今回は、同誌編集長、海老原嗣生による「人事制度設計上のポイント再整理」の後編をお送りします。
日米の評価制度の違いから、日本におけるコンピテンシー、成果主義導入の背景について語った前回、前々回に引き続き、コンピテンシー研究の変遷を振り返り、新しい人事評価制度の提案を行います。※2009/05/21の記事です。
今回は、コンピテンシー・成果主義をもとにした給与制度設計のベストプラクティスについて、アメリカで海老原が見た事例をもとに、解説をしていきたい。
それでは、下方硬直も少なく、昇格・降格もショック無く行え、本人の能力・実力相応の処遇がなされる人事制度とはどのようなものになるだろうか。
まず、従来は図表①のような能力等級型の給与体系を採る企業が大半だった。査定はあるが、これは賞与にしか反映されず、月給部分は業績が良かろうが悪かろうが固定となる。給与の削減は降格しかないが、降格はショックが大きくて出来ないため、事実上、右肩上がりの給与とならざるを得ない。(図表①参照)
これに対し、図表②のように、成果評価を導入すると、半期の査定に応じて、月給もある程度上下動するようになり、働きに応じた給与に近くはなる。しかし、これでもまだまだ基本給部分が大きなシェアを占める為、給与はなかなか下がる事は無い。
ここに、職務給を入れて、月給とは「能力給」「職務給」「成果給」のトリプルブリッドにしたのが図表③となる。ここでは、職務任用に工夫を凝らす事が必要だ。通常の能力資格制だと、能力等級と職務は1:1対応で、例えば、等級2の人が課長、等と決められている。これに対して、幅任用を用い、等級2の人は、「統括課長・課長・課長補佐」の3ランクの職務に任用が可能、とするのだ(図表④参照)。この制度を導入すれば、能力等級はそのままに、一格上の統括課長にも一格下の課長補佐にも任用が出来る。つまり、「抜擢」も「降格」も1ランクまでなら、能力等級を変えずに行う事が出来る。
実際には、職務名を「課長・課長補佐」等とすればやはり降格感が表れてしまうが、例えば、「売上の大きい飯田橋支店の課長は職務ランク4、売上の普通な神保町支店はランク3、売上の小さな神楽坂支店はランク2」というような職務設計にしておけば、あくまでも職務名称は課長なので、降格・抜擢の心理的負荷が少なくてすむ。
図表③型のトリプルブリッドと図表④の幅任用が合わさると、基本給自体は変わらなくても、格上・格下任用により、職務給部分が大幅に上下動可能となる。
海老原「ここで忘れてはいけないポイントが有ります。成果の評価基準は、各人の能力等級を基本とする事です。だから、降格任用があったとしても、求められる成果は今まで通り。つまり、格下業務を標準的にこなしていると、成果給は下がる事になります。」
つまり、能力等級は維持したまま、格下職務に任用された場合、①まず職務給が下がり②続いて成果給が下がる事になり、給与は大幅に下がる。そう、硬直性は問題とならないくらいに小さくなる。
海老原「一度培った能力は失せる事が無い。だから、資格として、それを保証する。これが職能資格の基本です。人間心理的にこの考え方はとても心地良い。保有した資格をはく奪することは、よほどの規律違反でもない限り不可能。そこで、下方硬直が起きる。ただ、高位資格を持った人間にも慢心や加齢退行も起きます。ならば、資格はそのままに、任用や評価に工夫を凝らし、働き相応の報酬に近づける工夫が必要です。それが、このトリプルブリッド型の人事制度となるわけです。」
トリプルブリッド型にして、上下に職務任用幅を広げる事は、容易に出来る。しかし、成果給の部分は、最終的に「何を持って成果とするか」が問題となる。運・不運による成果差、長期的成果をどう算定するのか、等がその代表例だ。こうした疑問を払拭するために、アメリカではメルクマールという概念が用いられている。この概念が日本であまり浸透していない事が、結局は「成果主義の失敗」につながっているのではないか、というのが海老原の考えだ。
海老原「要は、数字に落とせない目標でかまわないのです。そして、最終成果物ではなく、随時発生する小さな成果。能力を順当に発揮すれば、随時生み出されるような象徴的な『小さな成果』をメルクマールと呼び、それを確認する事によって、ちゃんと能力が発揮されている、とするのが、アメリカで広がっている成果主義なんですね。」
詳しくは図表⑥を見てほしい。
ここで、海老原はもう一つ注意をしている。
海老原「メルクマールと似た概念で、マイルストーンという言葉がありますが、これを混同しないでほしいのです。マイルストーンは、大きな最終目標に到達するための中間成果を指します。そうした大きな目標に到達しなくても、能力発揮を裏付けするような随時発生する成果をメルクマールと呼びます(図表⑦参照)」
要は、成果主義における成果給といっても、結局はちゃんと能力が発揮されているかどうか、を確かめているだけの事。最終的には能力主義の延長に他ならないという事だ。今までは「保有さえすれば使っていない能力にもお金を払う」能力主義だった。それを、「保有しているだけでは、基本給にしかそれが反映されず、発揮される事が合わさって、相応の給与となる能力主義」に変わったという事なのだ。
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