定年延長は弥縫策ではなく、抜本対策を

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少子高齢化に対する持続性の高い新しい雇用モデルを

リクルートエージェント発行の人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするHRmicsレビュー(無料セミナー)を開催しています。恒例となりましたが、今回も3回にわたり、最新レビューの概要をお届けします。執筆・構成は同誌副編集長の荻野です。※2012/06/21の記事です。

収入の空白を生じさせないための雇用延長策

ニッポンの少子高齢化が止まらない。社会保障費の増大で充当する財源に赤信号が点る(ともる)という。そんな状態を少しでも改善するには、①高齢者の引退年齢を遅くし、元気で働ける人には現役としてなるべく長く働いてもらう、②年金の支給開始年齢を遅くする、という2つの策が考えられる。

①に関しては、高年齢者雇用安定法の改正案が国会に提出され、希望者全員の65歳までの継続雇用の義務化が審議中だ。

②に関しては、事態はさらに進んでいる。会社員が受け取る厚生年金は1階部分(基礎年金)の支給開始年齢は2001年度より、60歳から1歳ずつ、3年おきに引き上げられ、2013年度には65歳になる。2階部分(報酬比例部分)も、2013年度より、同じく60歳から1歳ずつ、3年おきに引き上げられ2025年度には65歳となる。

この①と②の政策は密接につながっている。年金支給開始年齢の後ろ倒しによって、年金はもらえないし、仕事もないという収入の空白部分をなくすため、65歳までの継続雇用が義務化されようとしているのだ。

積み立て方式は実現が難しい「絵に描いた餅」

こうした「年金支給開始年齢の後ろ倒し⇒定年延長(継続雇用の義務化含む)」という措置は、過去、何度か行われてきたが、そもそも、「誰を、いつまで雇用するか」という個々の企業の実情に合わせるべきという問題を、年金施策とリンクさせて考えるのはおかしい、という主張も成り立つ。

そういう主張を唱える人の多くは、現在の年金制度を批判、「現役世代の稼ぎを引退世代に渡す現在の『賦課方式』ではなく、現役時代に自分で稼いだ所得を引退後にその人自身が使う『積み立て方式』で行くべきだ」という。

この、昨今はやりの賦課方式批判論を海老原は以下の点から批判する。

ひとつには、積み立て方式の場合、制度が完全に機能するまでに時間がかかり過ぎること。これは年金開設時の事情を考えればすぐわかる。その時ちょうど、現役を引退した人たちの場合、過去からの積立金はゼロだから、ない袖は触れず、いつまで経っても無年金となってしまうのだ。「最低40年、保険料を支払わなければ年金はもらえない」となると、もらえるのは当時20代の人だけになる。せっかく整備した制度が機能するのが40年後では意味がなくなってしまう。

ふたつには運用の難しさである。経済が乱高下を繰り返す中、40年の長きにわたり、積立金を運用するのは至難の技である。加えて、寿命の伸びという問題もある。ここ半世紀あまりで日本人の寿命は10歳以上も伸びた。積み立て方式の場合、こうした数字のデコボコも勘案しながら、慎重に積立金を運用する必要がある。水も漏らさぬ最適な運用を行えるのは恐らく神様だけだろう。理論としては美しいが、運用が困難。それが積み立て方式なのだ。

その点、賦課方式はいつからでも始められ、今あるお金を受け渡しするわけだから、運用の難しさも大きな問題とはならない。世界のほとんどの国の年金が賦課方式なのもうなずけるというものだ。

でも、賦課方式で行く限り、年金支給開始年齢と定年後ろ倒しのイタチごっこが永遠になくならないように思えるのだが……

海老原:「年金支給開始年齢が68歳になると、それ以上の後ろ倒しは不要になるそうだ。平均寿命が現在の82歳で変わらないとすると、年金が支給されるのは14年間ということになる。55歳定年で、寿命が69歳だった1950年代も14年間の支給であり、奇しくも期間が一致する。これくらいの期間であれば、現役世代と年金世代の数に過度のギャップがない限り、年金財政は十分持ちこたえられるそうだ」

今の高齢者=年金多額受領者のウソ

昨今の年金にまつわる議論の間違いを海老原はもう一つ、指摘する。基礎年金を含む厚生年金の支給水準は「現役時代の6割」と言われる。つまり、現在年収800万円の人なら、480万円くらいもらえると考えがちだが、これが大きな誤解だという。

まず6割には、ボーナスに代表される一時金や、税金および社会保障負担(年金・保険)料が含まれない。年収の3割がボーナス、1割が税金・社会保障料として差し引くと、年収800万円の人でも480万円となる。この6割、つまり288万円が年金想定額となる。

もうひとつ、カラクリがある。「現役時代の6割」とは妻の年金を含めた世帯全体での額となる。フル加入で年額約80万円となる妻の年金額を差し引くと、本人支給分は200万円程度、月額17万円弱となってしまう。

海老原:「かなり低い額であり、持ち家ならともかく、貸し家ならば、貯金を切り崩さなければやっていけないのは明らかだ。厚生年金と基礎年金で、月30万円以上もらっている高齢者の割合は全体の0.3%、20万円程度もらっている高齢者でさえ16.1%しかいない。今の高齢者は多額の年金をもらい、悠々自適の生活を送っているというイメージが実態といかに離れているか、ということだ」

定年延長は若年雇用を阻害しない

次に、年金と密接に関係する定年の問題を考えてみよう。

定年ではなく、希望者全員、継続雇用義務化の議論でもそうだが、高齢者の雇用を保証すると若年雇用の悪化につながる、という言説が根強い。

これに対して海老原は、定年が55歳から60歳に延長された1980年代の採用状況を見ても新卒採用がまったく減少していないこと、新卒採用の増減はむしろ景気動向に一致すること、以上は65歳定年が努力義務化された2006年以降も変わらず当てはまることをデータで示し、その論を斥けた。若年と高齢者は雇用という名の同じパイを食い合うライバル同士ではなく、任される仕事内容や役割がそもそも違う、ということだろう。

60歳定年が独力義務化されたのが1986年、義務化されたのが1994年、そして、全員ではないにせよ、65歳までの継続雇用が推奨されたのが2005年である。この間、日本企業は右肩上がりで増加する人件費負担にどう耐えたのだろうか。

年功カーブの修正で危機を乗り切った日本企業

それに対する答えが、年功カーブの調整である。以下の表をご覧いただきたい。

図表1:年功カーブの変化

20代前半(20歳~24歳)の賃金を100とし、それぞれの年齢区分における賃金を、当該年ごとにプロットしたものだ。最も賃金が高い50代前半(50歳~54歳)は1995年当時、288もらっていたが、13年後の2008年には237となり、総額で17.7%も下がっている。日本企業はバブル崩壊後、20年かけて年功カーブを修正し、雇用は維持したまま、長く働ける仕組みをつくってきたのだ。

海老原:「その修正に役職定年制が大きく寄与したことは間違いない。そうやって、日本企業が年功カーブの緩和に成功したのは事実だが、その中身は、できる人、できない人をさほど区別しない一律削減型であり、業績上位者と下位者の賃金差は上下15%程度と極めて小さい。ここをどうするかが将来的な課題となる」

実力相応給の欧米と実力不相応給の日本

もっとも、欧米諸国にも多かれ少なかれ、年功カーブは存在する。でも一本の年功カーブの背景にある事情が違う。以下のようである。

図表2:日・欧米の年功カーブの内実

つまり、どちらも、エリートとノンエリートの二者によりカーブが形成されている点は同じだが、欧米は昇給度合いが強い一部のエリートと、ほとんど昇給しない多数のノンエリートに分かれているのに対して、日本の場合は先に見てきたように、上位と下位の間に差があまりない。圧倒的多数のミドルエリートの数が分厚い社会なのだ。

このことがそれぞれの雇用社会にどんな影響を及ぼすのだろうか。

まず欧米では、多数のノンエリートが比較的安い賃金で長く働くため、仕事の腕はかなり熟練する。若者が新しく入職するには、彼ら並みの熟練が必要なため、インターンやアソシエイトといった形の修行期間が必要となる。そこに入れない若者も多いので、若年の高失業という事態が起きる。

一方の日本では、熟年の賃金が年功給の影響で実際の働きから比べて不相応に高いため、低賃金だが未経験の若年者を雇うメリットが存在する。その帰結が新卒一括採用であり、結果として、欧米とは逆の若年の低失業社会が実現している。

海老原:「欧米は実力相応給の世界であり、定年という強制排出装置はそれほど意味をもたない。そうなると、未経験者、つまり若年の採用が阻害され、熟年が有利な社会となる。一方の日本は、実力不相応給の世界、言葉を変えれば長期雇用で帳尻を合わせる社会のため、強制排出装置としての定年が不可欠となる。定年が機能するからこそ、新しい人材が必要となり、未経験でも低賃金で済む若年を積極的に採用することになる」

定年問題を考えるには定年だけを見ていても駄目、若年問題を含めた雇用システム全体を考慮する必要があるのだ。

こうした欧、米、そして日本の雇用社会の構造の違いを示したのが下図となる。フランスやアメリカでは難関大学を優秀な成績で卒業した超エリートが、「カードル」「LP(リーダーシッププログラム受講者)」という形で、エリート階段を超特急で駆け上がっていく(もちろん、その中にも熾烈な競争がある)。その一方で、それ以外のノンエリートたちは、そんなに昇進も果たさない(=昇給しない)代わりに、ワークライフバランスがうまく図られた職業生活を送っていく。

日本はそうではない。特に男性の大卒総合職はかなりのレベルまでの出世が約束されているが、それ以外は非正規という、雇用保証が厚くない世界が広がっている。

図表3:エリート・ノンエリートという入口の違い

欧米と日本の折衷モデルを目指せ

日本の定年制、もとい高齢者の雇用問題を考えているうちに、随分、問題が広がったようだが、ここまで視野に含めないと、「定年延長に関する抜本対策」にはつながらないのだ。

ここまでの議論をまとめると、

●若年の未経験者も優遇されるという意味で、入り口部分においては、日本型は欧米型より圧倒的に優れているが、人物本位で柔軟に職務が代わり、40歳くらいまでは誰もがエリートとして遇されるので、その後の人件費負担が企業にとってきつくなる

●欧米型は最初からエリート、ノンエリートが峻別されており、ノンエリートは早くから、ある意味、「諦めの職業生活」を歩まざるを得ないが、企業の人件費負担はフラットなため、年齢が増したからといって、一律に強制排出させる仕組み(=定年)の重要性が少ない

これを踏まえて海老原が提示したのが、下図のような日本型と欧米型の折衷モデルである。

図表4:「途中からノンエリート」型雇用

海老原:「入社してから35歳までは全員横一線で競争し、35歳の時点で、成果を出せなかった人は昇進コースに乗らず、現場職でそれなりの給与・それなりの仕事で働いてもらう。45歳時点でも同じような分岐をつくる。ただし、出世からはずれた、という人たちも、悪いことばかりではない。まず、腕が錆びないから、定年と関係なく長期雇用できるようになる。それは、欧米の良い部分と同じ。そして、同様に日本型総合職の義務からも解放されるようにする。たとえば、無理な残業、会社行事への参加、転勤なども、本人希望の範囲で、とする。こうすれば、あながち現場コースも悪くはない、という風土ができるだろう。政府の統計を見ても、50代前半の役職者の割合はどんどん低くなっており、好むと好まぬとに関わらず、日本の雇用社会は確実にこちらの方向へ進んでいるのではないか」

さて、この提案の実現可能性を含め、企業はこの問題にどう取り組んでいるのか。労働法や労働施策の変化はそれをどう後押ししてきたか。後半のレポートに乞うご期待!

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