円高・ドル安・ユーロ安は75%の地域で「無関係」

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不思議な様相を醸している貿易・経済の動きを読み解きます。

雇用指標・街角景気など、景気動向を示す指標が悪化傾向を示し、為替は15年来の円高水準。ようやく経済が元気になりだしたところで、二番底懸念が次第に強まっています。ところが、企業業績や貿易統計は騒がれるほど悪化していない・・・さてこの状況をどう読むか。本当に経済はまた失速するのか?すっかり定番となった海老原嗣生(HRmics 編集長)による景気診断を、今回・次回と2回にわたってお送りします。※2010/10/28の記事です。

「やがて失速」予想を覆す勢い

前回(7月)レポートにも増して、不可思議な景気の時期を迎えている。 3か月前の予想はどんなものだったか?

  1. 1、欧州に始まる金融不安が引き金となって、景気が揺れている。
  2. 2、これに、アメリカの景気対策終了(住宅減税)・国税調査(5月)による一時的な雇用回復とその反動、中国の景気過熱対策(土地取引規制と元切り上げ)など、いくつかの要因が重なり、5月以降景気は踊り場を迎えた。
  3. 3、しかし、この踊り場は見かけほど深刻ではない。まず、欧州そしてそれに続いてアメリカの通貨が下がった。この結果、欧米企業の輸出は盛んになり、また資本収支・所得収支面でも為替安効果により、決算数字が底上げされる。その結果、7月発表の欧米企業の業績は、ポジティブ・サプライズを生む。
  4. 4、一方、「日本や中国、その他新興国は自国通貨高のあおりを食らって輸出ダウンとなる」と悲観する向きが多いが、これも当たらない。5月・6月数字を見る限り、中国も日本も輸出は絶好調。この理由は何か?これを、このときは「為替予約効果」と読んでいた。どの企業も3~4か月先まで決済通貨の為替予約をすませているため、4月のユーロショックから当分の間は、予約済みの「円安」レートで輸出が可能。つまり、7月~8月まで輸出産業も安泰となる。
  5. 5、ここまで景気が持つと、7月以降の企業の好決算や欧州金融機関のストレステスト結果も発表されるので、資金循環も潤滑となり、しばらく景気は上向きを維持できる。しかし、日米欧中の景気対策が終了し、とりわけ、欧州が超緊縮予算を敷く新年度以降、本格的に景気の低迷期がはじまるのではないか?

こんなところが概略となる。

今振り返ると、1~4については、自己採点で80点程度はつけられそうな内容だと自負している。ただ、5について最近少しずつ自信をなくして、考えを変え始めている。それも、「良い方に外れるのではないか」ととみに感じているのだ。

製造だけでなく、販売も企画も海外拠点増設の動き

どうも、景気の上り調子が衰えそうにない。なぜそんな体感値を持つかというと、リクルートエージェントに寄せられる求人が増え続け、そのうえ、採用条件もやや緩和されつつあり、結果、転職成功者が増え続けているのだ。公的データで見ても、失業率や有効求人倍率は最悪期を脱しているが、ここ数カ月は目覚ましい回復基調にあるとは言えない。こうした公的機関の雇用データには、製造・建設などの領域で働く人のデータが色濃く反映され、そのため景気の善し悪しとは別に、産業の空洞化の再進展など、構造変革要因が重なっているからといえるだろう。

一方、エンジニアやホワイトカラーの求人が中心になる転職エージェントは、構造変革要因をあまり受けにくく、現時点での景況感がより増幅されて反映される。この数字がかなりいいのだ。具体的にデータで示すと、リクルートエージェントを通して7・8・9月に転職した人の数は、4・5・6月と比べて約18%増加した。前年比でみると数字はさらに高くなり、なんと、25%も伸びている。こうした元気の良い数字は、リーマンショックのはるか以前、2006年以来となる。

しかも、定量的なデータばかりではなく、取材で訪れる大手企業、とりわけ輸出産業の経営者からも、今までの不況の入口に聞いたセリフとは全く違ったニュアンスの言葉が発せられる。「円高で困った」という声は全体の2割程度。それよりも圧倒的に多いのが、「本格的な海外進出を考えている。それも、製造拠点ではなく、販売やマーケティングを行う拠点の新設だ」といった話。だから、求人活動もおのずから活発となる、という算段なのだ。

「円高で製造拠点を海外に移す」というなら納得行く話なのだが、なぜ、販売やマーケティングなのか。円高で日本製品が売れなくなったら、それこそ、販売やマーケなど不要だろう。どうして、こんなことが起きているのか?

貿易も経済も伸びているのは、「中国を除いたアジア」

答えを書く前に、もう少し不思議なデータを出しておこう。

4月からの猛烈なユーロ安円高。3月に1ユーロ135円程度だったものが8月には106円となり、20%以上の円高が進んだ。ドルは94円前後まで上がっていたものが、現在は80円台前半と、こちらも15%近い切り上げとなっている。頼みの綱の為替予約も、すでに半年もこんな状態が続いているために、もう効力は尽きて、今は大変な円高で貿易をせざるを得ない状況となっている。

それでも、輸出が大きく減少していないのだ。8月の実績値で見ると、今年前半の平均値よりもわずかに4%マイナスとなっただけであり、昨年の同月と比べれば15.8%の増加となっている。そう、高位安定状態なのだ。

さあ、そろそろ種明かしをすることにしよう。

答えは、アジアなのだ。

長らく、日本の貿易相手国シェアはアメリカ中心であり、これに欧州を加えると、全体の4割以上(5割近く!)が欧米諸国で占められていた。だから、ドル安・ユーロ安で輸出産業は一喜一憂していたのだ。

ところが、この状況がここ10余年で大きく変わってきた。現在は、アメリカは15%程度、ヨーロッパは全体でも10%、両方足して25%にしかならない。代わって貿易相手国シェアの一位はアジア(6割)となり(それも中国一国に頼るのではなく、中国2割、その他アジアが4割)、CISや中南米、アフリカ、オセアニアを含めた、非先進地域がなんと75%にも上っているのだ。

つまり、ユーロやドルの下落が即、輸出に響かない状況となっているのだ。

そして、非欧米の新興国も、円と同じように通貨高で悩んでいる。韓国ウォン、タイバーツ、マレーシアリンギット、インドルピー、ブラジルレアル、南アフリカランド、豪州ドル、NZドル、シンガポールドル・・・。すべて、ここ半年で10~30%高くなっている。ということで、こうした諸国との貿易ならば、円は過去とほぼ同じレートで取引されるため、大きなマイナスとはならない。そう、貿易総量の75%を占める地域では、ほとんど円高が起こっていないことが、日本の輸出総量が高位安定していることの理由だろう。

では、この「新興国への輸出拡大」はどこまで続くのか。
この展望を次回で明らかにしていきたい。

貿易収支の推移の図

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