新たな働き方・働かせ方

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「朝活」がブームです。

言わずと知れた、始業前の朝の時間を勉強や趣味、軽いスポーツに費やし、1日を有効に使おうという趣旨の活動のことです。これまでその中身といえば、読書や情報交換、あるいはスポーツにしてもジョギングや散歩といった「静かなもの」「控え目なもの」「本番に向けた“慣らし運転”のようなもの」が多かったように思います。ところがここに来て、朝の時間を昼間と同じく目一杯活用しようという動きが個人からも企業からも生まれています。9時から5時の枠にとらわれず、朝時間の本格活用を人事も真剣に考えるべきではないでしょうか。HRmics副編集長の荻野がレポートします。※2013/11/14の記事です。

平日早朝に目一杯遊ぶ、という常識破り

「エクストリーム出社」というものをご存知だろうか。観光やスポーツ、グルメなど、平日の夜か休日に楽しむような活動を朝の出社前に行うこと。その推進を図る日本エクストリーム出社協会という団体までできているのだ。

同協会は以下のように定義する。

エクストリーム出社とは、早朝から観光、海水浴、登山などのアクティビティをこなしたのち、定刻までに出社をするエクストリームスポーツである。このスポーツのプレイヤーは、一般的な通勤者と区別して「出社ニスト」と呼ばれる。

ちょっと勢いに押された文章だが、要約すれば、出社前に一遊びして、それでも定刻通り、きちんと会社に行く、とでもなるか。その様を、まるでトライアスロンや異種混合競技のようにスポーツというのだろう。

朝の重圧から逃れる窮余の一策から

都内のテレビ番組制作会社に勤務する天谷窓大氏はエクストリーム出社の発案者のひとりで、同協会の共同代表を務める。

そもそもエクストリーム出社はどうやって生まれたのか。

天谷氏が前職のIT企業に勤務していた時、仕事の重圧から、出社するのが何とも気の重い時期があった。ある朝、ふと会社に行くのとは反対方向の下り電車に乗ってしまった。会社をさぼるという気持ちにはなれず、とある駅に降り立った。朝食がまだだったので近くの喫茶店でモーニングを食べ、今度は上り電車に乗って通常通り出社した。天谷氏は話す。「驚きでした。通常とは違ったルート、違った行動を取った後に出社することが朝の重圧をこんなにも軽減させてくれるとは。その日は朝からなぜか仕事もはかどったのです」

その効能に目覚めた天谷氏は早起きして出社前に築地市場に立ち寄って朝食をとったり、羽田空港のレストランで旅気分を味わったりした。知人にそれを話したところ、「面白い!」と意気投合、「エクストリーム出社」という命名した上で、協会を立ち上げた。今年8月のことである。

まさにエクストリーム、驚きの実例

9月上旬には協会が主導となり、「全国一斉エクストリーム出社大会」が開催され、全国から53のエントリーが寄せられた。

その“エクストリームさ”には思わず人をのけぞらせるものがある。

たとえば、山形市に住む男性は自宅から40キロ離れた場所で、カヌーを楽しみ、温泉に入ってから出社した。

熊本県の男性は、自宅から自転車で23キロの場所にある、標高差600メートルという日本一の石段を徒歩で往復、そこから30キロ離れた会社まで自転車で出勤。

個人ではなく、団体での応募も可能で、男女7名、朝5時半から合コンする“つわもの”も現れた。ホテルの喫茶店に集まり、カフェオレで乾杯した後、歓談。2次会はボーリング、3次会はカラオケという徹底ぶり。

会社単位で参加したグループもあった。あるIT企業が「エンジニアは夜型が多い」「エンジニアは身体を動かすのが嫌いで不健康」という定説を覆すため、社のセミナールームにマットを敷きつめ、インストラクターを呼んで、有志10名が朝6時半からヨガを行った。

「時間の達人」になるという効能も

エクストリーム出社には厳然たるルールがある。出社してその日の仕事をきちんとこなすこと。遅刻は絶対NGなのだ。「実際にやるとわかりますが、出社前の時間を目一杯楽しみつつ、始業時間には這ってでも間に合わせるという緊張感が常につきまといます」と天谷氏。その結果、仕事にもいい影響が出ているという。「まずは朝からバリバリ仕事ができること。脳も身体も活性化していますから、エクストリーム出社をした日は朝から声が大きくなります(笑)。もうひとつは時間の使い方がうまくなったことです。エクストリーム出社は始業時間というデッドラインとの勝負ですが、おかげで、色々な場面でデッドラインを考える癖がつきました。無駄な残業もしなくなりました」

仕事中、眠くなったら本末転倒だが、エクストリーム出社、一度経験してみる価値はありそうだ。

割増アップの朝残業で朝食も支給、という逆転の発想

この10月から、エクストリーム出社の精神をまるで活かしたかのように、社員のやる気をアップし、業務を効率化させる取り組みを制度にした企業がある。伊藤忠商事だ。

といっても早朝に行うのはれっきとした仕事。夜の残業より朝の残業のほうが能率もよく、身体にもよいという理由で、午後8時以降の残業を原則禁止(午後10時以降、完全消灯)にするとともに、午前5時から9時の4時間の活用を奨励する。そのために、従来は25%増しだった残業割増率をその時間帯のみ50%にかさあげし、さらに無料の朝食(パン、ゆで卵、バナナ、飲み物のうち、どれでも3品選べる)まで用意した。しかも、これまで管理職には残業割増はつかなかったが、25%の割増を払うようにもした。単なる残業代カットの仕組みではないのだ。

この制度誕生のきっかけは同社の岡藤正広社長の鶴の一声だった。まずは2011年3月の震災直後のことである。岡藤氏は早朝から各方面への対応に追われ、9時半過ぎに社に戻ってくると、地下鉄の駅から会社まで、ぞろぞろ出社してくる沢山の自社の社員たちが目についた。お客様の多くが8時や9時から働いているのに何だ。これではビジネスにならない!岡藤氏の最初の鶴の一声で、20年続いていた全社一律のフレックスタイム制が廃止された。2012年10月のことである(育児・介護など事情のある社員のみ適用)。それによって、社員の勤務体制が朝型に変わった。97~98%の社員が朝9時前に出社するようになった。

ところが多残業体質というもう一つの宿痾はなかなか改善されなかった。夜が遅ければ、朝来るのがしんどくなる。朝9時出社が必須だとすると睡眠不足となり健康にも悪影響を及ぼしかねない・・・。コスト度外視で、何とか勤務体制を朝型にして残業自体を減らせないか。再び岡藤氏の鶴の一声が響いた。

それが今年7月初めのこと。早速、人事が頭を捻ってプランを作り、同月下旬には経営会議にかけられ了承される。組合との交渉を経て、10月1日より、まずは6ヶ月間のトライアルという位置づけでスタートとなった。

経営の本気度を社内も高評価

普通に考えると、新しい人事制度というものは発足まで最低でも半年から1年かかるものなのに、今回なぜこんなに早くスタートできたのか。同社の人事・総務部企画統轄室長、垣見俊之氏がこう明かす。「強力なトップダウンがあったからでしょう。それを後押しする意味で、制度の趣旨説明に力を入れました。東京、大阪あわせ、社員向け説明会を10回、それとは別に組織長向けにも開きました。もうひとつの要因は残業割増率のアップと朝食支給を制度に織り込み、経営側の本気を見せたこと。単なる残業代のカットではなく、働き方の意識改革なのだということを、組織長、社員、そして組合にもわかってもらえたことが大きかった」

実はこの制度はまだテスト段階にある。来年3月までまずは半年間続ける。その時点で結果を検証し、正式な制度として発足させるかを決める。垣見氏によれば、会社側はぜひとも本スタートさせたい、と考えている。というのも開始1ヶ月で目に見える成果が出てきているからだ。

以下は東京本社と大阪本社をあわせた10月の概算数字だが、今までは全体の3割ほどいた夜8時以降の残業者が5~6%に減った。1割いた夜10時以降の残業者がゼロになった。逆に朝8時前に出勤してくる社員が今までは1日平均300名ほどいたが、700名に増えた。休日出勤者は特に変動がない。あとは残業代だが、これまで割増対象外だった管理職にも早朝割増をつけたため、総額がどうなるかは集計してみないとわからない。いずれにしても10月分の正確な集計は今月半ば以降となる。

同じ仕事が夜の半分の時間で達成可能

垣見氏によれば、制度導入で社員の意識、そして働き方が確実に変わった。「これまでは夜3時間残業して終わらせていた仕事が朝の1時間半で終わるようになったという声をよく聞きます。今までは、夕方6時半といえば気だるいような空気が流れていましたが、何しろ残業は夜8時までなので、今はその時間が一番、職場が殺気立っています」

商社といえば海外との仕事がつきものである。時差があるので、深夜残業の禁止は酷ではないのだろうか。「最初は確かに反対の声もあがりましたが、今では仕事のやり方を変えて対応しています。ヨーロッパの場合、日本との時差は7~8時間です。今までは夜8時以降も各方面に連絡を取る、というやり方でしたが、それを3時間前倒しして、夕方5時くらいに連絡を始め、8時には終わらせるようになりました。それ以降、何かが発生すれば現地の駐在員に対応してもらっています」。仕事のやり方は変えようと思えばいくらでも変えられるのだ。

この朝型勤務制度、各方面から注目され、情報提供の申し出が相次いでいるという。なかには、残業割増なしで朝型シフトだけを促す制度をつくった企業もあるようだが、「それではうまくいかない」と垣見氏。「朝勤務は夜と比べ、活用できる時間が短くなります。つまり朝型シフトを促すだけでは体のいい残業代カット策としか見られかねないのです。われわれも長年、残業問題に頭を悩ませてきましたが、これは究極の解決策だと思っています。これがうまく行かなかったら、残業の縮減という問題はお手上げになる。そんな覚悟で臨んでいます」

1日24時間、いつ働いてもらうか

エクストリーム出社、そして朝残業制度に共通しているのは、オンタイムとオフタイムの中間的存在だった始業前の朝時間を完全にオンタイムとして捉えたことだ。

つくづく思うのはデッドエンド(締め切り)を設定することの重要性である。エクストリーム出社のデッドエンドは朝の始業時間、朝残業の場合は夜8時、そして朝9時という2段階のデッドエンドがある。人間、締め切りがあるから頑張れる。頑張れば時間内に、仕事も遊びも完了できるのだ。

1日24時間は万人に平等に与えられている。どの時間帯で働いて、どう成果を出してもらうか。働いた時間ではなく、成果の中身がますます問われる時代だからこそ、人事は真剣に考えてみるべきかもしれない。

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