採用や教育など人事関連の実務に追われて忙しい毎日の皆さまに、この連載を通して広くビジネス全体を知っていただく機会をご提供していきます。今回はハイテク産業です。HRmics編集長海老原がレポートします。※2009/10/22の記事です。
4~6月のGDPが前3ヶ月と比べて年率換算で6%以上の高い伸びとなり、鉱工業生産指数は2月を底に8月まで6ヶ月連続のUP、8月には半導体出荷額が今年初めて前年比を越え、同月にはアメリカの自動車購入補助があったために自動車販売台数も前年を上回った。マクロ数字を見る限り、勢い良く回復を見せている製造業だが、求人に関してはなかなかいい話が聞こえてこない。
「ハイテクメーカーについて言えば、たそがれ期が終わる秋口以降には、次第に求人も回復するはず」という6月時点での予想とは若干相違する展開になりつつある。なぜ、求人は増えていないのか。
それにはいくつかの要素がありそうだ。
まず、今回もっとも面白い動きとして見て取れるのが、「業績が伸び悩むメーカーの余剰人員・設備を、回復期にあるメーカーが一時的に受け入れる」という動き。
すでに6月ごろから、複数の自動車メーカーが、精密機器系や機械系メーカーの余剰人員を半年から1年程度、期間限定で受け入れるというニュースが発表されていたが、この流れは今も勢いを増している。 完成車メーカーだけではなく、大手系列のサプライヤーでも、家電大手や同業の不振企業から従業員を受け入れる、といった提携話が次々に成立している。
一方では、世界的研磨メーカーが半導体製造ラインの一部に参加したケースや、自動車向け断熱塗料で有名な企業が、断熱の必要な自販機や住宅機材そのものの開発に携わるといった提携も進んでいる。
いずれも、設備拡張に入るのに二の足を踏んでいる好調産業が、余剰設備を抱える他業界のメーカーとのWin-Winな関係作りを模索したケースといえる。ファブレス(製品企画・開発)とファウンドリ(量産化・製造)という形で分業が浸透していたハイテク産業だからこそ、設備や人の貸し借りにも柔軟な答えが出せたのだろう。
おそらく景気の二番底警戒が解けるまで、こうした補完関係は続くものと思われる。
2つ目は、国内大手メーカーでは、業績回復の痛手になるほどのリストラを行っていなかったこと。つまり、社内に十分人材がいるから、まだ追加で求人を出すほどではない、ということなのだ。
確かに、新聞では超大型リストラを発表した家電大手も、その予定数の過半は非正規社員であり、残りの半分弱のうち、これまた過半がグループ内出向となっている。正社員の本格的なリストラ予定数は、新聞発表の4分の1以下であり、実際にはその予定数さえ埋まっていないケースが多い。
リクルートエージェントの新規求職者状況を見ても、新聞で大規模リストラの発表があったメーカーからの登録者はさほど増えていない。大手外資系PCメーカーや半導体合弁企業などからは、登録者が増えていることとは対照的だ。やはり正社員(とりわけエンジニア)の雇用は、国内大手ではまだまだ守られているのだろう。
3つ目は、企業が世間に知られないよう、ひそかに求人活動を再開していること。
そう、世の中的にはまだハイテクメーカーの求人は冷え切っているように言われているが、実際にはだいぶニーズが生まれつつある。しかし、つい最近までリストラを敢行していたり、休業補償手当を申請していた企業が、いきなり公募で求人を再開することは、世間体を考えてもはばかられるだろう。
こうした「外に出せない求人ニーズ」が、少しずつ転職エージェントには寄せられつつある。とりわけ、極秘案件として寄せられ、Web上でも公開されないケースが増えている。このケースにはいくつかの傾向が見られる。
などが挙げられるだろう。
いずれの企業も、かなり慎重に採用を行っているため、利用している転職エージェントも数社、時には1社に限定していたりする。当然、大量採用とはならず、欠員補充程度の採用予定人数にとどまっている。
職種に関しても、主力のエンジニア層は「いい人がいれば採る」的な待ちの募集であり、むしろ国際会計基準(IFRS)変更に伴う経理要員などが募集の主力になっていたりする。開発や生産にかかわるスタッフは、また二番底が来るのではないか、と当分の間、おっかなびっくりの採用となるのだろう。
ただし、欠員補充や管理部門人員の極秘求人とはいえ、あれほど冷え切っていたハイテクメーカーが、求人の門戸を開放し始めたことは注目に値する。増産と人員抑制のガマン比べに多少ほころびが生じ出している兆候と思われる。
政治経済的には、これから1~2ヶ月に重要なイベントが並んでいる。アメリカと中国の新年度政府予算の決定、ここで、景気刺激策が続くかどうか。日米欧が連携して金融緩和を続けるのか、それとも不況の出口戦略へとシフトを変えるのか。急激に進んだ円高がこの先どちらに振れていくのか。そして、鳩山民主党政権が実りある経済対策を実行できるのか。
これらのイベントに結論が示される年末ごろ、ガマン比べにも結論が出るはずだ。
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