペシャリストはそのスペシャルな力で勝負していくわけですから、雇用の安定性とは違った世界にいるわけです(中略)逆に企業は、できるならばスペシャリストを集めてうまく統合して管理していくということができると、ある職種がなくなればそのスぺシャリストは切れるということで、組織に柔軟性が出てくるかもしれません〉。

それに対して、守島氏はこういう感想を漏らすのである。

〈いまの言葉を労働法の先生からうかがうのは人事としては驚きだと思います〉。

まさに対話といえるだろう。

労組の問題にはぜひ国際的見地を

2人の意見が一致するのは、労働組合の沈滞を嘆くところである。その原因は、日本の労働組合が経営との協調路線を維持することを第一義に考えて活動してきたため、雇用の維持はともかくとして、非正規社員まで含めた現場の社員のニーズをうまく掬うことができなくなったことにあるというのが共通した見方だ。

逆にいえば、意見が一致し過ぎて物足りなく感じた。このテーマは、できるなら、欧米の労組の事例や実情も交え、もう一段階、立体的な議論が欲しいところだ。日本に限らず、労組の組織率は世界的に凋落傾向にある。ここで指摘された日本の労組の弱みは欧米の労組にも当てはまるのか、はまらないのか、という議論である。

日本型正社員の終焉

本書で展開される対談および鼎談は計12セッションに及ぶ。テーマはいずれも人事の基本、もしくは法改正の面で大きな動きが生じているものばかりだが、それらを通覧して思うのは、「日本型正社員の終焉」ということである。「限定正社員」「ジョブ型正社員」といった言葉に代表されるように、正社員の多様化、非正規社員の多様化が大きく進行し、それが人事管理と労働法改正という両面で大きな問題になっている。2人の議論の向こうに、そういう構図がくっきりと浮かび上がるのである。

もう何年かしたら、正社員、非正規社員という言葉も意味がなくなるかもしれない。

そういう意味では、歴史が大きく変わるとば口にわれわれは立っている。人事にとって、やりがいのある時代ではないだろうか。

ネタばれになるから書かずにおくが、人事管理と労働法には共通の目標があるという。一読後、それを知れば、あなたが新配属された新米人事なら、ちょっと頑張ってみるか、と腕まくりしたくなるかもしれない。その直後、猫の目のように変わる労働法の理解が大変だ、と匙を投げたくならないよう、くれぐれもお祈りしたい。

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