雇用指標・街角景気など、景気動向を示す指標が悪化傾向を示し、為替は15年来の円高水準。ようやく経済が元気になりだしたところで、二番底懸念が次第に強まっています。ところが、企業業績や貿易統計は騒がれるほど悪化していない・・・さてこの状況をどう読むか。本当に経済はまた失速するのか?すっかり定番となった海老原嗣生(HRmics 編集長)による景気診断を、今回・次回と2回にわたってお送りします。※2010/10/28の記事です。
前回(7月)レポートにも増して、不可思議な景気の時期を迎えている。 3か月前の予想はどんなものだったか?
こんなところが概略となる。
今振り返ると、1~4については、自己採点で80点程度はつけられそうな内容だと自負している。ただ、5について最近少しずつ自信をなくして、考えを変え始めている。それも、「良い方に外れるのではないか」ととみに感じているのだ。
どうも、景気の上り調子が衰えそうにない。なぜそんな体感値を持つかというと、リクルートエージェントに寄せられる求人が増え続け、そのうえ、採用条件もやや緩和されつつあり、結果、転職成功者が増え続けているのだ。公的データで見ても、失業率や有効求人倍率は最悪期を脱しているが、ここ数カ月は目覚ましい回復基調にあるとは言えない。こうした公的機関の雇用データには、製造・建設などの領域で働く人のデータが色濃く反映され、そのため景気の善し悪しとは別に、産業の空洞化の再進展など、構造変革要因が重なっているからといえるだろう。
一方、エンジニアやホワイトカラーの求人が中心になる転職エージェントは、構造変革要因をあまり受けにくく、現時点での景況感がより増幅されて反映される。この数字がかなりいいのだ。具体的にデータで示すと、リクルートエージェントを通して7・8・9月に転職した人の数は、4・5・6月と比べて約18%増加した。前年比でみると数字はさらに高くなり、なんと、25%も伸びている。こうした元気の良い数字は、リーマンショックのはるか以前、2006年以来となる。
しかも、定量的なデータばかりではなく、取材で訪れる大手企業、とりわけ輸出産業の経営者からも、今までの不況の入口に聞いたセリフとは全く違ったニュアンスの言葉が発せられる。「円高で困った」という声は全体の2割程度。それよりも圧倒的に多いのが、「本格的な海外進出を考えている。それも、製造拠点ではなく、販売やマーケティングを行う拠点の新設だ」といった話。だから、求人活動もおのずから活発となる、という算段なのだ。
「円高で製造拠点を海外に移す」というなら納得行く話なのだが、なぜ、販売やマーケティングなのか。円高で日本製品が売れなくなったら、それこそ、販売やマーケなど不要だろう。どうして、こんなことが起きているのか?
答えを書く前に、もう少し不思議なデータを出しておこう。
4月からの猛烈なユーロ安円高。3月に1ユーロ135円程度だったものが8月には106円となり、20%以上の円高が進んだ。ドルは94円前後まで上がっていたものが、現在は80円台前半と、こちらも15%近い切り上げとなっている。頼みの綱の為替予約も、すでに半年もこんな状態が続いているために、もう効力は尽きて、今は大変な円高で貿易をせざるを得ない状況となっている。
それでも、輸出が大きく減少していないのだ。8月の実績値で見ると、今年前半の平均値よりもわずかに4%マイナスとなっただけであり、昨年の同月と比べれば15.8%の増加となっている。そう、高位安定状態なのだ。
さあ、そろそろ種明かしをすることにしよう。
答えは、アジアなのだ。
長らく、日本の貿易相手国シェアはアメリカ中心であり、これに欧州を加えると、全体の4割以上(5割近く!)が欧米諸国で占められていた。だから、ドル安・ユーロ安で輸出産業は一喜一憂していたのだ。
ところが、この状況がここ10余年で大きく変わってきた。現在は、アメリカは15%程度、ヨーロッパは全体でも10%、両方足して25%にしかならない。代わって貿易相手国シェアの一位はアジア(6割)となり(それも中国一国に頼るのではなく、中国2割、その他アジアが4割)、CISや中南米、アフリカ、オセアニアを含めた、非先進地域がなんと75%にも上っているのだ。
つまり、ユーロやドルの下落が即、輸出に響かない状況となっているのだ。
そして、非欧米の新興国も、円と同じように通貨高で悩んでいる。韓国ウォン、タイバーツ、マレーシアリンギット、インドルピー、ブラジルレアル、南アフリカランド、豪州ドル、NZドル、シンガポールドル・・・。すべて、ここ半年で10~30%高くなっている。ということで、こうした諸国との貿易ならば、円は過去とほぼ同じレートで取引されるため、大きなマイナスとはならない。そう、貿易総量の75%を占める地域では、ほとんど円高が起こっていないことが、日本の輸出総量が高位安定していることの理由だろう。
では、この「新興国への輸出拡大」はどこまで続くのか。
この展望を次回で明らかにしていきたい。
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