就活後ろ倒しの是非を考える

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学生、企業、大学、難しい三者の利害調整。

2013年大学卒業予定者の採用活動時期が、前年より後ろ倒しされています。きっかけは昨年3月に日本経団連が発表した新たな(新規学卒者の採用・選考に関する)倫理憲章です。それまでは、「ネットや説明会を通じた広報活動の開始=大学3年の10月1日以降、面接等の選考活動開始=大学4年の4月1日以降」という段取りでしたが、選考開始時期は従来と変わらないまま、広報活動の開始時期が12月1日まで、2ヶ月間、後ろ倒しになりました。「長すぎる就職活動(以下、就活)が学業を阻害している」という大学側の批判が背景にあります。米倉弘昌・日本経団連会長は、2014年卒業者にも同じ枠組みを適用すると早くも言明しましたが、果たしてうまくいくでしょうか。HRmics副編集長の荻野が、就活に詳しい2人の専門家に緊急取材しました。※2012/01/19の記事です。

就活後ろ倒しのバカヤロー

専門家とは、2008年に発売されたベストセラー、『就活のバカヤロー』(光文社新書)の共著者の2人である。1人はライター・大学ジャーナリストの石渡嶺司氏、もう1人は作家・人事ジャーナリストの常見陽平氏である(同書ではペンネームの大沢仁を使用)。石渡氏は大学事情に詳しいジャーナリストであり、片や常見氏は企業人事の経験も豊富だ。この問題を語る論客としてはうってつけといえるだろう。

ここでは、①(後ろ倒しによって)学業阻害が改善されたか、②当事者である学生たちの受け止め方、③企業にとってのメリット・デメリット、④全体評価と、あるべき論、という4つのポイントに絞り、両名の見解を紹介していきたい。

「学業阻害」は果たして事実なのか

〈学生の本分である学業に専念する十分な時間を確保するため、採用選考活動の早期開始は自粛する〉―――日本経団連の倫理憲章にある言葉である。広報活動の2ヶ月後ろ倒しで、果たして十分な時間は確保できたのか。

 常見氏の立場は明解である。「学業阻害論は感情論ではないか」という。「就職ナビサイトをチェックし、説明会にいくつか出かけることがなぜ学業阻害になるのか、よく分かりません。逆に、広報活動開始前であっても、就活のことが頭から離れず何も手につかないという学生がいたら、立派な学業阻害になっています。阻害を本気で防ぐなら、大学入学と同時に就活を解禁する一方、夏休み・冬休み時にだけ活動を限る、就活は卒業後にするくらい徹底しないと意味がありません。規制をかけること自体、国としてどうなのかとも思いますが」。

常見氏はむしろ、今回の後ろ倒しが学業阻害ならぬ「大学行事阻害」になっていることを指摘する。「それまでは10、11月に実施していた大学内での説明会が12月、1月にずれ込むことになりました。ところが12月は学期末試験があり、1月には入試があります。この時期は大学にとって非常に多忙な時期なのです。学生だって忙しい。最も学業が阻害される時期でもあります。教授陣は後ろ倒しに賛成でも、大学職員は苦い顔をしている。そんなところが本音ではないでしょうか」。

一方の石渡氏は「従来の制度は学業阻害の面が確かにあったので、その改善という意味では評価できる」という立場である。「以前は10月から、平日に会社説明会を開催する企業が結構あり、明らかに学業を阻害していたと思います。今回、夏休み中の実施が多かった1日インターンシップも禁止の対象になりましたが(筆者注:インターンシップは5日間以上かつ説明会ではなく実務型に限る、とされた)、これもよかったと私は思っています。というのも、インターンシップといっても名ばかりで、会社説明会同然のものが多かったからです。3年の夏休みはゼミ活動にとって重要な時期なのですが、インターンシップの準備や実際の参加によって、ゼミ活動に支障が出た学生も多かったようですから」。

期間短縮は大半の学生にとってデメリット

当の学生たちの反応はどうなのか。

「学生は大いに戸惑っていました」と石渡氏。氏が講師をつとめた就活学生向けのセミナーでは、「12月まで何をしたらいいのでしょうか」という質問が殺到したという。「新聞や雑誌、有価証券報告書を読んだりして業界研究にいそしんでは、くらいのアドバイスしかできませんでした」。本来、個々の企業研究あっての業界研究である。走りたいのに走れない、宙ぶらりんの状態だったのだろう。

常見氏は12月解禁以降の学生の動きに着目する。「従来以上に、大企業偏重の動きが顕著でした。多くの大企業が前年の数倍ものプレエントリーを記録した中で、前年より数を減らした中堅・中小企業が多かったそうです。前年までは、10月のサイトオープンから4月の選考開始まで、半年の期間がありましたが、それが4ヶ月に減ったわけです。いろいろな企業を検討したい、という気持ちが薄れ、大手や有名どころに早く決めたい。そんな学生たちの焦りが垣間見えました」。

「期間短縮は学生にとってむしろデメリット」という点では石渡氏も同じ意見だ。

「どんな学生も、最初は大手、有名企業を志望するが、受験し夢破れるに従って、現実的な線に落ち着いていく。そのプロセスが必須なのです。広報活動を6ヶ月から4ヶ月に短縮しただけでは問題は解決しない。むしろ、就職観が未熟なまま、実際の活動に入ってしまうことで、大手幻想をいつまでも引きずってしまい、結果的に、活動が長期化してしまう学生も増えるのではないでしょうか」。

頭を抱えた中堅・中小企業

裏返してみると、この問題は中堅・中小企業や、たとえ大手でも、学生の関心が低いBtoB(対法人向け)企業にとって、広報期間の短縮という意味で深刻な問題となる。

「学生の関心はまず大手、しかもBtoC(対消費者向け)企業が中心です。『広報期間が短くなってしまったので、学生が興味をもってくれる時期がいつになるやら』と、疑心暗鬼にかられている中堅・中小企業が結構ありました」。(常見氏)

「説明会が12月まで開けない、学生への告知が十分にできるか心配だ、と頭を抱えている人事がいました」。(石渡氏)

一方で、常見氏はある大手企業の人事から「後ろ倒し賛成」という意見も聞かれた、と明かす。「その間、前年の採用がうまく行ったのか、業務の振り返りが十分にできる、というのです」。ナビサイトの立ち上げからインターンシップ、会社説明会の実施、応募者の選定、内定者研修の実施と、採用人事はまさに1年中、追いまくられる。2ヶ月間、ひと息つけるのは企業にとってこそ朗報なのかもしれない。

根本的な解決策はあるか

ここまでをまとめると、両名とも今回の後ろ倒しに関しては厳しい目で見ている点は共通している。では、就活開始時期はそもそもどのように設定すべきか。

常見氏は「時期だけを論じても、学業阻害や就活の長期化という問題は解決しない」という。なぜなら、こんな背景があるからだ。大手企業は一部の有名大学の学生しか採用ターゲットにしていないが、ナビサイトを使い、建前上はすべての学生にPRすることもあって、たくさんの応募が大手企業に殺到する。が、もともと採用数は限られているから、採用が決定するのはほんの一握りだ。夢破れた学生の意識が、そこから中堅・中小企業に向けばいいが、すぐには切り替わらない。それが就活の長期化に結びつく。多くの学生が行きたい企業、そうした企業が採用したい学生、両者の間の溝=「就活断層」を埋めない限り、問題は解決しない、と常見氏は力説する。

「バブルの再来でもない限り、有名大学の学生か、よほど優秀な学生を除くと、就活で苦労する学生の割合が就職志望学生全体の半分を下ることはしばらくないでしょう。彼らを救うには、政府が卒業時に強制的に職を割り当てるくらいの策を講じなければ、と私は思っています。それは極端な意見ですが、すべての日本企業が経団連に加盟しているわけでもありませんし、外資企業も増えています。1年次から応募可能を決めたファーストリテイリング、逆に既卒経験者も含めて選考する方針を打ち出したソニーのように、広報活動も含め、自社なりのスケジュールで採用活動を行う企業が自然に増える結果、倫理憲章は有名無実化していくのではないでしょうか」。

一方の石渡氏は、「2ヶ月後ろ倒しはやはりやり過ぎで、これまでと同じく10月1日から広報活動の開始を認めるが、説明会の開催は土日限定で、くらいで止めておけばよかった」と、今回の“試み”を総括した上で、こう提案する。「究極的な解決策として、3年の春休み、4年のゴールデンウィーク、同夏休み、それ以降、の計4回に選考活動を分けたらどうでしょう。各企業に時期を選んでもらうのです。それに応じて広報時期も4回に分けるのです。大手企業の採用が後ろになると、他の内定をもらった学生が最後に寝返ってしまう可能性があるので、経団連が音頭を取り、大手にはなるべく3年の春休みに選考を行ってもらう、のはどうでしょう」。

一筋縄では解決しない問題

この問題は、この半世紀、先人たちが同じように頭を悩ませてきた。図表は、就職協定および倫理憲章の歴史である。一筋縄では解決しない難問だとわかる。

どこからか、「この問題ひとつとっても、新卒一括採用は弊害が多い。欧米のように、就職活動は卒業後にやればいい」という声が聞こえてきそうだ。果たして本当にそうか。OECD統計で20歳から24歳の若年失業率を見ると、イギリス14.6%、フランス20.9%、アメリカ15.5%となっており、日本の9.3%と比べてかなり高い(いずれも2010年の数字)。日本の数字の低さは新卒一括採用が奏効しているからではないだろうか。

学生は長い職業人生にとって極めて重要な鍵となる最初の職を得るための活動に、一方の企業は将来を担ってくれる優秀な人材を得るための活動に、ある時期、力を尽くす。この舞台が卒業後に移され、既卒分散採用となったら、学生ではなくなった若者にとって、極めて酷なことではないだろうか。新卒一括採用だったら、ライバルは目に見えていたが、既卒分散採用になると、ライバルはどこから現れるか分からない。しかも、新卒一括採用にはスケジュールがあるが、既卒分散採用にはそれがない。駄目な若者はいつまでも駄目だ。学生だったら、「就職がうまく行きません」と大学を頼れるが、卒業してしまったら難しくなる(大学側も頼られたくないだろう)。「大学は出たけれど」という若者があふれる社会は健全とはいえない。

そう考えると、就活時期を巡る試行錯誤は、新卒一括採用という仕組みを維持するために必要なコスト、と考えるべきだ。

ただ、ある意味、問題ははっきりしている。三者が次のように意識と行動を変えていけば、就活の早期化、長期化は今より改善されるだろう。

  • ・学生⇒大手・有名企業ばかりではなく早くから優良な中堅・中小企業にも目を向ける
  • ・大学⇒3年次の後半以降、学生を夢中にさせ成長させるカリキュラムを増やし、「あそこの学生は後半、化けるから、就活の早期化は無意味だ」と企業に思わせる
  • ・企業⇒(特に文系の場合)大学受験突破力だけではなく、選考時に「大学で何を学んだか」にもっと意を払う

とはいうものの、三者それぞれ、「わかっているけど、変えられない」というのが正直なところなのかもしれない。

就職協定および倫理憲章の歴史

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