障がい者雇用と経営合理性の両立は可能か(前編)

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世界と日本の障がい者雇用制度の中身を概観する

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、5月20日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けします。今回は、経営合理性と障がい者雇用をどう両立させるかについて、同誌編集長、海老原嗣生が語った講演の前半部分をお伝えします。執筆は副編集長の荻野進介です。※2014/06/12の記事です。

世界の障がい者雇用促進策

障がい者雇用といえば、とかく慈善事業とかボランティアの延長線上にとらえられることが多い。冒頭、海老原は、HRmics本誌で取り上げた、食品トレー製造のエフピコ、チョーク製造の日本理化学工業を例に、そうした風潮に異議を唱えた。

海老原:「私が訪れたその2社は、障がい者だからといって特別扱いせず、コアとなる本業で戦力化し、成果を上げている。そのための独自の工夫を両社ともしっかり行っている。この2社を見て、障がい者雇用と事業利益は、決して相反することではないと確信した」

講演の本題に入る前に、海老原が簡単に触れたのが、世界の動向。障がい者雇用の促進策としては、3つのアプローチが存在するということだ。

一つは、ドイツに代表されるように、一定比率以上の障がい者雇用を企業に義務付ける「割り当て雇用アプローチ」である。違反企業には罰金が科せられる国と、罰金制度はない国とがある。もう一つが「差別禁止アプローチ」であり、法律によって障がい者の雇用差別を禁じるやり方だ。アメリカやイギリスがこの方式だ。最後が両者の折衷アプローチで、フランスが代表だ。日本は割り当て雇用アプローチのみを採用してきたが、2013年に障害者雇用促進法が改正され、2016年4月から、差別禁止アプローチも併用されることになり、折衷アプローチに移行した。

こうした障がい者雇用の歴史は、第一次世界大戦の1920年代、欧州各国を中心に、傷痍軍人の雇用が各企業に義務付けられたことに端を発する。1940年代には、割り当て雇用アプローチが各国で普及した(日本の場合は1960年から)。1960年代になると、重度の障がい者にも雇用の場を用意するという目的で、最低賃金に足りない分を国が保障する保護雇用制度が、欧州を中心に導入され始めた。世の中には、障がいにより一般就労が困難な方もたくさんいる。ただ、こうした障がいを持つ人にも、働く喜びや労働を通した成長などを享受できる場を用意するというのが、保護雇用の主旨だ。日本はこの観点での施策が欧州よりも遅れている。 今回HRmicsレビューで海老原が主題として掲げたのは、こうした保護雇用の部分ではない。割り当て雇用に対して、「おつきあいではなく、本気で戦力化に取り組むべき」ということだ。

図表1:欧州の保護雇用制度の概要

法定雇用率の巧妙な仕掛け

海老原の話は本題の日本の話に入っていく。日本は前述したように、割り当て雇用アプローチを長く採ってきた。その嚆矢であるドイツを手本にしたもので、根拠となっているのが、1960年から施行された身体障害者雇用促進法だ(現在の名称は障害者雇用促進法)。具体的な仕組みとして機能しているのが、いわゆる法定雇用率である。

率というからには、分母と分子がある。分母に該当するのが、全常用雇用者数だ。といっても、業界によっては障がい者雇用が困難な職種が含まれるため、業界ごとに除外率が定められており、その分をその雇用者数から引く。逆に、働きたくても仕事がない失業者を加える。

一方の分子には、現在のところ、身体障がい者数(常用労働者数と失業者数を足したもの)と、知的障がい者数(同)を合わせた数字が来る。

現在のところ、と書いた。そう、当初は身体障がい者のみがこの制度の対象だったが、1987年からは知的障がい者が、2005年からは精神障がい者が、というように、対象となる障がい者の範囲がどんどん広がっているのだ。

海老原:「法定雇用率の見直しは、なかなかうまくできている。最初は身体障がい者のみを対象としていたが、彼らの就労意識が高まり、仕事がない失業状態の身体障がい者が増えると、分子が大きくなる。つまり、法定雇用率が上がる。そうすると、未達企業が増えてしまうので、知的障がい者を雇った場合も障がい者雇用としてカウントしてよい、ということにする。知的障がい者の雇用数が増えれば、今度は知的障がいのある人たちの就業意識が高まり、職を求める求職者(=失業者)が増えていく。そういう状態になったところで、法定雇用率の見直し時に、知的障がい者を分子部分に加える。そうすると再び法定雇用率が上がる。そこで続いて、2005年に精神障がい者を障がい者雇用にカウントできるようにし、その結果精神障がい者の求職者が増えたところで、2018年の法定雇用率見直し時には、彼らを分子に加える。こうしたプロセスで、政府は法定雇用率をできるだけ自然に上げてきた。早晩、発達障がい者も雇用カウントに入り、そのしばらく後に、法定雇用率の対象になるだろう」

2020年代後半には3%まで上昇か

海老原は法定雇用率の今後を以下のように推測する。

図表2:法定雇用率の今後(推測値)

海老原:「2020年代後半には3%に近づくことが予想される。そうなると、ますます本気で、障がい者を活用しなければ、企業経営は成り立たなくなる。この法定雇用率制度とセットになっているのが障害者雇用納付金制度で、雇用率未達成企業が支払いを義務化されている。今までは従業員200人以上の企業にのみ、月額5万円の納付が義務付けられていたものが、雇用率が上がるにつれ、支払いが義務化される従業員規模数がどんどん下がっていく。中小企業にとっても障がい者雇用は他人事ではない、切実な課題となるだろう」

日本企業はかなり頑張っている

法定雇用率達成企業は長く4割台に留まってきた。それを企業規模別に表わしたのが下の図表3だ(以下、データの出所は、厚生労働省「障害者の雇用状況報告」)。1000人以上の大企業はその割合が急増しているが、全体で見ると過半数の企業が未達成ということになる。

図表3:法定雇用率の達成状況を精査する①

海老原:「このことから、日本企業は障がい者雇用を積極的に推進せず、お金、つまり納付金の支払いで済ませようとしているという主張があるが、それは誤解だ。雇用率未達成企業でも、障がい者雇用をまったく行っていない企業の割合は非常に低い。図表4にあるように、従業員300人から500人未満の企業で未達成は7.4%、500人から1000人未満では1.3%、1000人以上の大企業では0.2%でしかない。図表5からは、未達企業で法定雇用数に対する欠員が3分の1を超える企業の比率も、少ないことがわかる。大半の企業は、法定雇用数の3分の2以上を雇用しているが、あと少し届かないという状態だ」

図表4:未達成企業に占める「採用0」の企業の割合

図表5:未達成企業に占める欠損数の多い企業割合

法定雇用率の未達成企業には先に紹介した納付金の支払いが義務づけられるわけだが、それでも改善しない悪質な企業に対しては、厚生労働省による実名公表というペナルティが課される。

それでも、いきなり公開されるわけではなく、未達成企業には、まず2年単位の雇い入れ計画の作成命令が発され、企業は実際にそれを作成し、その通り実行しなければならない。

その間、1年経過時、1年半経過時、2年終了時の3回、査察が入り、それでも未達成な企業のみ、まず特別指導が行われ、それも奏功しなかった場合、実名公表と相成る。ただし、実雇用率が全国平均以上または不足数がゼロとなることが見込まれる場合、さらに1年以内に特例子会社が設立されるなどの条件が揃えば、社名公開は猶予される。こうした結果、公開まで至るのは、例年0~3社程度となっている。実際、2011年度で雇い入れ計画作成を義務付けられた社は391社あったのに、最後の実名公表まで行ったのはゼロだった。

この公開社数を「少なすぎる」「基準が甘すぎる」と批判的に受け止める人も多いが、一方で、たった数社しか公表されないため、いざそうなると、ものすごく大きな社会的ダメージを受ける、ともいえる。そのため、多くの企業は、社名公表は絶対されないように、と努力を続ける結果にもなっている。逆に公表数が多すぎれば、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という風潮も生まれる可能性があるだけに、今の状態はそれなりに障がい者雇用進展に寄与しているといえるのではないだろうか。

今回は、世界と日本の障がい者雇用制度の中身を概観する内容となった。次回は経営合理性と両立させた障がい者本気雇用の設計法がお題となる。

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