前回に引き続き、去る9月16日に東京で行われたHRmicsレビューの模様を、HRmics副編集長の荻野が報告します。テーマは人材育成。今回は前回に引き続き、北九州市立大学キャリアセンター准教授、見舘好隆氏の講演概略をお届けします。※2010/10/14の記事です。
さて、前回、マクドナルドのクルー育成のために、会社側が用意している教育プログラムの本質が明らかになった。それ以外にも、クルー育成に寄与するものがある。そう、ともに働く上司や同僚であり、仕事そのものであり、さらにいえば顧客もそうだ。
見舘氏は、先述したマッコールのモデルに基づき、そうした、人を育てるものを「経験」と定義し、さらに各々の経験に、「触媒」という“成長促進剤”を付加することが、より確実な成長を遂げるのに必要だ、と考える。
見舘氏:「問題は、どんな触媒を、いつ、どのようにして用意すれば人は育つのか、ということです」
図表をご覧いただきたい。これは、入社前、入社直後、半人前から一人前へ、さらなる成長へ、という4つのステージを設け、上司や同僚、顧客、仕事という3つの経験に対して、それぞれのステージごとにどんな触媒(=経験を強め、高めるもの)を用意すればよいか、を表した図である。さらに、その触媒を強める働きをする教育プログラムの内容も提示している。ここまで見てきたように、マクドナルドで用意されているものもあれば、用意されていないものもある。
例えば、入社前ステージにおいて、「上司や同僚」が与えてくれる経験に、「憧れ・成長意欲」といった触媒をどう付加すればよいか。
見舘氏:「求職者に、仕事や職場の良い面だけでなく、悪い面も積極的に開示するRJP(Realistic Job Preview)を行うのが効果的です。それによって、意欲の高い人材が採用できるのです。具体的には、例えば社員が生き生きと働いている姿や仕事での苦労話をHP上に動画でアップしたり、面接担当者の好感度アップを考えたりするなど、採用広報や採用プロセスの工夫が必要です」
同じように、入社直後に必要なのが「歓迎」という触媒である。古株バイトや社員との間に無用な溝を作らないためには、最初からチームの正式な一員として遇し、難度の低い小さな仕事を任せてみて、そこから徐々に中心的な立場の仕事を担ってもらうのがいい。そういう、チームメンバーとしてのアイデンティティを獲得させることが何より大切だという。
半人前から一人前に移行する段階で必要なのは、「ライバル」と競い合う環境を用意する一方で、「メンター」をつけることだ。さらなる成長へ、人を育成するには、仕事の能力という面ではもちろん、人格的にもすぐれた人間を身近に配する必要がある。マクドナルドの場合、スウィングマネージャーがその役割を担っている。
次に、顧客という経験と、各ステージ(「入社直後」と「半人前から一人前へ」)に必要な触媒を見ていく。
見舘氏:「自分が顧客だった時に描いていた仕事イメージと、それに応えられていない自分とのギャップに悩む。それが『自分との戦い』で、基本的には自分で乗り越えさせるしかありません。その後、半人前から一人前になる過程では、思いもかけない顧客からの要望にどう応えられるか、ひたすら場数を踏ませ、『接点の工夫』を行わせることです」
なお、ここでいう顧客とは、取引先や同じ会社の他の部署の人間とも言い替えることができる。そう、この経験と触媒理論は、サービス業ならずとも応用して活用することが可能なのだ。
次は、「仕事」経験と関連した触媒に移ろう。
入社直後に用意すべきなのが「儀式」と「徒弟制」である。最も大切な儀式は、会社の理念をしっかり浸透させる目的で行われるものだ。マクドナルドでは、クレドである「I'm loving' it」の中身がDVDを用いた最初のオリエンテーションでしっかり叩き込まれ、その後も、その後も絶えずクレドに基づいた指導が行われる。
徒弟制は人材育成の基本である。それを手取り足取り教えることだと勘違いする人が多いが、重要なのは、放ったらかしの状態をいかに作るか、にある。できそうな仕事を、失敗を許容しながら任せつつ、最後は影のように師匠は消えていく、というやり方が理想、と見舘氏が強調した。
半人前から一人前へ成長させるには、自分の役割だけでなく、「チームの誇り」を意識させることが必要となる。その対策として「協働する仕事を作ること、お互いの仕事を理解させること、そして行動指針などに明記して、助け合うことを当たり前のルールにするのがいい」と見舘氏。
一人前になって満足し、辞められても困る。それを回避するには、さらなる成長を遂げさせることだが、そのために必要なのが社内資格、非正規社員から正社員へのパス、マクドナルドのオールジャパンクルーコンテストといった「階段」である。
禅の用語に「?啄同時(そったくどうじ)」という言葉がある。「?」とは鶏の卵がかえる時、殻の内部を雛がつつく音であり、「啄」とは母鶏が卵の外側から殻を噛み破ることだ。両者が同時に起こることで、はじめて雛が誕生する。人材育成でいえば、「?」とは、「もっと成長し、仕事ができるようになりたい」という本人の意欲や行動、「啄」とは、それを支援する上司の配慮や教育プログラムとなる。
見舘氏:「『啄』とは、経験と触媒、それに教育プログラムの3つを合わせたもの、ともいえます。自社の新人育成のロードマップを作り、的確に『啄』を提供できているか、再確認してみてください」
次回は、この見舘理論を一般企業の若手育成に応用するための方法を探る第二部の内容をレポートする。
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