高齢化の進展でこれから市場が広がると言われる医薬・医療業界。一方では、高齢者の医療費が伸びると、国民の負担が大きくなり過ぎるということで、社会保障費全体を切りつめようとする動きも見られます。HRmics編集長、海老原によるレポートをお届けいたします。※2013/08/29の記事です。
前回の医薬・医療業界のレポートでは、2012年度にこの業界の人材需要はボトムとなり、2013年度後半から次第に回復するという予測をお伝えしていた。この流れの根本的な原因は、2010年前後に大型新薬の上市(発売)が相次ぎ、一方で、2008年後半以降に、創薬ベンチャーへの投資が減ったことで、一時的に新薬開発のパイプラインが細った。その影響が2012年度に出たというところだろう。
現在は、まさに、ボトムから回復が鮮明になりつつある時期だが、その報告の前に、もう一つ、忘れてはいけない業界の大きな変貌をお伝えしておこう。
実は、2012年4月に、MR(医薬情報担当者=医薬品営業)の接待などについて業界内規定が厳格化されたのだ。まずは、規定の状況を示しておく。
■医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(メーカー公取協)
これはどのくらいの厳格化を意味するのか、業界に詳しい人に聞くと以下の通りという。
従来から、2の「説明会時のお弁当代3000円以内」と、3の情報交換会(立食パーティ)の上限2万円(これには、研究会後の慰労会も含まれる)はあったのだが、これは、よほどの高額な弁当や立食でもしない限り、上限を超えることはない。つまり、それほど「厳しい」ルールではなかったのだ。ここに1が入り、日常的な飲食・交際についても5000円まで、となる。立食で2万円がOKなのに、交際では5000円と、この規定はかなり厳しいものになるだろう。
これに、講演会、アドバイザリー会議などに関する4・5・6、そして2次会、接待ゴルフなどを禁止する7が加わり、厳格化がさらに進んだのだ。
会社が私的な経済行為を営む主体であれば、常識を逸脱しない範囲での交際は許されるべきではある。にもかかわらず、医薬・医療業界ではなぜここまで厳しい規定が作られたのか。その裏には、この業界ならではの理由がある。
もともと、医療費は、患者と国が払う。この国の負担分は、税金と社会保険料がもとになる。つまり平たく言えば、国民負担。こうした国民の汗したお金が、営業経費として無用にかさ上げされて費消されることは、倫理的にも良くないという声があった。
そこで今回、こうした費用は、新薬の開発や、MRの情報提供力を向上させるための教育投資に振り向けようと、業界全体で取り決めたわけだ。
この流れの中で、MRの資格試験の対象範囲が広がり、また、旧来の免許取得者も、更新制で定期的に知識を更新する必要が出てきた。つまり、交際接待から教育投資への移行だ。
当然、新薬開発が盛んでMRの接待攻勢が必要だった国内大手メーカーは、果たしてどのように業務が変わっていくか、様子見をするために採用を控えていた。一方で中堅中小系も、接待が減る分、今度は本格的な医薬医療知識で自社製品をアピールすることが重要となり、結果、教育投資はどうすべきか、と 思索を練る時間が必要だった。
そんな「様子見状態」が、12年度に人材需要がボトムとなったもう一つの理由ともいえる。
こうした中で、ようやく方向性がまとまりつつあるというのだ。
まず、大手などは、固定的に売れるような旧薬領域では、医師・病院との密着性が不要となるため、ここをCSO(MR派遣)などに置き換え、代わって重点領域に特化する。そうすると、大手からは旧薬を中心に人肌営業をしていた人が、職を追われ、彼らがCSOに移動するという流れが生まれた。これが企業主体の業界の人材移動。
一方で、個人(MR)の側からすると、これからは、交際ではなく専門性が勝負となるために、小さくとも重要分野で先端商品を持つブティック型メーカーを志向する人が増えた。そのため、こうした会社の募集には、かなり多くの人が集まる、という流れが生まれてきた。
整理すれば、大手メーカーの人材に関していえば、①一般薬系は人員整理、② 先端系に関しては、専門メーカーへの流動、という形で、かなりスリム化が進んだ。それが、2013年前半までの動きで、いよいよこれから市況が活性化する直前に、採用余力が十分にある、という状態なのだ。
2014年からの新薬ラッシュ前に、既に業界の地ならしは進んでいると言えるだろう。
さて、この状態で、大手メーカーはどのような動きをするのだろうか。
確かに、オンコロジー(癌)や高脂血症、認知症、糖尿病などの、高齢化に伴い需要が増える領域の先端分野では、人肌営業から、知識主導の専門型営業へと変貌しつつある。こうした最先端領域では、専門中小メーカーからMRを迎えて対応力を上げていく、という動きが活発になっていくだろう。すでにその流れは始まっており、早々に専門メーカーに動いたMRが、昨今、大手に再転職するといったケースが徐々に増えてきてもいる。
ここまでは想定通りとなのだが、では、一般薬に関してはどうなるのか?
こちらでは、接待こそなくなったものの、人肌営業がやはり今後も根強く残るという。(これは既報した話だが)その裏には、なかなか進まないジェネリック転換問題がある。
結局、ジェネリックフリーになった処方箋でも、実際に薬局にて「ジェネリック指定」をする人は少ない。薬局側から「ジェネリックはどうか」と質問を受けても、拒否する患者まで多いという。確かに、ジェネリックフリーでも、未だに薬剤師の多くは担当医師にその確認をするケースが多く、そこで時間がかかるので、忌避するというのが理由の一つ。もう一つは、国民皆保険制度のため、単価が100円安くなったとしても、患者が払う自己負担分はその3分の1となり、支払いは33円しか変わらない。とすると、そこまでして、今まで使ったことのないジェネリックにするより、慣れていて薬効もよくわかる旧薬のままで、と考えてしまうことにもあるという。
とすると、今回のMR基準は何を生み出すのか。
新薬での専門性重視が強くなる以外は、今まで通り人肌営業が続く。しかし、その多くがCSOに代替され、しかも、接待はない。結果、人件費削減と営業経費削減が同時に達成でき、メーカーの懐を暖かくすることになるのではないか。
それが、薬価の引き下げ余力や、研究開発投資の増額、そして、MRの増員による業務負荷の軽減や教育投資の拡充につながっていくのではないか。
そうしたグランドデザインの変更と前後して、2014年以降の新薬ラッシュが始まる。そこで、若手人材採用増加、彼らへの徹底教育、という流れが生まれるのではないか?
本格的な業界進化の予兆を感じる。
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