メディカルの長引く若手採用が、各業界の採用熱に点火

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株・為替・経済指標…すべてが芳しくない中で、採用活動が好調という二律背反な状況に対して、ミクロの世界から解説を試みました。

今回も、HRmics編集長の海老原がレポートします。答えは、意外にも「メディカル業界の求人活況」にあり―。※2010/08/26の記事です。

「実態経済は良好」ではもはや説明不良

メディカルの長引く若手採用が、各業界の採用熱に点火

残暑の厳しき折(執筆時点は8月下旬)、どうも違和感ふんぷんの毎日を過ごしている。

為替で円の独歩高が収まる気配を見せず、そのあおりで日経平均は年初来安値圏で底這い状態。おまけに、GDP速報値は、市場予測を大幅に下回る前期比0.1%増という数字。

景気の踊り場(もしくは腰折れ?)が強く意識される中、本来なら景気に超敏感に反応する人材紹介の実績が、一向にダウントレンドに入らず、むしろ、上昇の勢いを増している状態。

4~6月のリクルートエージェントを通した採用数を見てみると、各月とも前年比で2割近い伸びを見せたが、7月にはなんと3割増に迫る数字を示し、8月月中数字で見ても、面接設定数など、やはり昨年比3割増といった数字を残している。

マクロ経済と人材紹介のこの乖離理由は何なのだろうか?

まず考えられるのは、実態経済は不安視されるほど悪くはなく、企業はまだ余裕を持っている、ということ。

7月既報のとおり、欧米中の一時的景気不安要素が重なった4~6月期は踊り場となるだろうが、実態経済はけっこう堅調で、だからここを過ぎれば景気は今しばらく巡航速度を保つ、という予測。こちらは、4~6月期の日米欧の企業決算が絶好調で終わったことからも、予想通りの展開だと思っている。

ただ、8月の円高や9月末のエコカー買い替え、12月末の家電・住宅エコポイント終了を視野に入れれば、普通ならそろそろ「店じまい」を意識する時期だろう。つまり、「今現在の実態経済がよいから」という理由だけでは、中途採用が好調なことを説明しきれない。

この答えは、もっとミクロな採用戦線の状況にあるのではないか?

たとえば、その一端は、メディカル業界の採用好調と関係しているのではないか、と感じていたりもする。

一向に収まらないメディカルの若手ニーズが震源

もうこの連載で何度も取り上げたメディカル業界の中途採用だが、こちらは大まかにいうと、こんな季節トレンドがあるといえる。

  • ・外資系企業が多いため、1月が予算の始まりとなる企業が多い。
  • ・成果が問われる外資企業のため、採用計画達成を強く意識する風土がある。そこで、予算年度に入った1月からすぐに求人が活発になる。
  • ・実際に、求人が広報されて求職者に認知され、応募→内定→採用となるには、3~4ヶ月かかるため、採用のピークは、5~7月になり、どんなに遅くても秋風が吹くころには計画数を充足して、そこでパタリと採用がストップする。
  • ・気温の低下とともに、メディカル業界の採用にも「冬」が訪れる。

毎年、このサイクルを繰り返しているのだが、新薬の上市タイミングなどの「業界内事情」や、他業界の採用事情などがこれに抑揚をつけ、年度ごとの採用トレンドが形成される。

ちなみに、メディカル業界の場合、業界経験者のベテランMR(医薬品営業)については、常時、新薬開発をストップした企業から新薬を上市する企業へと動く流れがあり、この部分では季節変動は少ない。前述した春~夏の採用盛り上がりは、こうした経験者ではなく、未経験若手の大量採用によるところが大きい。

この「未経験若手の大量採用」について、今年はこんな予測を立てていた。

  • ・不況回復初期のため、他業界ではそれほど採用が盛り上がらない。
  • ・唯一競合となりうるのは、外資生保のフルコミッション型営業の分野だが、ここは、好況期に応募者が減るため、昨年の不況どん底期に一足早く大量採用を実施していた。つまり、今年はかなり充足した状況にある。
  • ・とすると、「若手×未経験採用」領域においては、今年の前半は、メディカル業界が一人勝ちの様相を呈し、そのため、案外早く充足となると考えられる。

ところが、この予想が大外れしているのだ。

つまり、お盆を過ぎた今でもメディカル業界の採用意欲が一向に減じていない。それも、MRだけではなく、医療機器営業や医療用電子機器の設計など裾野が広がりつつある。この結果、医療業界内での採用競合だけではなく、国内営業を募集している他業界や、電気電子メーカーなどとの人材の採りあいにも火が点き始めた。こうした連鎖で若手人材の逼迫感がかもし出され、それが紹介実績を上げている、と見て取れる。

リストラ、シフト需要、ビジネスモデルの変更…他業界にも通じる理由

では、なぜ本来「一人勝ちで早々に充足するはず」だったメディカル業界の若手採用が一向に収まらないのか。一番の焦点はこの部分になるだろう。

理由は大きく4つに分けられる。

まず、業界内の当然の動きなのだが、2010年に売り上げの大きな医薬品が多数、特許切れするといういわゆる「2010年問題」が叫ばれていた。この2010年問題対策として、新薬研究がここ数年活発化し、2010年後半からそうした新薬が上市され始める。そこで、新薬拡販のための人員強化が必須となる、という事情があった。オンコロジー(癌)や通風など、根治の難しい領域で、注目される新薬が次々と発売されていく。

2つ目。こちらは、リーマンショック後のリストラの反動。通常よりも欠員が多くなっている。

3つ目。俗に「シフト需要」と呼ばれる採用ニーズなのだが、リストラや採用抑制により既存戦力が少なくなると、企業は社内のベテラン勢を、戦略領域にシフトさせることになる。その代償として、既存領域や採算性の低い領域は、人材が薄くなっていく。業績悪化時は、こうしたシフトにより選択と集中で「少ない売上でも利益を確保」する戦略をとるのだが、多少景気が回復すると、今度は、手薄な領域に人を募集する。こうした「既存・低収益」領域は、それほどスキルが高くないスタッフでも対応が可能。そこで、若手人材が採用されることになる。メディカル業界の企業の場合、例えば、大型新薬=「ベテラン社員」、販売網が整っている既存薬=「新規採用した若手社員」、特許切れジェネリック=「CSO(営業業務のアウトソーシング)」にそれぞれ任せるというシフト戦略がある。

このようなシフト需要の事例は、メディカル業界の企業だけでなく、多くの産業で発生している。たとえば、海外(とりわけ中国)展開にベテランをシフトし、空いた国内営業については若手新規採用、といった形をとるメーカー、サービス企業は多く、ここで、採用のバッティングが起きている。

4つ目は、メディカル業界の商売の仕方が変わって来た、ということ。今までは、新薬開発が命であり、そのため、研究と販売といういずれも人海戦術がビジネスの基本だった。ところが、最近は、インフラ総獲りによる「根こそぎ営業」が生まれつつある。たとえば、大手医療機器メーカーは、地方自治体に「電子カルテ網」の構築を打診し、このインフラを提供する代わりに、自社製品を、県内の各病院に納入する、といったビジネス。同様に、ジェネリック薬品の台頭に伴い、従来は医者に営業をかけていたものを、今後は、薬剤師に営業をかける(ジェネリック薬の処方箋には、「ジェネリックOK」とのみ記載されているため、どの薬を選ぶかは、薬局の薬剤師に任される)ことが必要になりだした。そこで、薬局向け医薬品の販売問屋をM&Aし、そこの販売網を通して薬局の薬剤師にセールスをかけるといった手法。こうした新形態により、自治体営業や薬局営業といった新たなスタッフのニーズが生まれる、ということなのだ。


メディカル業界の採用活況が予想外に長引いたため、若手採用の枯渇感が高まった。その中身も、シフト需要という全業界共通の構造で生まれているもののため、当然、他業界との競合も増えた。その結果、若手逼迫感が高まり、転職紹介実績は好調に推移しつつある。まとめると、こんな感じになるだろう。

とはいえ、例年より長引くメディカル業界の採用活況も、年末までには収束する時が来るだろう。同時に、各業界のシフト需要もしぼみ始めたとき、求人・採用状況はどうなるのか。

その答えこそ、今後の景気・為替・株の動きにかかっているのだろう。

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