能力主義と成果主義、コンピテンシーの真実〈2〉

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日本企業に根付きつつあるのは、「能力成果主義」あるいは「発揮能力主義」

前回に引き続き、リクルートエージェントが昨年10月に創刊した人事専門誌『HRmics』が去る2月9日に開催した読者向けイベント、「HRmicsレビュー」の模様をお伝えします。
今回は、同誌編集長、海老原嗣生による「人事制度設計上のポイント再整理」後半です。※2009/03/19の記事です。

HRmics編集部
■同誌 編集長プロフィール
※海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
(株)ニッチモ 代表取締役 HRmics編集長
(株)リクルートエージェント ソーシャルエグゼクティブ
(株)リクルートワークス研究所 特別編集委員
人材育成学会理事

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。事業企画や新規事業立上げに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「WORKS」編集長に。2003年よりリクルートエイブリック(現リクルートエージェント)にて数々の新規事業企画と推進、人事制度設計等に携わる。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。


司会「コンピテンシーの正体を見極める必要とは?」

海老原「多くの組織心理学者は、『コンピテンシー=出来る人の行動特性や基礎行動力』といった捉え方をしますが、そう考えると“魔法の杖”ではなくなります。そうではなく、端的に発揮能力と考えるべきなのです」。

例えば、企画力があり、対人折衝力も強い、法人相手の営業マンがいたとする。営業マンとしては非常に優れた企画力・対人折衝力という「コンピテンシー」を持っている人材といえるが、彼が、個人相手の営業に転職すると、今までの「コンピテンシー」が発揮できず、苦しむ例が数限りなくあるという。

海老原「業界知識や成功体験、仕事の進め方、部下からの賞賛の眼差し、そういったものがあり、彼は法人相手の営業「コンピテンシー」を培ったのです。彼が持っていたのは『出来る人の行動特性』でも『資質』でも何でもない。この力は、法人相手から個人相手に転職した瞬間、ついえてしまうのですね」。

つまりコンピテンシーは、「行動特性」「行動力」といった、どんな場面でも必ず発揮できるような、確固たるものではなく、状況・場面により消えてしまうものだ、と海老原は説く。だから、コンピテンシーは人事的に意味がある。確固たるものなら、一度獲得すれば、そのまま永遠に持ち続けられる事から、つまり、それがあるか無いかで給与を決めれば、やはり「一度上がった給与は下がらない」=下方硬直に悩む事になる。一方、状況や場面により、上下動するものなら、それに応じて、給与は上下動できる。つまり、下方硬直が生まれない。そこで、アメリカの多くの企業は、コンピテンシーベースの給与制度に変更した。ところが、日本にこれが導入されるとき、「行動特性」と誤解され、紆余曲折が起きた、と海老原は話す。

ここにコンピテンシーの考え方を入れたら、どうなるだろう。

海老原「先ほどの語学学校の喩えでいえば、英独2つの語学力を持っていても、発揮されなければ給料は上がらない事になる。半年間で両方を使った場合、「ああ、2カ国語の能力が生きているね」ということで、発揮されていれば、高評価となる。つまり、能力主義を維持しながら、下方硬直性というマイナス面を取り除けるのです。思い起こして下さい。日本には、90年代、成果主義とコンピテンシーがあたかも手を繋ぐように入ってきた事を。タンデムで入ってきた理由はそこにあったのです」。

海老原は従来の能力主義を「保有能力主義」、コンピテンシーが加わった新しい能力主義を「発揮能力主義」とおく。一度、資格が上がると査定が悪くても、下の資格に属する人より高い給与をもらうのが前者、上席者でも活躍しないと、資格(保有能力)は上だが、発揮能力評価がマイナスとなり給与が低くなるのが後者だ。

能力の発揮具合(=コンピテンシー)を見るのが日本の成果主義

下方硬直が起きない能力主義として、コンピテンシーが登場

海老原「問題は、能力の発揮状況をいかに見るか、ということです。人間が「能力の発揮度合」を査定するのは、それこそ旧来型能力主義と同じ、お手盛り査定になる。そこで、能力の発揮度合を成果主義で見る、という事で成果主義が広まった。つまり、能力主義の発展改良として、コンピテンシー+成果主義が広まったのです。ここを全く逆に捉えている人が多い。」

海老原は、その誤解例として、以下の話をする。

海老原「成果主義というと、歩合制を連想する人が多い。マスコミも識者もこれを念頭に成果主義批判を繰り返す。でも、日本の多くは、どれだけ能力を発揮したかを測る成果主義です。売上比例の単純歩合的な成果主義を入れている企業なんてありません。成果を見て、それを査定し、そして給与に反映する。要は査定です。そしてその成果も、例えば『部下の不調者が減った』『顧客クレームがゼロになった』といったもので良いのです。前者なら小規模集団のリーダーシップ、というコンピテンシーが発揮された結果だし、後者なら、顧客への丁寧なフォロー力というコンピテンシーが発揮された結果です。誤解されがちですが、お金に換算出来ない業績でも勿論良いわけです」。

成果主義とは売上そのものによって人を評価するという考え方があるが、これは誤解だ、というのである。それこそ、中村教授が話した「素朴な成果主義」だ、と。こんな企業はまず無い。

海老原「多くの企業では、成果を上げるための発揮能力を見ているのです。それが日本流の成果主義。いや、アメリカの企業も90年代以降はそうですね。一部の金融系企業を除いては。教授の分類でいえば、プロセス重視型、あるいは分離型といえるでしょう」(海老原)

まとめよう。いま日本企業に根づきつつあるのは、①職務が柔軟である、②他人が困っていれば協力する、③能力の蓄積が進む、といったメリットを有する能力主義を基本的に保持しつつ、「発揮された職能」という意味に等しいコンピテンシーの助けを借りて、①能力概念が曖昧、②評価基準が不明確、③給料の下方硬直性が生まれる、といった能力主義のデメリットを払拭させるべく、進化してきた「能力成果主義」あるいは「発揮能力主義」なのだ。

古くは漢字、律令制度、あるいは明治維新の諸制度でもいい、最近ならSRC(統計的品質管理)をTQC(品質改善運動)に作り替えたこともそうだろう。外からの文物を巧みに取り入れ、自分たちなりに咀嚼してきたのが日本の一貫した姿勢だった。成果主義とコンピテンシーにも同じことが言えるのかもしれない。

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