有期雇用の厳格化は雇用正常化への第一歩か

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非正規雇用を巡る法制の変化について、お伝えします。

人事専門誌『HRmics』。発行の直後、誌面では紹介し切れない生の情報をお伝えするお馴染みのセミナー、HRmicsレビューを開催しています。今回も、5月23日に東京で行われた最新レビューの概要を3回にわたってお届けします。今回は、同誌編集長、海老原嗣生による講演の要旨をお伝えします。執筆は同誌副編集長の荻野です。※2013/07/04の記事です。

契約期間の存在が不当解雇を覆い隠す

昨年8月に成立した改正労働契約法がこの4月から施行されている。ポイントは次の3つである。

(1)「有期の上限は5年」という無期転換ルールの創設

有期雇用の濫用を防止し、労働者の雇用を安定させるために、同一の使用者のもとで、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換する。実際にそういうケースが出るのは施行後5年が経過した2018年4月からである。ただし、6ヶ月以上(契約期間が1年以上の場合。1年に満たない場合はその半分)のクーリング期間をおいた場合は除外される。また、その際の労働契約の内容は特段の定めがない限り、有期だった場合と同一とする。

(2)雇い止め法理の法制化

雇用契約の反復更新により、無期労働契約と同じ状態で働いている場合、または期間満了後の雇用継続について本人の合理的期待が認められる場合、雇止めは無効となり、有期雇用契約が更新されたものとみなす。

(3)「期間の定め」の存在による不合理な労働条件の禁止(=均等・均衡待遇)

有期契約であることを理由に、無期契約の労働者と比べて、労働条件が不合理であってはならない。※「不合理」の例:通勤手当、退職金、基本給など職務と密接に関連するものはもちろん、福利厚生、災害補償、安全管理、教育訓練の機会なども該当する。

なぜ今回、有期雇用者の保護を強化する形で法改正が行われたのか。

端的にいえば、日本の有期雇用者、つまり非正規社員の保護が弱いからである。

海老原:「解雇には、企業の経営悪化による整理解雇と、本人の能力不足や非違行為による指名解雇の2つがある。正社員の場合、解雇事由はこの2つだが、有期雇用、つまり非正規社員の場合、気に入らないから、組織の和を乱すから、といった非合理的な理由による不当解雇が、契約期間終了という名のもとにまかり通っているのだ。今回は非正規社員ならクビ切りし放題という、この無秩序な状態にメスが入ったと考えるべき。雇用正常化の第一歩とポジティブにとらえてはどうだろう」

非正規だけではない、正社員にも及ぶ問題

そもそも非正規社員を企業が必要とする理由は何か。海老原作成の下の図表をご覧いただきたい。

図表1:非正規社員を企業が必要とする理由

非正規雇用が必要な要因が左側に、真ん中にその具体的事由、右側に、そうした要因および事由で非正規社員を活用することに対する問題点が記してある。このうち、臨時的な雇用(代替、非永続性、繁閑性、景況)の場合と、採用ミスがわかった人を能力不適合で解雇する場合に対しては、「有期雇用の上限を5年」とする今回の改正は何ら影響がない。どの場合もあくまで「臨時的」雇用であって、5年のうちに決着がつく、つまり雇用が自然消滅するはずだからだ。

問題はその下の2つである。

入社後しばらく経ってから能力不適合が判明する場合に備え、解雇しやすい非正規社員を雇っておく場合や、人件費、教育管理コスト削減のために非正規社員を活用する場合、「上限5年ルール」は厄介なものになる。どちらも臨時的雇用ではないからだ。ただし、これは日本型雇用のそもそもの問題を真っ向から考えず、非正規という抜け道を使って“逃げ”ているだけではないか、と海老原は主張する。

海老原:「当初から能力がないのであれば、働いて半年もすれば、能力不足として契約終了しているはずだ。5年も働いたあとで“能力不足”というのは、それとは別の問題がある。たとえば、入ったときはOKだったのに、怠け癖がついたというのなら、それは、会社のマネジメントの問題だろう。もう一つ、その後、成長しなかったので雇用終了という場合。これこそ日本型の問題だ。なぜならば、社員は必ず成長して階段を上らなければいけない、という暗黙の了解が前提となっているからだ。実は、人件費問題も教育管理コストも同じなのだ。非正規の給与は同じレベルの単純業務を行う正社員のエントリーレベル、たとえば高卒1年目と給与差はほとんどない。同一労働なら、給与はほぼ同じなのだ。にもかかわらず、非正規が安いと言われるのは、高卒1年目の正社員は、10年後には昇級昇格して、年収が上がっている。そのために、教育投資が必要となり、また将来の高額年俸が前提となる。それが“高い”のだ。これらはみな、“日本型雇用は、社員が階段を昇る”ことが前提となっているからだろう」。

さらに、経営不安バッファ、地域限定、職務限定で非正規を活用する場合も「5年ルール」は問題となる。それぞれ、経営悪化時、地域撤退時、職務縮小時の解雇要員なわけだが、そこに上限5年というタガがはめられてしまうのだから。

海老原:「その2つの問題を解決するには、正社員は全員幹部候補で、年功昇給していくという日本的人事慣行の見直しと、整理解雇要件の緩和が必要となるだろう」

つまり、今回の有期雇用法制の厳格化は、非正規雇用の内部で閉じる問題ではないということ。ケースによっては、総合職のあり方にも影響が及ぶ大きな問題なのだ。

各国比較から見えてくる「日本の実情」

海老原は次に今回の法改正によって成立した日本型有期法制を各国と比較する。

ヨーロッパ諸国においては、一時的もしくは季節ごとといった、まさに「臨時」的仕事か、産休取得者や休業者の代替、企業活動の一時的増加といった「特殊事情」がない限り、非正規雇用は認められていない。いわゆる入口規制である。また、契約期間の上限や契約の更新回数も決められている。こちらは出口規制である。

これに対して、入口規制も出口規制もないのがアメリカだ。日本もこのアメリカに近かったが、法改正により、出口規制が設けられ、ヨーロッパ型に近づいたといえる。

再び日本に戻り、解雇に関する法規制を振り返っておきたい。

結論からいうと、海老原いわく「特段、厳しい法規制や罰則はない」

具体的には、まず民法に「解雇退職の自由」を定めた627条があるが、一方で同じ民法に「権利濫用」を禁じた1条3項もあるので、双方で相殺しあうことになって、解雇権の濫用がまず禁止されている。

一方、もっと具体的な規制として、業務上の災害、あるいは産前産後の休業中とその後30日間の解雇、30日前の予告や30日分の手当がない解雇はいずれも無効、という規定が労働基準法にある。これに加えて、2008年に労働契約法が改正され、それまでの判例法理が明文化された。すなわち、客観的に合理的な理由と社会通念上、相当性が認められない解雇は無効、とするものだ。

海老原:「日本の解雇規制は厳しいといわれるが、こと一般解雇に関する限り、上記で見たように厳しいとまでは言えない。判例を参照しても、解雇となった労働者の実際の行為と解雇という処分の均衡が取れているか、同じような案件で過去、解雇になった人が社内にいるか、といった『バランス』が一番問題となる。解雇にあたっては、法律そのものというよりは、社内における通常のマネジメントが問題になるのだ」

これに対してヨーロッパではどうか。

たとえば、スウェーデンでは、解雇通知期間について、「勤続2年未満は1ヶ月、2年以上4年未満は2ヶ月、4年以上6年未満は3ヶ月、6年以上8年未満は4ヶ月、8年以上10年未満は5ヶ月、10年以上は6ヶ月」、不当解雇が判明した際の損害賠償として、「勤続5年未満は6ヶ月分、5年以上10年未満は24ヶ月分、10年以上は32ヶ月分」といった超具体的かつ精緻な法規制がある。

海老原:「これよりさらに解雇規制は南欧のほうが厳しいくらいだ。日本にはこういった実態をろくに調べもせず、スウェーデンは解雇自由だと公言する識者がいるから困ってしまう」

ただ、以上は主に労働者に非のある解雇の話。経営悪化に伴う整理解雇になると、話が少々変わってくる。

日本には判例として定まった「整理解雇の四要件」がある。具体的内容は下表に譲るが、この四要件を満たさなければ整理解雇が認められないというのはかなり厳しい基準といえるだろう(昨今、四要件は必須ではないという判例も出てきてはいるが)。

図表2:日本とヨーロッパ 整理解雇基準の比較

最後に残るのが「総合職」という問題

海老原:「これに対して、ヨーロッパでは業績の下降が予測される場合、新技術の導入が決まった場合、合理化が行われる場合、といった広範な理由で整理解雇が認められている。日本でも有期雇用の規制を強化する一方、こうした形で整理解雇要件を緩めるべきではないか」

彼我の間で、なぜ整理解雇の難易度に違いが生じているのだろうか。

海老原いわく、一番大きな要素は職務形態である。すなわち、ヨーロッパでは、あらかじめ職務を限定しての採用であるのに対して、日本は職務不定の総合職採用である。結果、ヨーロッパでは新技術の台頭などにより当該職務が消滅したら、雇用も終了するのが理にかなっている。一方の日本ではその人の職務がなくなったら、別の仕事を用意しなければならない。仕事がなくなってもなかなか解雇できない、かくして、当然、整理解雇基準が厳しくなるというわけだ。

海老原:「日本の総合職と整理解雇四要件は密接に関連している。つまり、整理解雇基準を緩めようとするならば、総合職という仕組みを一部解体し、ヨーロッパのような職務限定正社員を作らなければならない。今回の法改正によって生まれる有期5年上限超えの正社員がその先駆けになるのではないか。一方、それだけでは改革は終わらない。解雇の手続きや、不当解雇の際の罰則や保障、解雇順位の決め方など、日本では曖昧に運用されている部分のきちんとしたルール化、明確化も必要となってくるだろう」

法改正から5年が経ち、5年上限越え正社員が誕生するのが2013年4月である。政府が勤務地や職務、労働時間を限定した「限定正社員制度」の導入を検討しているが、彼らこそ、その限定正社員に他ならない。日本型雇用が、確かに大きく変わりそうな気配である。

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